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エクソソームについて~腸活ラボマガジンVol.6~

皆さん、こんにちは。やまだです。腸活の調子はいかがでしょうか?
今回は、ここ数年で美容やアンチエイジングで市民権を得つつあるエクソソームについて話したいと思います。
まず、エクソソームとは何かについて。そして、美容医療で用いられているエクソソーム点滴などの有効性やリスクなどについてお話できればと思います。
もくじ


エクソソームとは何か

まず、エクソソームの定義についてお話しします。
Exosomeは、簡単に言うと、細胞同士がやりとりする時に細胞から放出される小さい膜の小胞のことです。また、この分野について調べた方は、Extracellular vesicles(EVs)などについてもご存知かと思います。その定義の差についてお話しします。
そもそも細胞は、脂質二重膜をもつ小胞にタンパク質やDNA, RNAなどを入れて、分泌しています1。そして、この小胞は、細胞のコミュニケーション手段や不要物質の排出など様々な役割を果たします(図1、2)2。

図1 エクソソームの多彩な役割
図2 細胞間のコミュニケーションに使われるEV https://www.tmghig.jp/research/topics/201704-3381/

このような細胞外小胞(Extracellular vesicles(EVs))は、産生経路やサイズによって3種類に分類できます。

1.エクソソーム(Exosome):エンドソーム由来。約100 nm
2.小胞マイクロベクシル(Microvesicle):細胞膜由来。
3.アポトーシス小体(Apoptotic body):死んだ細胞の膜に由来。

今回は、細胞外小胞の定義や名称の整備、研究に関するガイドラインを整備する国際細胞外小胞学会(ISEV)が推奨するEVの名称を使いたいと思います。
次に、EVを医療に応用する際の二つの戦略についてお話しします。
一つ目は、天然型EVです。これは、EVそのものが治療効果をもっていることをいかしたもので、培養上清を回収して精製後そのまま用います。
もう一つは、改変型EVです。こちらは、特定の細胞の培養上清液や果汁からEVを精製した後にペプチドなどで修飾したり、遺伝子改変細胞からEVを作成し、特定の機能を付与したもの、また、特定の治療薬をEV内に入れてドラッグデリバリーシステム(DDS)として使うタイプです。
次からは、天然型EVと改変型EVについてみていきましょう。

天然型EV

治療薬として活用できることが期待されているのは、EVに抗炎症作用や免疫制御作用、組織修復作用などがあるからです。EVには、様々な細胞由来のものがありますが、その中でも着目されているのが、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell, MSC)由来のEVです。理由は、MSC自体が、損傷を受けた組織の修復をサポートする力があるからです3。そして、最近の研究から、MSCが組織の細胞に分化することで修復に役立つ場合もありますが、MSCの分泌物による効果が大きいことがわかってきました。そして、その分泌物の中にEVも含まれています。そして、MSC由来のEVを用いた治療効果も報告されています4,5。ヒトにおける臨床応用も進んでいて、オーストリアとドイツの研究チームが人工内耳装着による、副反応の炎症を抑える目的で、内耳に臍帯由来MSCのEVを添加する臨床試験を実施しました。結果として、聴覚の改善が見られました6。
また、EVが免疫制御に関わることも多くの研究から明らかになっています。B細胞や樹状細胞由来のEVが抗原提示やCD4陽性T細胞の活性化に関わることが報告されています7-9。これらに基づき、EVによって免疫を活性化させ、免疫療法に用いたり、予防的に使う方法が提案され、臨床試験も進んでいます。

改変型EV

こちらは、DDSとしての用途が一般的です。エクソソームをはじめとするEVは、ウイルス性のキャリアと比較して免疫原性(免疫が反応してしまうこと)、変異原性(宿主で変異が生じてしまうこと)が低く、EVに内包された核酸は、血中の核酸分解酵素などにも抵抗性があることが報告されており、新しいDDSキャリアとしての可能性が高まっています。

EVが関わっている様々な生物学的現象

EVは、様々な働きがあります。具体的にどのようなものがあるか見ていきましょう。
疾患としては、がんの転移があります。例えば、卵巣がんがあります。卵巣がんでは、腹膜に転移します。がんが腹膜に広がると治療が困難になります。腹膜には、突起物がびっしり生えており、がん細胞などからのバリアを果たしています。しかし、卵巣がんからでたエクソソームが腹膜を構成する細胞に入り込むと、エクソソーム中のメッセージ物質が”お前の役割は死ぬこと”と伝え、その細胞がアポトーシスを引き起こし死にます。これにより、腹膜に穴が開き、その穴から腹膜に入り込み、増殖してしまいます。

病気だけでなく、健康も支えています。例えば、卵子は、膜にエクソソームを分泌しています。これは、膜の老化を防いでいるのですが、精子が卵子に入っていく時の鍵の役割も果たしています。実際、卵子の表面にエクソソームがないと、精子は卵子に入ることができません。

また、肌の細胞同士もエクソソームのやりとりをしています。肌を構成するケラチノサイトは、紫外線を浴びるとエクソソームを分泌します。すると、エクソソームを受け取ったメラノサイトがメラニンを分泌します。メラニンは、肌を紫外線から守りますが、しみやそばかすの原因になります。このメカニズムを解明したフランスの化粧品会社は、このメカニズムをもとにした化粧品を開発しています。

美容に関する報告としては以下のようなものがあります。
肌の傷を再生する能力です。歯肉間葉幹細胞 (GMSC) に由来するエクソソームを単離し、それをキトサン/シルクヒドロゲルスポンジにロードして投与すると、糖尿病ラットの皮膚の創傷の治癒が促進されたという報告があります10。

EVの医療応用に必要な条件~安全性~

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