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【創作小説】会津ワイン黎明綺譚(第3話)

3 夏の戯れ

 事件と表現するほどの事ではないが、事案はゴールデンウィーク最終日の夜に起きた。

 その日東京のデパートで物販イベントを終えた菊地は、郡山駅で東北新幹線から磐越西線に乗り変える前に、キオスクでウイスキーの水割り缶を三缶購入した。既に三本の缶ビールを飲み干していた、苛立つ気持ちを止めることができず杯を重ねた。
(どうして、こんな無駄なイベントで休日を潰さなきゃならないのか。無駄な予算と時間を使って物販イベントに参加したところで、東京の人を喜ばすだけのこと。観光客が増えるはずも地場産業が育つ訳もない。もっと村に興味を持ってもらえるような、人的交流を増やすような仕掛けをしなきゃならない。産業を育成する仕事をすべきなのに)
 水割りを口にしながら考える。大学を卒業する際には中央官僚という選択肢もあったが、現場から国を変えるような仕事がしたいと考え、村役場に就職することにした。ようやく「ふるさとサポーター」という企画を通すことが出来たが、未だに村を大きく変えるような仕事ができていない。そんな忸怩たる思いがあった。
 学生時代の友人数人が、イベントに顔を出してくれたが、法被を着て、米や山菜などを販売する菊地に対して、蔑むような眼で見ていると感じたことも、菊地を苛立たせていた。
 村のことを知りもしないのに、東北の小さい村というだけで馬鹿にする。
 桃ちゃんとは大違いだ。
 桃子が村に来て一ケ月ちょっと。菊地が想定していた以上に、桃子は良い仕事をしてくれていた。村に飛び込み、自分たちが見過ごしていた村の魅力を掘り起こしてくれた。
「菊地さん、日枝神社に湯殿山の石碑がありますよね。どうしてですかね」
「あるのは知っているけど、昔からある物だから、理由は考えたこともないな」
「湯殿山って山形でも、北の方にある鶴岡市ですよね。ここから喜多方を経由して米沢との交流があることは考えていましたけど、米沢から更に北の鶴岡と文化的な交流があったって凄いですよね。その辺りの話、誰か知っている人いないでしょうか。仏教だけではなく神道も、会津若松から新潟への東西、関東から山形へ向かう南北がここで交差し、一つの文化を醸していたのですね」
 桃子と話をしたい。
 新鶴村は、会津若松市はもちろん、会津地域の近隣町村とくらべても「何もない小さな村」と言われていた。弘安寺(中田観音)が「会津ころり三観音」という位置づけになっているが、会津高田町の伊佐須美神社や柳津町の圓蔵寺のようなネームバリューや集客力は無い。会津鶴ヶ城や飯森山のような歴史的な観光資源もない。
 もし、桃子が村の魅力と感じていることを掘り起こし、物語としてブラッシュアップできたら、もっと村を活性化できるかもしれない。
 そんなことを考えていると、桃子に会いたい気持ちが大きくなった。桃子とゆっくりと村の話をしたいとの思いが抑えられず、会津若松駅で只見線に乗り換えることなく、改札を出てタクシーを拾い、運転手に桃子の住所を告げる。
 まだ、寝るような時間じゃないだろう。

【会津ころり三観音】
 会津ころり三観音は、福島県会津地方の大沼郡会津美里町根岸の弘安寺(中田観音)、河沼郡会津坂下町塔寺の恵隆寺(立木観音)、耶麻郡西会津町野沢の如法寺(鳥追観音)の三観音をあわせて、会津ころり三観音という。

 人間は生を受けてのちは三毒、貪(とん=むさぼること)、瞋(しん=いかること)、痴(ち=おろかなこと)に よりもろもろの苦悩を受けることになるが、この三観音に巡拝し、罪障消滅を祈願することにより、その苦しみが除かれ、現世においては子孫繁栄、万願成就、寿命安楽などがかなえられ、やがて大往生を遂げられるという。
 特に観音堂内にある抱きつき柱にすがれば、死の床に際しても苦しまずに成仏でき、家族に余計な負担をかけずにすむということで「ころり」三観音と呼ばれるようになった。

ウィキペディア(Wikipedia)より引用

 夕食を済ませ、二階の自室で寛いでいた譲二は、聞きなれない車のエンジン音を不審に感じ窓から外を確認した。一台のタクシーが走り去っていく姿が見えた。そのまま一階に下りてリビングにいた母に聞いた。
「誰か来たのか」
「うちには来てないわよ。予定も無いし。あんたの客じゃないの」
「そんなはずは無い」
 二人が訝しげに顔を見合わせていると、外から男性の声が聞こえてきた。桃子の家に誰かが来たようだが、中に入れてもらえない雰囲気が伝わってきた。聞き覚えがある声に譲二は顔を顰めながら外に出て、玄関前にいる男に声をかけた。
「良樹こんな時間に何をしている」
「いや、何をしている訳じゃなくて、出張で東京に行ったので、桃ちゃんにお土産を渡そうと思った。早く渡したくて届けに来た」
「良樹、家まで送ってやる。車に乗れ」
 菊地を咎めるようなことは言わず、静かな口調ではある。しかし、少し怒気を含む声に、菊地の顔色が変わる。菊地の息は酒臭く、呂律も怪しい状況で、かなり飲んでいることを譲二は察した。
「そうだな、もちろん帰る。ただ、このことは」
「俺からは、誰にも言わない。ただし、何かあれば大藤さんに味方する」
「うん、それは、そうしてくれ」
「母さん、良樹を家まで送ってくる。かなり酔っているらしい」
 玄関前に居た母に声をかけ、小声で囁いてから車を出した。
「大藤さんは、怖かったと思う。フォローを頼む」
 残された佳代子は、玄関越しに声をかけて桃子を自宅に誘った。怯えの色が隠せない桃子をリビングの椅子に座らせ、優しく声をかけながらお茶の準備をする。
「ゴメンね、吃驚したわね。多分、今頃譲二が、きつく説教していると思うから安心して。お茶でいい?いつものことだけど、若い子が好きな、気の利いた飲み物がなくてゴメンなさいね」
「いえ、お茶が一番ありがたいです。ありがとうございます」
「こうして普通にお茶が飲めるから良い時代よね。ちょっと前までは、この辺りでは飲み水にも苦労していたし、お茶は高級品で、具合の悪い時に飲む薬みたいなものだったの」
 お茶の香りが二人を包む。程よい色合いのお茶と、お菓子を桃子の前に置き、佳代子も椅子に腰をかけた。桃子は湯呑をゆっくりと口にして香りと味を楽しんだ。
「御種人参も、今はお茶にして飲んだりしますけど、昔は薬だったんですよね」
「そう、御種人参は、会津のお殿様がこの地に授けてくださった薬なの。今度、時間ができたら、若松にある御薬園を見に行くといいわ。昔、お殿様が、お茶とか御種人参とか、様々な薬草とかを栽培していた場所が今も残されているの。庭が綺麗で、心地よい水音がする池もあるし、お抹茶が飲める茶室もあるの。東山温泉も近いから入ってくると良いわ」
「時間がある時に、佳代子さんと一緒に行きたいです」
「あら、嬉しいお誘いね。けど、嫌じゃなかったら、佳代子さんじゃなくて、お母さんと呼んでくれるかしら。昔から大家と言えば親も同然と言うのよ」
「佳代子さん、それは流石にちょっと申し訳ないです。けど、住民の健康づくりのために、薬草を栽培していたなんて、優しい殿様だったんですね」
「優しいというか、今の言葉で言うと産業振興かしらね。米が獲れにくい土地でも、珍しい薬草を育てることで、収入を上げさせようとしていたのね。その他にも災害に備えて備蓄米を準備したり、日新館という学校を創り人材育成をしたり、歴代のお殿様は、確かに優しい殿様だったわね。今の政治家に見習わせたいわ」
その善政が領民の忠誠心を育み、結果として戊辰戦争の悲劇に繋がった部分もあるのかもしれない。戊辰戦争後の斗南藩における壮絶な困窮に繋がったのかもしれない。
ということを桃子は思い浮かべたが、口に出すことは控えた。
「譲二さんも、優しいですね」
「あの子はぶっきらぼうだから、冷たく感じる人が多いのに、桃ちゃんはそう言ってくれるのね、ありがとう。けど、何か嫌なことがあったら、アタシに言ってね。お母さんは桃ちゃんの味方だから、何かあったら、あの子の方を追い出すからね」
「嫌なことなんて何も無いです。色々と教えていただいているのに、お役に立てなくて申し訳ないです」
「農業を始めて、一ケ月やそこらで役に立つなんて無理よ。アタシだって、何十年も農家しているけど、どれだけ役に立っているかわからないわ。けど、桃ちゃんが来てくれて、初めて、娘が出来たみたいな気持ちになれて嬉しいの。ありがとう」
「譲二さんなら良いお嫁さんを迎えるでしょうから、素敵な娘さんができますよ」
「駄目、駄目、あの子は結婚する気が無いみたい。結婚どころか恋愛をする気も無いみたいね。妙に頑固なところがあるから、諦めているわ」
「恋愛をしない?」
「昔、お付き合いしていた彼女に逃げられてから、女性不信というか、恋愛が嫌になったみたいね。その頃は、あの大きな体がやせ細って、面白かったわよ」
「逃げられたって、菊地さんも言っていましたが、振られたのとは違うんですか」
「まぁ、振られたには違いないんだけど。譲二と良樹君の幼馴染で智恵子さんという子がいたのね。譲二とは高校からお付き合いをして、いずれ二人は結婚するだろうと考えていたけど、智恵子さんは一人で東京に行ってしまったの。詳しい事情がわからないけどね。譲二のことが嫌いになったのか、農家の嫁が嫌だったのか。理由はわからないまま。
わかっているのは、それから、譲二は女性に対する興味を無くしたということ。周りが心配して見合い話を持ってきても、話も聞かないのよ。もしかしたら、智恵子さんが戻ってくるのを待っているのかもしれないわね。まぁ、あの子の人生だから、構いやしないけど。
ただ、良かったのは、智恵子さんに逃げられてから、急に葡萄作りに熱心になったの。まるで美味しい葡萄ができたら智恵子さんが戻ってくるという、願掛けをしているみたいに。変な子よ。あ、変な子が帰ってきたようね」
 佳代子は、玄関の方に声をかけた。
「譲二、お茶飲む?」
そして、桃子の方に向き直り、
「智恵子さんに逃げられた話は、あの子の前では内緒ね」
桃子にウインクをしながら囁いた。
 譲二は頭を下げながら、リビングに入ると母の隣に座り、桃子に話しかけた。
「恐い思いをさせたな。もう、大丈夫だと思う」
「ありがとうございます」
「もしかしたら、今までも、こんなことがあったのか」
「いえ、菊地さんが来たのは初めてです」
「良樹以外には、何かあったのか」
「何人かの方から、桃ちゃんの家で宅飲みしたいとか、休日に遊びに行こうというお誘いはありました。全て断りましたし、家まで来るような人はいませんでした」
「全く、とんでも無い奴らだな。良樹に限らず、変な奴がいたら教えてくれ。俺からも釘を刺す。アンタは大事な預かり者だからな」
「ありがとうございます。けど、その度に譲二さんに迷惑をかけることはできませんから、私が、隙を作らないように、もっとしっかりするようにします」
佳代子も会話に加わる。
「けど、若い女の子の一人暮らしだから、これからも変な輩が出ないとも限らないわよ。心配ね。私らの若い頃は、女の一人暮らしだとバレないように、洗濯ものを干す時に、男物のパンツを一緒に干したりしていたけど。桃ちゃん、試しに譲二の下着を何枚か使ってみる」
「母さん、新品を使えばいいだろう。わざわざ俺のじゃなくても」
「いえ、下着はあんまり効果が無いと思います。一人暮らしと村中にバレバレですから」
 桃子は少し考えた後に、悪戯を仕掛ける子どものような顔で提案した。
「私と譲二さんが、お付き合いしていることにしたら、他の男性が近づかなくなるかもです」
「あら、それは良い考えね。魔除けの狛犬みたいな感じね。譲二、そうしなさいよ」
「お付き合いしている振り?そんな、人を騙すようなことはしたくない」
「じゃぁ、本当にお付き合いしますか」
屈託の無い笑顔で桃子が返す。
「悪いが、それはもっと嫌だ。そういうことは、好きな人とするべきだ」

 佳代子がバタン!と、テーブルに手を突いて立ち上がった。

「譲二、ガタガタ、ガタガタ言ってんじゃないの。桃ちゃんに恥をかかせてどうするの。そういう態度は止めなさい。いい、目の前に困っている女の子がいるの。人として、それを助けなくてどうするの、また、恐い思いをさせる気なの。
今、あんたはお付き合いしている女性もいないし、これからもする気は無いんだから、二~三年、付き合っている振りくらいしてあげなさいよ」
「・・・・・・」
「譲二、桃ちゃんにお願いされて恋人の振りをするんじゃなくて、あんたから、頭をさげてお願いするのよ」
 譲二としては、どうしてそういう話になるのか、ついていけない気もしたが、一度は佳代子の勢いに従うことにした。親に逆らうことも、困っている人を見捨てることも性分に合わない。
「アンタの任期が切れるか、アンタに好きな男ができるまで、期間限定で恋人役、虫よけ役をさせて欲しい」
「はい。よろしくお願いします」
 桃子は頭を下げたものの、瓢箪から駒というか、嘘から出た誠というか、譲二が話を受けるとは考えずに提案したことなので驚いた。佳代子は大きく頷くと譲二に諭した。 
「いい、あくまでも振りなんだから、清く、明るく、正しいお付き合いにするのよ。桃ちゃんが、良い人を見つけるまで、あんたが守ってあげなさい」
「わかった。母さんに恥をかかせるようなことはしない」
「桃ちゃんも、それでいい」
「はい。けど、譲二さんに好きな人ができたら、そこで終わりにしてください」
「これで、私は、桃ちゃんにとって、振りとは言え「会津のお母さん候補」に昇格ね。お母さんなんだから遠慮しないで何でも相談してね、それと今までよりも仲良くしてね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします、お母さん」
 桃子に笑顔が戻ったのを確認して譲二はリビングを後にした。階段を上りながら、母にしてみれば大藤を守るというより、自分が「会津のお母さん」になりたかっただけなのかもしれないと気づいたが、母が喜ぶならそれも良いと考えることにした。
 この日から桃子と佳代子が一緒に過ごす時間が増え、村人の羨望を集めた。

 ゴールデンウィークが明けてから特に菊地と桃子の関係はギクシャクすることはなく、桃子はふるさとサポーターとして活躍を続け菊地は良いマネージャーを続けた。
「菊地は桃ちゃんに振られたらしい」
という話が周囲に広まり二人を冷やかすような発言が少なくなり、仕事がしやすくなったのは良い効果と言えた。

 しかし桃子の快進撃は、夏に入り一時停止を余儀なくされた。
 田島祇園祭の前日の夜に、桃子は39度の熱を出した。
 三ケ月半、全力疾走、全身全力で「ふるさとサポーター」として活動してきた疲れが出たと、周囲の誰もが考えた。
 7月21日の夜には「明日、熱が下がれば、祇園祭りを見に行きたい」と言っていた桃子だったが、22日の体温計を見て休養することを決めた。桃子を一人にすることを佳代子が心配し、譲二宅の客間で療養することにした。
 昼食を食べた後、桃子は布団でうつらうつらしながら、これまでの活動を思い出していたが、熱を出した自分が情けなく、時々涙が零れた。
 部屋の外に人の気配を感じ、タオルで目元を拭った。
「休んでいるところ、すまない。少しだけ入っていいか」
 桃子の返事を受けて、譲二が部屋に入ってきた。
「良樹に状況を報告したくて様子を見にきた」
「熱は8度台に落ちてきましたので、今日、明日くらい休めば大丈夫だと思います」
「焦らなくていい、ゆっくり休んだ方がいい」
「せっかく会津に来ることができたのに、こんな役立たずで、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。けど、まだ、ここに居させてください」
 桃子の目から、ポロポロと大粒の涙が零れた。
「いや、もちろん居てくれて構わない。母さんも居てくれた方が喜ぶ。すまん、上手く言えないが、アンタを虐めたい訳じゃないんだ」
 譲二は慌てて言い訳をしようとしたが、上手く言葉が出ないようで、手をバタバタとさせた。その仕草がちょっとおかしく、桃子を安堵させた。
「とにかく、無理をしないで、ちゃんと食べて寝ることだ」
「はい、ご迷惑をかけて、申し訳あり・・・・・」
最後は言葉にならなかった。情け無さと、悔しさ、切なさが胸に込み上げ、嗚咽として口から洩れた。 
いたたまれなくなった譲二が、逃げるように部屋から出るのと入れ違いに、佳代子が部屋に入ってきた。
「あんたの分は台所にあるから」
譲二の背中に声をかける。
「桃、食べられそう?」
「はい、いただきます」
桃子は布団から半身を起こし佳代子から小さなお盆を受け取った。
「無理しないでいいから、食べられるだけ食べてね」
「ありがとうございます。桃ってお盆過ぎのイメージでしたけど、こんなに早い時期から食べられるんですね」
「この辺りも、普通に出回るのはお盆過ぎね。今日の桃は、譲二に桑折町まで買いに行かせたの。あの辺りは早生の桃があるから。ちょっと嫉妬しちゃうわね。母親が具合悪くても何もしないくせに、桃ちゃんのためには100㎞以上ある桑折町まで桃を買いに行くんだから」
「私が『預かり者』『お客さん』だから、気を使っていただいたのかと」
「けどまぁ育てた身で言うのも何だけど、どうせ桃を買うなら花も買ってくればいいのに。気がきかない子でごめんね」
「桃の花も、食べられるんですか」
「まさか食べないわよ。花ことばよ、花ことば。桃ちゃんも名前に桃が付くくらいだから、桃の花言葉を知っているでしょう」
「知っていますけど、そんなことはあり得ないですよ」
「桃ちゃんみたいな可愛い子と、あの子がどうこうというのはあり得ないかもだけど、桃ちゃんに惹かれているのは間違いないわ。女の勘というか、母の勘というか、確信に近いものがあるわ。迷惑だと感じた時とか何か変なことされそうになった時は、言ってね」
 頷きながら桃を口にした。少し固い食感で甘さも少ない感じがした。
(なんだか譲二さんみたい)
そう考えがら、咀嚼して飲み込んだ。
「譲二さんは恋をしないつもりって、お母さんが言っていたじゃないですか。私が相手にされるはずもないです。けど桃は美味しいです、ありがとうございます」
桃子は柔らかい笑顔を浮かべた。
「良かったわ。ゆっくり休んでね。そうねあの子は恋をする気は無いかもだけど恋は落ちるものだから、いつの間にかそうなっちゃうものよ。桃ちゃんも誰かと恋に落ちるかもしれないわね」
「今は恋よりも、元気になってお母さんと一緒にお出かけするのが楽しみです」
「もちろんよ。まだまだ案内したいところは一杯あるから」
 食べ終わったお盆を受け取ると佳代子は静かに部屋を後にした。
 桃子は横になり瞼を閉じた。苦しさが少し和ら、ゆっくりと眠れそうな気がした。

【桃の花ことば】
「私はあなたの虜」「気立ての良い娘」「恋の虜」「チャーミング」などとされている。
(第3話ここまで)

第4話

第2話


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