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34年前の教護院 ~初めての恐怖~

其の1 はじめての恐怖

コンコン

「奥さーん 」

「はーい」

「奥さんごめんなさい。お手洗いなんですけど、行かさせていただけますか?」

「はーい。他にも行きたい子いたら
言わなくていいから勝手に行って!」

「はい!ありがとうございます!」

寮内の広間には、甲高い声が響きわたる。

何だろうここは・・・
本当に教護院?
何か違う施設に来たのでは・・・

ものすごい違和感。

奥から出てきた奥さんと呼ばれるその人は、スラッと背の高い綺麗な人。
色白で、
大きく綺麗な目。
その目はニコリともせず、
まるで犯罪者を見るような
鋭い目で、
私の心の奥底まで探ってくる。

こういう所にいる奥さんは、
優しいのではないかと勝手に思っていた私の考えは、勘違いだった。

奥さんは、四畳半位の事務室の机の椅子に座った。

奥さんに挨拶するよう、
寮長である先生に促される。

「よろしくお願いします」

すると
斜め角度で私を睨みながら
「よろしく。」とだけ答え、
他には何も話さなかった。

初日は先生や、寮母である奥さんと
話をするのだろう。
そう思っていた考えも、勘違いだったようだ。

先生に呼ばれ、1人の生徒がやってきた。
小柄で小学生みたいな子。

「この子が部屋の1番手。部屋長だから。
お前はこの子以外とは話はするなよ。やる事は全部この子に教わって、行動も全て一緒にする事。」

「・・・」

「返事もできないの?可愛げ無いなぁ」と奥さん。

「・・・」
私は、可愛げ無いと言われた言葉にイラつきを覚え、無言を通した。

「はな。よく教えてやって」の先生の一言に、

「はい!」の甲高い声の返事。

私は部屋長の、はなちゃん。
この人に、事務室から1番近い部屋へ案内された。

8畳位だろうか。
畳で、余計なものは何も無い殺風景な部屋。
狭さは感じない。
そこには、部屋長のはなちゃん以外にも、あと2人座っていた。

嫌な雰囲気・・・

私の荷物を片付け整理する。
とは言っても、何一つ私物はなく、
洋服は、私の前にここを退院した人の使い回しのお下がり。

全ての物に、1 と番号が手書きで書いてある。
1番が私の使う借り物の番号らしい。

洗面用具はさすがに新しかった。そこにも 1 と書いてあった。

服や筆記用具等を置いておく棚には全て扉はなく、中が見えるようになっている。

部屋に窓はあるが脱走防止の鉄格子がついている。

棚が低いので、机がわりにもなっていて、そこで部屋のメンバーは、勉強をしていた。

「これ、ここ置いてもいい?」
そう聞くと、無視された。

はなちゃんがすぐにキツい口調で、
「他の子と話しちゃダメだって言われたでしょ!4番手は1番手の部屋長としか話できないから!」
と叱られた。

先程の先生や奥さんへの態度とは
まるで別人。
なんでこの子にそんな言われ方をしなきゃならない。
私は腹が立った。

「洗面用具を置きに行くから、奥さんに許可を頂かないと。
部屋から出る時は、必ず先生か、奥さんに許可を取らないといけないから。
私が先にやるから、同じようにやってみて。」

と言い、はなちゃんは、事務室の前で深々と丁寧なお辞儀をしながら、

「失礼します!奥さーん。洗面用具を置きに洗面所へいかさせていただけますか?」

あの甲高い声だ!

「はーい」奥さんの返事が聞こえた。
どうやら、事務室の奥は、
先生達家族の住居らしい。

が、しかし、
これを
これをやれと・・・
絶対無理!
恥ずかしい。
しかしはなちゃんは、やれと促してくる。
やらざるを得ない。

私は渋々
「奥さーん」と呼んでみる。
返事は無い。

「もっとちゃんと言わないと!」と言われ、

仕方なく
「奥さーん」
またも返事は無い。

何度やっても返事は無い。
これは嫌がらせでは無いか!
どうしろって言うんだ!
どうしたらいいのかが
分からなくなり、
私はもう、馬鹿らしくて黙った。

すると奥さんは事務室に出てきて、
椅子に座った。

「あんた、可愛げ無いなあ。」

またそれかよ!
私はずっと黙っていた。

「聞いてるの?返事もできないの?」

横で、はなちゃんは必死に、
「謝らないと!早く謝らないと!」
と焦っている。

私はそれでも黙っていた。

すると奥から先生が、やってきた。
手には竹刀を持っている。

まさか・・・
脅しだろう。

はなちゃんはずっと
「早く謝らないと!ちゃんと謝らないと!」と焦り、言い続けている。

そして先生は、まるで昔のドラマで見たような迫力で、

躊躇なく、大きく手を振りあげ、
私のお尻を竹刀で叩き始めた。

1発 2発 3発

何度も何度も

皮膚が張り裂けそうな、
耐えたくてもとても耐える事の出来ない痛み!
後を引き、じっとはしていられないほどの強い痛み。
あまりの痛さに、フラミンゴのように歩き回る。

恐怖と絶望感。

あんなに普通そうに見えた先生。
どこにでもいる感じの先生。
眼鏡をかけて、少し太っている。
さっきまで普通だったのに、
私を叩いている時の、
あの、
楽しそうな顔。

突然人が変わった。
いや、隠していたんだろう。

それを黙って見ている奥さんと、
見えてないふりする周りの生徒たち。

冷たく、
人格を否定される世界。

初日にこの寮の洗礼を受け、
私はめでたく
この
教護院2寮の一員となった。

#とさかのらてぴ

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