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対話と僕⑯:モードの切り替え

・はじめに

今回は、対話という行為に対してよく言われる「対話だけでは物事が進まない」という意見について僕なりの反証を述べておきたいと思う。
こうした意見に触れるケースはビジネスの文脈が多く、「みんなの意見なんて聞いてたら収拾がつかなくなる」「そんな悠長なことは言っていられない」という意味でもあるだろう。
それほど「スピード感を持って答えを出すこと」が重視されていることがわかる。
こうした考えは「相手の意見を聞く」という行為にも影響を及ぼすと思われる。

少し話はズレるが、こうした事象が最近流行の1on1にも影響を及ぼしており「部下に何を聞けば良いかわからない」「話が広がらず意見を引き出せない」などの悩みに繋がっているように思われる。
そうなると1on1が形骸化し「時間の無駄」「普段のコミュニケーションと変わりない」などの意見が出てくる。
施策が悪循環に陥る一つのケースだと思われる。

前置きはこれくらいにして、前述の「対話だけでは物事が進まない」への反証を述べていこうと思う。

・対話の使い方:モードの使い分け

ビジネスの文脈において「対話的な」コミュニケーションだけでは「物事が進まない」のは事実である。
僕の中の対話の定義は「お互いの思考や価値観を出し合って新しい意味を探っていくもの」であるのだが(これも今後変わっていく可能性がある)それを実践し続けた先に一つの答えを導き出すのは難しい。
そこで本項の『モードの使い分け』が必要になるわけである。

結論から先に言ってしまうと使い分けるモードは『発散』と『収束』である。
正しく機能しているかは言及しないが、『収束』については「スピード感を持って答えを出すこと」を良しとしているビジネスの場面ではよく実践されているように思える。
ただ、情報の非対称性が解消されないまま行われたり、互いの前提が共有されないままに実践されているケースが多いことは容易に想像がつく。
その結果、一度出した答えが追加で発覚した情報のせいで反故にされたり、他部署の意見を聞くフェーズから仕切り直しになったりもする。
もっと言うと納得感の無いまま進めることになったのでスムーズにいかなかったり、想定通りに作用しなかったりする。
こうした経験をしている人たちも多いのではないだろうか。
その原因の一つがもう片方のモードである『発散』の不足である。

古くはチームの成長過程を論じた『タックマンモデル』やダブルダイヤモンドモデルなどの思考方法である『デザイン思考』などの様々な文脈で『発散』の重要性が語られている。
こうした『発散』を経ずに答えを出すことを優先させると、その後に軋轢が生じることは容易に想像できるのではないだろうか。
全員が完全に納得する事は不可能だとしても『発散』を経てある程度の前向きな妥協点や共通認識を見出すことはできるのではないかと思う。
そのうえで『収束』に向かっていくというのがここでいうモードの使い分けという事になる。
つまり、何れかが大事というわけではなく『収束』と『発散』の両方が必要なのである。

この辺りは経験から感じていたイメージであったが、立教大学の中原先生の著書「話し合いの作法」に体系的にまとめられているので是非読んでみてほしい。

本書の中では前述のモードを話し合いのフェイズとして「対話」と「決断」に分けて語られている。
その必要性や使い方を体系的にまとめる事でメンバーの相互理解を促す「対話の作法」と、納得感ある結論を導く「決断の作法」が理解できる内容となっている。
その基となっているのは実践を通じて得られた知見と学術的な知見を組み合わせて導いたものだと言える。
ビジネスの場面における会議や打ち合わせに違和感を感じている人は是非読んでみてほしい。

・対話の使い方:対話で得られるスキルの活用

『スキル』という言葉を使う事は極力避けてきたが、ビジネスの文脈で対話を語る場合はこの『スキル』という概念がどうしても必要になる。
以前も述べたように対話で得られる『スキル』は様々なコミュニケーションで活かすことができる。

特に『答え』を導き出すことを前提とした対話においては『批判的思考』が必要になる。
この『批判的思考』を経て『収束』に向かわないと、前述の『発散』を省略した状態と変わらずその後に様々な齟齬が発生する可能性が高い。
また、『批判し合う』ことを経験することも、その後の『発散』と『収束』のコミュニケーションが円滑になるために必要になる。
これについても以前その一部分を述べているので読んでみてほしい。

正しく批判する為に、相手の意見を理解するよう努めることで『発散』と『収束』を効果的に実践することができる。
その為にはお互いの思考や価値観を表出する必要があり、こうした対話を通じて相互理解が進むことにもなる。
つまり『答え』を出すための過程という役割だけでなく、その後の関係性やチームビルドにも影響があると考えられる。
この辺りを実現する為にも前述のようなスキルが必要になるのだが、それを身に付ける為には「対話」の実践が必要であろう。
まさにニワトリタマゴ問題になってしまうが、そういう意味でもここまで述べてきたスキルを身に付ける為の「対話」の場があってもいいのかもしれない。

・書籍紹介

最近ビジネスの文脈で良く紹介する書籍が前述の中原先生の「話し合いの作法」と安斎勇樹氏の「問いかけの作法」である。
こちらの2冊は既に紹介させて頂いているので、記事の内容と併せて読んでみてもらえるとありがたい。

何れの書籍も実践的なノウハウが多く共感も得やすい内容となっているが、本書の前半で述べられている現状の分析をじっくりと読んで頂きたい。
何故「対話」が「問いかけ」が必要なのかを是非感じて頂きたい。

今回紹介したモードを発揮するためにはある程度のスキルが必要になる。
そしてそのスキルを身に付ける為には「対話」での経験が必要になる。
やはり前述の通り気兼ねなく参加できる「対話」の場が必要なのではないかと思う。
先日開催した匿名対話のように不定期での開催も行いながら、定期的に希望者が集まって「対話」を実践できる場があってもいいのかもしれない。
この辺りは来年の検討事項として頭に入れておきたい。

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