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浅野いにおが大好きで大嫌いな男が全人類に映画「デデデデ」を見てほしい理由

お客様の中にもし「浅野いにおだから」「名前がアレだから」という理由で映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」を見ていない方がいたら、騙されたと思って見に行ってみてほしい。私が言いたいのはそれだけです。

僕が浅野いにおに出会ったのは大学生のときでした。

初期作品である『ひかりのまち』『素晴らしい世界』を読み、“どこにでもいる人たちのかけがえのない人生”の肯定、エモめな「生きててえらいよ」メッセージをビンビンに受け取ってしまった僕は頭がすっかりヴィレッジヴァンガードになってしまい、『ソラニン』が映画化されるころにはすっかり「アレもいいんだけどいにお作品としてはちょっとポップすぎて~」などとのたまうサブカルクソ野郎になり果てていました。

虹ヶ原ホログラフ』は「これもうエヴァやん……」と震えながら考察をかまし、浅野いにおのおそらく一つの到達点である『おやすみプンプン』は一時期史上最高の漫画と絶賛していました。が、大人になり経験を重ねるにつれて次第にプンプンのエターナル鬱展開がうっとうしくなってきて「現実だって大変なんだけど? 漫画でまでそんなにしんどいアピするのやめてっ!」と反転アンチ化。途中で読むのをやめて、その後いにおとは距離を置いて生活してきました。

なので『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』も「タイトルのセンスキモッ」と思ってそのまま触れることなく過ごしてきました。で、気付いたら完結してて映画化するらしいので10年ぶりくらいにちょっといにおでも読んでみるか、と原作に手を出してみました。そしたらどうか。私は「ぐえー」と唸りました。

あまりこういう気持ちになったことないんですけど、好きなところと嫌いなところがあるのでなく、「ここめっちゃ好きだなあ」という部分が同時に「こういうとこがめっちゃ嫌いっ!」でもある。面白いんだけどあちこち鼻につく。これが音に聞く「愛憎」という感情なのかと思いました。心がふたつある~。

言語化のため以下はなるべく心の半分の部分で書きますが、映画見たらこれがまた結構出来がよかったんです。そのへんをあんまりネタバレなしで簡潔にまとめます。


「セカイ系」の中での「日常モノ」

デデデデがどういう話かというと「巨大な円盤が東京に襲来したけどただちに世界が滅ぶわけでもないまま3年経ってなんか慣れちゃった」世界での日常を描いた話です。主人公は女子高生の門出とおんたん。

円盤が浮遊してる世界の日常(以下、画像は予告より)

キャッチコピーにもなっているとおり「地球がくそヤバい!」という状況なのは空を見上げれば一目瞭然なのですが、この世界の住民たちは「あーこの恋の行方どうしよー」とか「新作ゲームたのしみー」とか言ってアホほどのんきに普通に生きている。こういう感じが浅野いにおの真骨頂かつヴィレッジヴァンガードなところだと思います。ムズムズしますね。好きです。

連載開始当時の3.11や原発問題を反映したら後のコロナ禍とかロシアウクライナとかの情勢にもつながってしまったという世界観が今見てもリアルです。天気予報みたいに「今日の円盤情報は~」みたいなニュースが流れるのもいい。

原作より映画のほうがテンポがいい

そういうSF的なワクワク感がかなりあるのに、日常モノ特有のだらだらしたやりとりとかもかなりの尺で繰り広げられるので見てるほうは「何を見せたいねん」と困惑すると思います。そういうとこだぞいにお。でもそれこそがやりたかったことなんだよないにお。

いにおファンとして擁護すると、当然そんなぬるま湯をぬるま湯のまま終わらせるようなことをいにおはしません。そのへんの日常パートを伏線として色々びっくりドキワクな展開が起こるんですが、このへんのバランスは時間的制約がある映画のほうがかなりうまいことできてると思いました。脚本家の吉田玲子さんが優秀な方らしいです。

基本的にこういうのは原作厨になる僕ですが、「デデデデ」に関してはまず映画だけ見ればいいというくらい映画の出来がいいです。だからこそタイトルから何からイロモノ感強いのが惜しいと思っている。

声優がハマり役

これもかなりの人が言ってましたが、YOASOBIでおなじみ幾田りらさんとあのちゃんが声優をやっていて、タレント声優とは思えないほどハマっています。特におんたん役のあのちゃんはドラえもんののぶ代、まる子のTARAKO、マキバオーの犬山犬子かってくらいハマってます(世代の出る例)。

浅野いにおのクセを象徴するようなキャラ

太眉変人系女子高生というサブカルの化身のようなアクの強いキャラにあのちゃんの喋り方がおそろしく合ってる。僕は正直あのちゃんが生理的に苦手なレベルでアレなんですが、本作に関しては文句のつけようがないくらい適役だと思いました。

『ドラえもん』のパロディとして生まれた漫画

作者も言ってますが『デデデデ』は『ドラえもん』の再解釈的な発想から生まれたそうです。作品世界での人気漫画として「イソベやん」というのが登場し、現実世界にも徐々に呼応してくるという構造になっています。

便利な「ないしょ道具」を出してくれるイソベやん

いわゆる「リアルドラえもん」的なパロディって昔から鉄板のネタですし、それを浅野いにおがやるんだから面白くならないわけがない。「ドラえもんじゃん」という視点で見ると『デデデデ』はめちゃくちゃわかりやすいし、笑えるシーンも増えます。

そんなキャッチーな構造のくせに『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』とかいうクソキモサブカルタイトルにしちゃうところがいにおのいにお性なんだよなあと思う。『おざなり君』のスタイルもできるのに……。すいません、今愛憎が出てしまいました。

そんなわけでタイトルのわりには普通にめっちゃ面白い、でもやっぱ結構キモい作品「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」のいいところ(?)をあげてみました。色々言いましたが、もうちょい売れていい作品だと思う。でも実際めっちゃ売れたりしたら「そんないいもんじゃねえよ!」ってキレると思う。僕は浅野いじおをこじらせているので……。

映画は現在公開中のものが「前章」で5月24日に「後章」が公開予定。原作とは違うラストになるそうなので僕も楽しみにしています。

以下、ネタバレありで思ったこといくつか書き残しておきます。

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