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性差の科学~腸活ラボマガジンVol.17~


はじめに

今回は、性別による差についてお話ししていければと思います。そもそも、男性と女性で体の特徴、ホルモンバランス、出産の有無、生理などの性周期の違いがあることは日々の生活で感じておられると思います。今回は、その上でそれをさらに詳しく掘り下げて、どういう疾患などにかかりやすいか、そして、それを予防するにはどうしたらいいかというところまでお話ししていきたいと思います。

性差による違い

まず、性差による大きな違いを生み出す性ホルモンについてみていきたいと思います。そもそも男性ホルモンであればテストステロン、女性ホルモンであれば、エストロゲンが有名ですが、男性、女性いずれも男性ホルモンと女性ホルモンの両方を持っています。どちらも健康を維持するうえでとても大切だからです。例えば、男性ホルモンであれば、筋肉などの維持にも必要ですし、膵臓β細胞やその前駆細胞で機能し、インスリン分泌をスムーズに行うことに貢献し、2型糖尿病を予防する作用を持つほか、内臓脂肪の蓄積を防ぐなどの役割があります。女性ホルモンであれば、悪玉コレステロールの増加を抑える、骨を丈夫にするなどの働きがあります。
もちろん、男性ホルモン、女性ホルモンといわれる理由もあり、男性ホルモンのアンドロゲン(テストステロンとジヒドロテストステロン)は、男性への性分化、二次性徴、精子形成、前立腺の成熟などに関与します。女性ホルモンのエストロゲンも、生殖においても正常細胞の分裂など大切な役割を果たします。

では、性ホルモンは、どこで分泌されるのでしょうか?
男女共通で副腎皮質、そして男性では精巣、女性では卵巣から分泌されます。
副腎皮質では、テストステロンやエストロゲンの前駆体であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)が分泌されます。DHEAは、男性の場合、一部がテストステロンとなり、また、その一部からエストロゲンが作られます。女性の場合、DHEAの一部がテストステロンとなります。

性ホルモンの産生 https://health.suntory.co.jp/professor/vol23/


DHEAは、前駆体としても大切ですが、それ以外にも働きがあります。報告されていることとしては、免疫力を高めるインスリンの働きを助ける、筋力を維持する、代謝促進する、動脈硬化や脂質異常症を予防する効果などです。また、日本で20年以上男性を追跡調査した研究から、DHEAが多いほど長寿という報告もあります(ref1)。そのため、DHEAは長寿ホルモンとも呼ばれています。
一方で、DHEAは、ストレスに対抗する抗ストレスホルモンです。コルチゾールが有名ですが、こちらも大切です。コルチゾールは、ストレスを感じると分泌されます。これにより、血糖値が上昇します。これは、何のためかというと、人間がストレスを感じる時というのは、長い人類の歴史の中で、そのほとんどの時間を過ごしていたサバンナ時代を考えればわかります。ストレスが生じる、つまり敵が迫っているという時です。この時にヒトがどういう選択をするかというと、「闘争か逃走」です。つまり、戦うか逃げるかです。どちらもエネルギーが要りますよね。だから血糖値が上昇します。
現在では、戦うシチュエーションはなかなかないですが、人間の歴史から考えると、体はそういう風に今でも反応してしまうわけですね。
一方で、コルチゾールが反応をするときに、老化物質である活性酸素が生じます。また、多く分泌されすぎると、免疫力低下や筋肉の分解促進や骨形成を阻害してしまいます。それらを防ぐのがDHEAです。
そして、副腎から分泌されるコルチゾールとDHEAのバランスが崩れることが副腎の疲労と言われるものです(医学用語ではありませんが、現象としては合理的です)。
このように性ホルモンは、性に関する働き以外にも僕たちの健康を維持するうえで非常に大切な役割を果たします。

性差による疾患のかかりやすさの違い

一方で、性ホルモンは、加齢とともに減少していくことがわかっており、その減少によって様々な疾患が引き起こされることもわかっています。

性ホルモンの減少に伴って生じる疾患 https://health.suntory.co.jp/professor/vol23/#:~:text=%E6%80%A7%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%81%AF%E3%80%81%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3,%E5%BD%B9%E5%89%B2%E3%82%92%E6%9E%9C%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82


男性であれば、20代以降男性ホルモンが減少し、同年代でも個人差が大きいです。減少によって、勃起障害(ED)や、うつ、不眠、骨粗鬆症、肥満、心疾患など心身の不調が出ます。また、男性ホルモンの減少によって生じるLOH症候群(late-onset hypogonadism、男性更年期障害)が、QOLを著しく低下させ、メタボリックシンドロームや2型糖尿病を発症させることも明らかになってきました。また、男性ホルモンであるアンドロゲンが腸内細菌叢に影響し、代謝疾患に影響を与えることも明らかになっています。実際、去勢によるアンドロゲン欠乏により、高脂肪食(HFD)を与えられた雄マウスにおいて、腸内微生物叢が変化し、肥満、空腹時血糖値の低下、肝臓の過剰なトリグリセリド蓄積、大腿筋の体重減少などの心血管疾患の危険因子が悪化することが示されています(ref2,3)。

男性ホルモンの低下による寿命の短縮や腸内細菌の変化 https://www.omu.ac.jp/agri/nc/research/index.html

女性は、男性と少し減少の変化のスピードが異なります。具体的には、閉経を迎える50代くらいから女性ホルモンが急激に減ります。これに伴って、発汗やほてり、倦怠感、冷え、不眠、うつ症状などの不調が生じます。一方で、閉経後5年程度である程度落ちつくことも明らかになっています。

性ホルモンの減少による更年期障害の違い https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71


また、女性は男性と比較して、筋量が少なく、骨が弱いので加齢に伴って、歩いたり立ち上がったりすることが困難になるサルコペニアが生じやすくなります。

男女それぞれでどのように予防していくか

では、加齢による性ホルモンの減少による体の不調をどのように予防していくべきでしょうか?
まず、DHEAとコルチゾールの関係において、副腎が出てきました。副腎は、実は、体の中で最もビタミンC濃度が高い器官です。それだけ抗酸化物質であるビタミンCを消費しているということです。なので、抗酸化物質であるビタミンCやビタミンE、ビタミンAなどを積極的に摂取することをお勧めします。
DHEAのサプリメント等もありますが、過剰摂取により、倦怠感や不整脈などの副作用が出る可能性があるのであまりおすすめしておりません。
一方で、自然薯(やまいも)にDHEAが含まれていることが明らかになっています。また、ビタミンCやビタミンE、亜鉛等も含まれているのでおすすめです。

次に、運動です。運動を続けると、脳機能や心機能に関わるテストステロンやDHEAが増えることがこれまでの研究でわかってきました。例えば、男性を対象にした研究を48件を分析したメタ分析によると、中程度、強度の運動によってテストステロンが上昇することが明らかになっています(ref4)。中程度以上の運動というのは、息が切れるほどの運動です。
また、運動によって一時的にストレスホルモンである、コルチゾールがが分泌されてしまいますが、繰り返し分泌されていくうちに、コルチゾールの血中濃度は、運動前よりも下がることがわかっています。
また、男性女性にかかわらず、40歳以上を対象にした研究33件を分析した結果、運動トレーニングの期間や強度とは無関係にテストステロンやDHEAの基礎レベルが上昇したという報告もあります(ref5)。

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