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第23回「振り返り編③ カトリーナ」~創作ノート~TARRYTOWNが上演されるまで

こんにちは!ミュージカル「TARRYTOWN」の翻訳・演出の中原和樹です。

前回に引き続き振り返り編として、今回はカトリーナにスポットを当てて記事を書いていこうと思います。

ばっちりポーズ

早速インパクトのある写真です!
これはMy New Gay Best Friendという曲の中の一場面です。

NYに憧れを持つカトリーナは、イカボッドがNYから来たこともあり、興奮しながら彼に校内を案内します。そしてイカボッドが授業に向かうために行こうとする去り際、意を決して自宅のディナーへと誘います。OKをもらったカトリーナは、イカボッドが去ったあと、一人で自分のデスクでこのナンバーを歌うのです。

イカボッドがゲイであることを知ったカトリーナが、NYから来た新しい友達、最高のゲイの友だちが出来た!と歌うのですが、三拍子の軽やかで楽しいこの曲をカトリーナ役の武田莉奈さんがとても魅力的に表現してくれました。

カトリーナが持つNYへの憧れも表出するこの曲ですが、ある稽古の日に武田さんが突然椅子に登り、曲のラストにこの写真のポーズを決めてくれました。自由の女神モチーフで、カトリーナの嬉しさ・興奮も見え、曲の締めとしてもばっちりなアイディアです。思い切りやり切ってくれる姿にすごくハッピーな気持ちになり、笑顔にさせてもらえました。

こちらも素敵な表情ですね

イカボッドとどんどん仲良くなり、自分の悩みを打ち明けるカトリーナ。ブロムとの結婚生活がうまくいっていないのとは対照的に、会ったばかりとは思えないぐらい、どんどんイカボッドと仲良くなっていきます。

寄り添うように言葉をかけてくれるイカボッドに対して、心を許したカトリーナの表情です。

TARRYTOWNは、イカボッド・ブロム・カトリーナの三人の関係性が変化し続け、絡み合い、ドラマが展開していく作品です。
特にカトリーナは、イカボッドがこの町に来たことで、自分だけでは勇気が出ずに実行できなかった行動、ブロムから離れてみるという決意をします。

外出用のコートを持ち、葛藤しています

その葛藤と決意を描いたのがDown The Stairsという曲です。

ブロムと住む家を出ていこうと決意し、荷物をまとめ、いざ二階の寝室から一階に降りようとする際に、階段を目の前にして歌い始める曲です。

カトリーナにとって「階段」というもの自体に特別な意味合いがあるのですが(これはネタバレになるので、ちょっと伏せておきます・・・)、その階段を降りてドアを開ければ、そこに違う世界が待っている、自分は今から外の世界に出ていくんだ、ということを歌います。

旋律がとても美しいこの曲は、確固たる決意と、新しい人生・決断への不安との間を行ったり来たりするカトリーナの内面を多彩に表わしています。曲中の展開が明確にあり、音域も広く、劇的な歌です。
カトリーナにとっても、TARRTYTOWNという物語にとっても、このカトリーナの決断が大きなものであるということが分かります。

そしてこの「down the stairs」という言葉の英語的なニュアンスに苦労した記憶があります。 初めて原語のサントラを聞いた際には、口の中と舌をしっかり使わないと発音出来ない英語の「D」、つまり日本語のだじづでどとは違う音として、発するのにエネルギーがいる言葉であるところに、カトリーナの決意が込められているように感じました。
しかしこの曲を日本語に訳してという作業の中で、やはり原語のニュアンスと日本語の違い、口・舌・唇の使用感覚の違いが身体感覚の違いに繋がるように感じられ(避けようがないことではありますが)、その橋渡しをどのようにしていくかに悶々としていたことが蘇ります。

武田さんがより良い表現・より深い表現に挑戦し続けてくださり、舞台上で一身にその責任を抱えて世界を創り上げてくれた姿が忘れられません。
そのお蔭で、最終的にはカトリーナを代表するようなナンバーとして、豊かな情感と共にお届けできたのではと思います。

ちなみに、この曲は色々な方が歌っている動画がネット上に出てきます。それだけ、表現者が挑戦したくなるような曲なのだと思います。

切ない雰囲気です

カトリーナが持つ楽曲は、冒頭ご紹介したMy New Gay Best Friendや、イカボッドに校内を案内するKatrina's Welcome Songのようにポップで明るい、リズミカルで鮮やかな楽曲もありつつ、対照的に、旋律の美しく、カトリーナの心の揺れを表現した楽曲も多く、人間の持つ矛盾・二面性や、強さと弱さ、そして繊細さを届けてくれます。

二面性と言えば、カトリーナと言えばお酒好き・ワイン好きなのですが、その裏側にある、カトリーナが抱える辛さや苦悩が物語が進むにつれて明らかになっていきます。

物語の一番最後に歌われるのがAnother Halloweenという曲なのですが、そのカトリーナの苦悩がどう変化したのか、解決したのか、実は具体的には描かれません。しかし、イカボッドと出会い、ブロムとの関係や自分自身と向き合うことになったこの物語中の期間が、なにかカトリーナの深いところに仕舞われたような、そんな印象がある楽曲です。


TARRYTOWNの登場人物の三人が結局のところ、どう変化してどうなったのか、解釈が分かれるのがこの作品の良いところでもあり、より深く深くと迷いの森の中へと誘い込まれるような感覚になる理由でもあるように思えます。
それだけ、人間は複雑で割り切れず、矛盾を抱えた生き物であるということかもしれませんし、それはカトリーナも同じなのかもしれません。

今回もお読みいただきありがとうございました!
次回はイカボッド編を書きたいと思います。

中原和樹

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