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【創作SS】笑えない藁の案山子

 藁の案山子は、ふと思いました。
(人間は笑ったり、泣いたり怒ったりしてる。俺も笑ってみたいもんだ)
 近くにいた他の案山子に聞いてみました。
「みんなは、笑いたいと思わないのか」
「案山子は案山子、ただ、そこに居るだけさ。笑ったり泣いたりする必要はないね」
他の案山子からは醒めた返事しかきませんでした。
それを聞いていた雀が言いました。
「西の果てに、どんな夢でも叶うガンダーラという土地があるらしい。君が「笑いたい」という夢を叶えに行くなら、僕も一緒に行こう。僕は鳥の王様になりたいんだ」
 他の案山子たちは、笑うことはありませんでしたが、旅立つ案山子と雀を冷ややかに見送りました。

 雀と案山子は、ひたすら西に向かいました。
 雨にも風にも負けず、夢を追いかけます。
 他の鳥や獣に襲われても、逃げたり隠れたりしながら、ガンダーラを目指します。

 ある村を通り抜けようとした時、村が騒然としていました。
「火事だー」「火事」「水持ってこーい」
様々な声の中に
「逃げおくれた子どもがいるらしい」
悲痛な叫び声が混じっていました。
 雀と案山子は火事の場所に駆けつけました。
 ゴウゴウと火の手が上がり、バキバキと崩れる音が混じります。
 案山子は近くの水桶に飛び込むやいなや、燃え盛る家に飛び込みました。
「お前、藁のくせにー」
雀は呆然として、地面に倒れました。
 
 そして
 ガラドラドガドガーン。
 大きな音を立てて家が崩れてしまいました。
「案山子くーん、案山子くーん」
雀が瓦礫に向かい叫びました。
 
「おまたせ、子どもは助けたよ」
雀の背後から声が聞こえてきました。
「水をたっぷり含んだ藁は、燃えないんだぜ。玄関に戻れなくて、裏口から逃げて人混みを回りこんだから、遅くなった。待たせて悪かったね」
雀は安心して、オンオン泣きだしてしまいました。
「無茶しやがって。死んだら、笑えないんだぜ」
絞り出すようにして、案山子に言いました。
「けど、子どもを見捨てたら、ガンダーラに着いても笑うことができない気がしたんだ」
その言葉を聞いた雀は思いました。
(君と旅ができて良かった。鳥の王様にはならなくてもいい。君のために旅を続けたい)

  次の日、また旅を続けようとしましたが、村から出たところで、案山子の藁色が悪くなり、体からは嫌な匂いも出てきました。
「案山子君、具合が悪いのかい。村で医者を探そうか」
「雀君、僕の旅はここまでらしい。藁が腐りかけてたけど、昨日の水と火で一気に腐食が進んだようだ。僕は土に還る。今までありがとう。
 君と旅が出来て楽しかった。最後に子どもを助けられたなんて、案山子冥利に尽きるよ。
 ガンダーラに辿り着けず、笑えなかったけど、良い藁生だったと思う」
語り終えると静かに目を閉じました。

「案山子くーん、目を覚ましてくれよ。今、君、笑ってるよ。凄くいい笑顔だよ。お願いだから目を開けて鏡を見てくれよ。
 願いは叶ったんだ、ここが君のガンダーラなんだ」
 雀の声を風が掻き消しました。
 雀の涙を雨が流しました。

 しばらくして、案山子たちが旅を終えた場所の近くに、小さな小屋が建ち家族が暮らし始めました。
 村を追われて荒地に来た家族でしたが、不思議なことに、家族が来てから荒地は肥沃な大地に変わり、沢山の麦が採れるようになりました。

 荒地の畑を縄張りにする雀の家族は、麦を食べようとせず、害虫や他の鳥たちから麦畑を守ろうとしているようでした。

 時がたったある日、顔に火傷痕が残るお母さんが、小さな娘に言いました。
「うちの麦畑は、鳥の王様がいるから安心だわ」
お母さんもにっこり、娘もにっこり笑いました。

 笑顔に溢れる家族は末永く幸せに暮らしました。
(本文ここまで)
りみっとさーん、事前にお断りせずにすいません。
こちらの作品に登場する

「笑わない藁の童」を使わせていただきました。
「傑作」とは言えませんが、このまま掲載させていただけたら嬉しいです。
 駄目な場合には削除します。

 昨日、りみっとさんの作品を拝読し、「笑わない藁」に嵌ってしまい1本創作しました。
「交流から生まれる物語」が福島文学です。
 りみっとさんありがとうございます。
#何を書いても最後は宣伝
 本編とは関係ないですが、農家の物語がこちらです。

また、福島太郎は11月11日に開催される、「文学フリマ東京37」に出店予定です。皆さまと交流できますこと、楽しみにしています。

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