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リアルとアンリアル (誕生日のメッセージ2023)

今年も誕生日を無事に迎えることができました。健康で仕事ができることに感謝します。同時に、多くの皆さまに支えられて1年を過ごせたことを思い出しています。改めて御礼申し上げます。

今年の誕生日は我が母校、秋田の地に参ります。市内の「中通総合病院」でテストスキャンをし、その後は懐かしの同級生たちとの再会を楽しみにしております。

これまで進めてきた乳がん検診のことは、重要なものなので、別ページで詳しくご報告します。今日は、私が昨日感じた「リアルとアンリアル」について書いてみたいと思います。

そよぐ風、 風鈴の音(ね)、 鳥の鳴き声

誕生日前日、5月16日は、奈良県の「グランソール奈良」でのテストスキャンに向いました。榛原駅という駅に到着し、お迎えのバスを待つ間に、駅のそばの開放的なカフェで30分ほどを過ごすことにしました。

ちょうどお天気がよく、5月の生命力溢れる陽光が静かに降り注いでいます。このカフェはドアの代わりに広い開口部を持ち、心地よい風がときおり店内に入ってきます。

風が吹き抜けるたびに、風鈴がチリンチリンと涼し気な音をたて、落ち着いた店内の雰囲気を引き立ててくれます。遠くからは鳥のさえずりが聞こえました。

籐製の椅子に身を沈め、香り高いコーヒーを片手に、都会の喧噪と忙しい時間から一時的に解放されることができました。思考に浸りながら、久しぶりに感じる開放感は、リアルな快感でした。

バーチャル

現在、AIの進化は急速に進み、Stable Diffusionという技術を駆使することで、画像を自由自在に生成することが可能となりました。適切なプロンプトを設定すれば、驚異的なクリエイションが生み出せるようになります。

仮に高精細なVRゴーグルを装着し、仮想現実の世界に足を踏み入れ、そこから巧みに作り出された風鈴の音や鳥のさえずりが聞こえてくるとしたら、その体験はどのようなものになるでしょうか。

風の生成については、それが持つ自然なゆらぎを再現するのは難しいかもしれませんが、すでに多くの研究が行われており、一定の成果が上がっています。五感すべてを人工的に模倣し、置き換えることが可能な世界は、すぐそこまで迫っているかもしれません。

一度都会を離れ、田舎の真実のリアリティに触れると、電磁波の影響が少ないその環境が、真の開放感をもたらしてくれるかもしれません。しかし、急速に進歩する現代科学が、現実と同等の体験を提供する日が近いのかもしれない、という予感もまた、私たちを包み込んでいます。

天空への羅針盤

私はカーナビをノースアップで使用するタイプの人間です。車が下向きに進行しているときでも、ナビが示すルートが右折か左折かを瞬時に把握し、道に迷うことはありません。それどころか、下向きで右折するという行為が、同時に西への旅を意味することも直感的に感じ取ることができます。

しかし現代の世界では、ヘッドアップ表示が主流となっています。だからといって、何も困ることはありません。なぜなら、目前に広がる風景がどちらの方向を示しているかが、通常は最も重要なのです。そして、その直感に従って行動することに、何も問題はありません。

私の方向感覚は、ただ地図を眺めるのが好きだったから得られたのではありません。中高生の頃に天文部に所属していた私は、毎日、曇り空であろうとも空を見上げることが日課でした。星座早見版だけでなく、本格的な星図を手に入れ、その地図と星空を見比べる日々を過ごしました。

その結果、「この季節のこの時間なら、この方角に見えているのはこの星だ」ということが、直感的に理解できるようになりました。星空を毎日見ているうちに、星々の配置は私の頭の中に立体的な地図として刻まれていったのです。

南半球

私は一時、自分が星空の全てを理解していると錯覚していました。 しかし、後に待ち受けていたのは、想像を超える驚きの経験でした。

それは、南半球のオーストラリアで起こりました。南の大地では、より南にある星たちが私の視界に入ってきます。

日本では、夏の南の空低くみえる、さそり座や射手座。馴染み深い明るい星座が輝き、天の川が際立つ空。それらはすべてが私の掌の上にあるかのように理解できるはずでした。

しかし、さそり座は天頂を超え、北の空にありました。さそり座が高く昇ること自体は理解できましたが、天頂を超えると、全てが上下逆さまになるのです。

その瞬間、私は混乱しました。見慣れた星々の並びが、どのように結びつけば良いのかが分からなくなったのです。逆さまになっただけでなく、「左が東」ではなく「右が東」の世界になってしまったからです。その知識の深さが逆に、心地悪さを増幅させる原因となりました。

その時、私は我慢できず、体を南側に向けて、イナバウアーのように後ろ向きに体を反らせ、北の空を逆さまに見ることにしました。そうすると、さそり座もいて座も、いつものように見える。そこには、精神的な安定感が待っていました。

この体験から学んだことは、私たちが視覚に頼る感覚は、あやふやさや騙されやすさを内包していることです。もし、AIが映像だけでなく、匂いや音、風や光まで模倣する日が来たら、私たちがリアルとアンリアルを区別する能力は、ほぼ無力になるかもしれません。

リアルの鼓動、揺るぎない存在

しかし昨日、病院への移動と共に得た体験は、リアルという存在がそれほど容易に消えてなくなるものではないとも、私に思わせてくれました。

講演会場で皆さんと交わした言葉、引き出された笑顔、そして驚きの瞬間。それら全ては、一種の「感情の共鳴」とでも表現できる、肌で感じる感覚でした。それは風の微風や風鈴の音と同じく、リアルな波動、現実の実感とでも言えるものを感じさせてくれたからです。

講演終了後、MRI装置の寝台に移動し、周りに集まった人々と共に、受診者への接遇方法をお伝えしました。そして、テストスキャンを行い、得られた画像が全員の眼前に現れたときの感動と一体感。それら全てが、まさにリアルそのものでした。

脳内の神経細胞の興奮そのものをシミュレートし、このような感覚までバーチャルに置き換えられる日が近づいているかもしれません。だけれども、人と人とが互いに近くにいてコミュニケーションを取ることは、その日が訪れるまでは絶対的な価値を保持するだろうなと感じました。

真実を伝える勇気

医学的事実には、伝えることが難しいものや、避けて通りたいと思うものも存在します。しかし、それらをごまかしたり、完全に抑え込んだりすると、真実のリアルな波動は得られません。

これからも、私は医師として、人々の健康や幸せに寄与するためにどのように行動すべきか、常に自問自答し、自身の信念に従って生きていきたいと思います。

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無痛MRI乳がん検診のニュースについてお読みになりたい方は別ページを御覧ください。
https://note.com/tarorin/n/n81dbefaa10dd


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