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腸と運動の関係~腸活ラボマガジンVol.10~

皆さん、こんにちは。
やまだです。今回は、腸内細菌ひいては腸と運動の関係について取り上げたいと思います。読んでみて参考になればぜひスキ!していただけると励みになります!


はじめに

そもそも、運動が健康にいいことは数多くの研究からわかっています。有酸素運動はもちろん、息が上がるほどの運動も健康に寄与します。そして、筋肉トレーニングも大切です。20台を過ぎると、何をしないと筋力は低下するばかりです。なので、筋肉をつける筋肉トレーニングもできることからしていきましょう。何もハードなマシンを使う必要はありません。自重トレーニングで十分です。
これまでの研究で筋肉が肝臓や骨、脳を含む多くの臓器と相互作用していることが明らかになってきました。例えば、筋肉はマイオカインと呼ばれる内分泌に似た性質のタンパク質や代謝産物を放出していることがわかっています。また、運動により脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれるタンパク質の体の循環量が増えることが明らかになっています。これは、神経細胞の発生や成長、維持や再生を促してくれます。海馬に発現していますが、骨格筋からも分泌されるわけです。
そして、腸内細菌叢と骨格筋の相互作用も明らかになっています。初期の研究としては、持久力トレーニング後に、短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸と共役リノール酸)が増えることが動物実験で明らかになっています。
短鎖脂肪酸は、これまでにも何度も出てきていますが、腸内細菌叢が食物繊維などを分解する時に生じる副産物で、サイトカインや炎症性タンパク質の転写抑制を通じて炎症を抑制する働きがあります。
以下で具体的な研究をいくつか見てみましょう。

腸内細菌叢と短鎖脂肪酸と運動能力の関係

これまでに健康なマウスを使って二つの実験が行われました(ref1)。
一つは、一つのグループに腸内細菌のエサが豊富なLMC(low-microbiota accessible carbohydrate )食、もう片方のグループには腸内細菌のエサが少ないHMC(high-microbiota accessible carbohydrate )食を与える実験。
もう一つは、標準的なチャウ食に抗生物質を与えたグループ(Ab+)と与えていないグループ(AB-)です。それぞれ6週間実験を行いました。
LMC食を与えたマウスは、腸内細菌の多様性が減少し、繊維質が少ないため、短鎖脂肪酸の産生量が少ない細菌が増えるように組成が変化しました。LMC食後、酢酸とプロピオン酸の血漿中濃度はHMC食後よりも有意に低下し、前脛骨筋の筋肉量とトレッドミル走の疲労困憊までの時間は減少しました
Ab+群は腸内細菌叢をほぼ消失させ、糞便中の短鎖脂肪酸含量と循環中の短鎖脂肪酸濃度を低下させました。さらに、Ab+群はAb-群と比較して走行能力が低下しました。Ab+マウスに短鎖脂肪酸のひとつ酢酸を注入すると持久的運動能力が回復し、HMC食を与え発酵性繊維を1回分投与したマウスの糞便微生物叢を移植したLMC食マウスでは、疲労困憊するまでの走破時間も改善しました。
これらの知見は、腸内細菌叢の組成の変化が、全身の代謝と運動能力に著しく影響することを示しています。
また、別の研究でも同様のことが示されています(ref2)。
こちらでは、抗生物質でマウスの腸内細菌叢を攪乱し、そのあと、自然に再播種することで腸内細菌叢を回復させています。
抗生物質で腸内細菌叢を減少させると、持久走能力が低下し、骨格筋収縮機能が低下しました腸内細菌叢を回復させると、骨格筋の持久力と収縮機能が回復しました。特定の細菌由来の代謝産物の欠乏は、グルコースや脂質などの生体エネルギーの代謝を阻害する可能性があります。したがって、腸内細菌叢と骨格筋のエネルギー代謝を関連づける可能性のあるメカニズムは、主にグリコーゲンやトリアシルグリセロールなどの筋肉のエネルギー源の利用可能性と貯蔵となります。
腸内細菌を減少させる抗生物質は短鎖脂肪酸の産生を減少させ、同時に筋肉内のグリコーゲンの前駆体である血清中のグルコースが利用できる範囲を低下させます(図1)。

図1 腸内細菌叢がアクセスできるエサ(HMC)を与えた場合としにくいエサ(LMC)を与えた、もしくは抗生物質を与えた時の腸と骨格筋の相互作用 Created with BioRender.com

これらの結果は、腸-筋肉軸に関して、これら2つの臓器のコミュニケーションは双方向的で、少なくともマウスでは、腸内細菌叢が最適な筋肉機能に不可欠であることを示しています。

ヒトではどうか?

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