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皮膚微生物叢ー腸と皮膚の関わり~腸活ラボマガジンVol.14~


はじめに

こんにちは、やまだです。今回は、腸内にいる微生物たちではなく、皮膚に住んでいる微生物たちにスポットライトを当ててみたいと思います。
僕たちの体の中(正確には外ですが)には、多くの共生微生物が住んでいます。生活に繋がる部分として腸内微生物が有名ですが、もちろん、皮膚にも多くの微生物が住んでいます。そして、意外かもしれないですが、腸内と皮膚の微生物は相互作用していることが最近の研究からわかってきました。また、乾癬やアトピー性皮膚炎、酒さ、尋常性ざ瘡(ニキビ)、光老化など皮膚疾患にも関与していることが明らかになっていますのでそうした観点にも言及しながら、皮膚のトラブルに役立つ可能性のある食事法についても紹介していきたいと思います。
参考になった方はぜひスキしていただけると嬉しいです!

そもそも皮膚の構造とは?

皮膚は、外部環境と体の接触点であり、紫外線や病原菌など様々な外部の刺激などから僕たちの体を守り、同時に水分を保持するなどの役割ももつ非常に大切な器官です。平均的な表面積は2㎡ですが、毛包やエクリン腺、アポクリン腺、皮脂腺などをひっくるめると25 ㎡にもなると言われています(ref1)。
表皮の構造はざっくりとですが、下記のようになっています。
基底層:ここは、真皮から栄養素をもらいつつ、新しくケラチノサイトを生み出しています。
有棘層:ここは、表皮で最も厚いそうです。隣接する表皮細胞同士が、細胞膜が互いに複雑に入り込み、かつ細胞間橋という構造で強く結合しています。この結合が棘の様に見えるため、このような名前がついています。この棘状の突起では、細胞同士を強固に結びつけるデスモゾーム内にケラチン中間系フィラメントの束が挿入されており、これが皮膚に強度と柔軟性を与えます。ここには、免疫細胞のひとつランゲルハンス細胞がいます。
顆粒層:角質層と有棘層の間のことです。ここのケラチノサイトは、ケラトヒアリン顆粒という顆粒をたくさん含んでいるため、この名前が付きました。上にいくにつれて形が扁平になっています。
角質層:ヒトの最外部を構成しています。死んだ細胞が10~20層積み重なってできておりケラチノサイトの最終分化産物です。水分を50~70%含んでいる他、天然保湿因子なども含みます。細胞間は、細胞間脂質によって充填されています。保湿成分として用いられるセラミドもここに含まれます。紫外線や病原菌、乾燥などから我々の皮膚を守っています。これがないと生きていけません。角化細胞が基底層で生まれて、垢としてはがれていくまでの期間が約45日なので(10~45日)その期間をターンオーバーサイクルと呼ぶこともあります。

図1 表皮の構造 https://www.sunsorit.co.jp/skincare-labo/skincare_column_18/

表皮の最上層である角質層は、ケラチノサイトとして知られる最終分化した除核された細胞で構成されています。ケラチン原線維と脂質二重層に埋め込まれた架橋角化エンベロープで構成され、表皮の「レンガとモルタル」を形成しています(ref2)。皮膚は継続的に自己再生する器官であり、鱗片は最終分化の最終段階として皮膚表面から常に剥がれ落ち、約 4 週間前に基底層から移動を開始します。
次は、汗腺であるエクリン腺とアポクリン腺についてみていきましょう。
エクリン腺:ほぼすべての皮膚表面に存在し、主に水と塩からなる分泌物を分泌します。主な役割は、水分の蒸発に伴う放熱による体温調節です。その他の機能には、水と電解質の排泄、および微生物の定着と増殖を防ぐ皮膚の酸性化などがあります。
アポクリン腺:脇の下、乳首、および肛門に分布します。アドレナリンに応答して、乳白色の無臭の分泌物を分泌します。無臭と聞いて、アレ?わきがの匂いのもとじゃないの?と思われた方もおられるかもしれません。ですが、元々の匂いはないんですね。実は、わきがなどの匂いは、細菌によるアポクリン腺分泌物の代謝によるものです(ref3-5)。ちなみにこのわきがの元となる物質を輸送するタンパク質をコードする遺伝子をABCC11というのですが、これがアジア人では変異(SNP変異といいます。最近の遺伝子検査はこのSNPを見ているわけです)があり、ほとんどわきががないです。ちなみに、耳垢が乾燥か湿っているかにも関与しているので、わきがではない人はおそらく耳垢も乾燥タイプです(ref6)。
皮脂腺についても見てみましょう。皮脂腺は、毛包に接続しており、毛包脂腺単位を形成し、脂質が豊富な物質を分泌します。これによって、皮膚と髪を保護され、抗菌シールドができます。また、皮脂腺は比較的無酸素性のため、一般的な皮膚の共生細菌であるプロピオニバクテリウム アクネス(いわゆるアクネ菌)などの通性嫌気性菌(空気があってもなくてもいい細菌)の増殖を促進します。
このアクネ菌は、皮脂に含まれるトリグリセリドを加水分解して、遊離脂肪酸を皮膚に放ちます(ref7)。この遊離脂肪酸は、皮膚表面のpHを弱酸性に保つことに寄与しています(ref8,9)。黄色ブドウ球菌や化膿性連鎖球菌などの多くの病原菌は酸性によって阻害されるため、常在菌であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌やコリネバクテリアの増殖が促進されます。しかし、皮膚が閉塞すると pH が上昇し、黄色ブドウ球菌や化膿ブドウ球菌の増殖が促進されます(ref10)。
ヒトは、他の哺乳類と比べてトリグリセリドを含む皮脂を大量に作るので、結果的にアクネ菌は他の哺乳類の皮膚よりもヒトの皮膚に多いです(ref11)。
また、日ごろ使う洗剤のpHによっても、皮膚のpHは大きく変化するので基本は弱酸性であるということを踏まえて商品選びをしていただけると幸いです(ref12)。
アクネ菌は、某○ロアクティブのおかげで目の敵にされていますが、大切な細菌です。増えすぎると炎症を促進してしまうのは事実ですが、そうならないようにも日々のスキンケア、食生活は大切です。

皮膚にはどんな生き物がいるの?ー皮膚微生物叢に迫るー

さて、先行してアクネ菌について言及してしまいましたが、ここからは微生物全般についてみていきたいと思います。
微生物叢は、細菌、ウイルス、真菌などヒトの体に存在する微生物の全体をさします。ヒトの体には数千もの微生物が住んでいると推定されていますが、そのうち病原性を持っているのはわずか数百種類で、それ以外は、共生微生物です。そして、そのうち多くは日和見的な立ち位置です。
ある研究では、皮膚1 cm2あたりに、10^7もの微生物が住んでいることがわかっています。そして、その密度やメンバーは、年齢や性別、解剖学的場所(例えば、顔にいるのと腕にいるのと胴体にいるものなど)、皮膚のpH、湿度、衛生状態でも異なります(図2)。

図2 皮膚の構造とそこに住む微生物たち 皮膚は表皮、真皮がありますが、汗腺や毛包周囲にもウイルスや真菌が入り込んでいることがわかります。また、皮膚の表皮には、ウイルス、細菌、真菌、そしてダニがいます。https://www.nature.com/articles/nrmicro2537

コアメンバーは、発生の過程を通じて一定ですが、多様性と量は成人で比較的増えていく傾向にあります。スキンケア製品、衣服、周囲の気候の湿度と温度、紫外線への曝露などの他の外因性または環境要因も、個人間のばらつきにつながる可能性があります。
しかし、これらの外因性要因による皮膚細菌の相対比率の違いが実証されていますが、放線菌門とファーミクテス門が依然として最も一般的で、次にプロテオバクテリア門とバクテロイデス門が続きます。放線菌は皮膚上の細菌の約半分を構成し、キューティバクテリウム(正式にはプロピオニバクテリウム、この中のアクネスはアクネ菌とも呼ばれる)とコリネバクテリウムがこの集団の大部分を占めます。

キューティバクテリウムアクネス ヤクルト中央研究所より引用https://institute.yakult.co.jp/bacteria/4234/

次に最も多い細菌門はファーミクテス属で、主にブドウ球菌種と連鎖球菌種から構成されます。ブドウ球菌は好気性グラム陽性球菌で、表皮上すべての好気性細菌の約 90% が表皮ブドウ球菌で構成されています。
一方で、黄色ブドウ球菌は、病原性が高く、様々な皮膚感染症とかかわりがあります。しかし、ヒトはブドウ球菌に対する免疫も備わっているので健康な生活をしていれば大きな疾患に繋がる可能性は低いです。逆に免疫力が低下していると悪影響が広がる可能性があるので、細菌感染した場合などは早めに病院にいきましょう。
また、これらの共生細菌が作り出す物質は、宿主の抗菌ペプチドと連携して病原体を選択的に殺す抗菌ペプチドを放出することで、免疫系反応を直接調節することもわかっています。たとえば、ブドウ球菌であれば、良性ブドウ球菌株は、この機構を通じて黄色ブドウ球菌の増殖を直接標的にし、阻害することが判明しました(ref13,14)。

真菌とダニ
細菌以外も皮膚には住んでいます。例えば、真菌であれば、マラセチア属という酵母が有名です。これは脂質を好むので皮脂が多いところに住んでいます。
また、小さな節足動物であるニキビダニも住んでいます。Demodex folliculorumおよびDemodex brevisの二種類です。正常なら顔だけでも200万匹ほどおり、一つの毛穴に5匹ほどいます。ニキビダニは皮脂を餌とするので顔の皮脂領域に好んで定着します。また、毛嚢脂腺部の内側を覆う上皮細胞や、同じ空間に生息する他の微生物(プロピオニバクテリウム アクネスなど)を餌にすることもあります。また、肛門がないので、糞便を体内に貯めます。これはおそらく免疫系によって排除されることを避けるためではないかと考えられています。
基本的に病原性はないですが、不適切なスキンケアや外用薬を使ってしまうと、ニキビの悪化や酒さ、眼瞼炎、睫毛炎、ものもらいなどの原因になってしまうこともあります。
良いイメージはないかもしれませんが、皮膚の恒常性を保ってくれているメンバーなのでうまく付き合っていきましょう。

腸と皮膚の相互作用ーgut skin axisー

最後に腸と皮膚の関係、これをgut skin axix (GSA)といいますが、これについて取り上げたいと思います。こちらは最近になって、腸が免疫や代謝に関与することを通じて、皮膚の健康、ひいては皮膚疾患に影響を与えることがわかってきました(ref15,16)。例えば、潰瘍性大腸炎やクローン病、セリアック病などの消化器系疾患の患者さんの1、2割は乾癬や皮膚潰瘍を示すことが報告されています。また、炎症性腸疾患に伴う皮膚炎症は、腸の炎症量と相関していることも示唆されています。
そして、炎症が腸であろうが皮膚であろうが、腸内細菌叢が関与していることも推定されています。一つの仮説としては、腸内細菌叢のバランスが崩れることで免疫細胞の一つT細胞を活性化し、同時にブレーキ役である免疫抑制サイトカインと制御性T細胞を破壊するというものです。
また、別の仮説では、腸の透過性の増加とそれに伴う、腸から循環器やほかの器官への細菌の移動が挙げられます。いくつかの研究では慢性皮膚疾患患者の血中に腸内細菌のDNAが増加していることが報告されており、これが炎症に寄与しているのではないかと考えられています。そして、腸内細菌の代謝副産物も循環に入り皮膚に蓄積する可能性があり、これによりケラチン合成が減少し、同時に表皮分化に影響を与える可能性があります。これにより、皮膚のバリアが弱まり、炎症が起きやすくなる可能性があります。

上記のような関係から、逆に腸からのアプローチで皮膚の疾患を改善する研究も数多く始まっています。つまり、プレバイオティクスやプロバイオティクス、もしくは抗生物質を用いて腸内細菌叢を変化させ皮膚疾患を治療できないかというものです。

アトピー性皮膚炎

具体的には、アトピー性皮膚炎があります。アトピー性皮膚炎(AD)は、免疫調節不全、皮膚バリア機能不全、皮膚と腸の両方における微生物の腸内細菌叢異常を特徴とする慢性炎症性皮膚疾患で、マイクロバイオームの関連が指摘されています。実際、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚ではキューティバクテリウム属、ストレプトコッカス属、アシネトバクター属、コリネバクテリウム属などの多様性が減少していることが報告されています(ref17)。また、腸内細菌叢の多様性も低下していることが報告されており、健常者と比較して、ビフィズス菌が少なく、大腸菌、クロストリジウム菌、ブドウ球菌が多いことも報告されています(ref18)。
経口プロバイオティクスを用いた治療では、小児および成人で評価されています(ref19)。ある研究では小児患者に乳酸菌および/またはビフィズス菌株からなる経口プロバイオティクスを1日1回または2回、4〜24週間投与した場合、アトピー性皮膚炎スコアリング(SCORAD)の平均評価が3.07低下することが実証されました。しかし、著者たちは、研究間による差が大きいと指摘しています。
一方で、アトピー性皮膚炎にかかるリスクが高い乳児を持つ妊婦さんにプロバイオティクスを摂取してもらう研究から、アトピー性皮膚炎の発生率が大幅に減少することが示されました(ref20)。
参加した妊婦は、子宮内および授乳中のこの細菌のレベルを高めるために、出産の4週間前から出産後6か月まで毎日ラクトバチルス・ラムノサスのサプリメントを摂取しました。介入グループでは、小児の26%がアトピー性皮膚炎を発症しましたが、プラセボグループでは46%でした。

尋常性ざ瘡(ニキビ)

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