うっかりゲイバーでバイトしてしまった時の話 (2)

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店と人の雰囲気は最高。ただし看板はダサい

面接の当日、飲み屋が詰まった雑居ビルの通路の奥。突き当たりに目的の店はあった。

「サピエンス」とドアに貼られた看板を見つけて二人でホッとする。いつも余裕ぶっているトノも表情が固い。

どぎつい蛍光ピンクで、でかでかと『サピエンス』と書かれている。すげえダサいと思った。

こんな場所のマナーが分からないので、一応ノックしてから、おそるおそるドアを開ける。

店の中には二人の人間がいた。
一人は黒いジャケットをラフに着こなす男前なダンディ。今で言うとEXILEの社長で上戸彩の旦那のHIROに似ていたと思う。
ガタイがよく男らしく、ひと目でこの人がお店のマスターだとわかった。

もう一人はTシャツにジーパンの優しそうなお兄さんだった。こちらはジャルジャルの後藤に似ていたと思う。

店内は想像以上に明るく綺麗で驚いた。薄暗い雑居ビルや、ダサい看板とのギャップで目がくらみそうだった。
なんだかキラキラしていて、映画に出てくる高級カジノのようだと思った。

マスターHIROに、おれとトノは二人揃って面接をしてもらった。最初は二人とも緊張していたが、マスターがすごく丁寧な物腰で話を聞いてくれて、おれたちはすぐに笑いながら話せるようになった。
通り一遍の問答が終わると、最後にマスターは念を押してきた。

「ウチはこの通り小さな店だから、二人いっぺんには雇えないよ? 採用するとしたら君たちのうち、どちらか片方になるけど、それでも働きに来れる?」

おれとトノは顔を見合わせたあと「はい、大丈夫です」と答えて面接は終わった。

店内の雰囲気と、マスターたちの人柄に安心していたので、このお店なら一人で働くことになってもやっていけると思った。

それに、採用されるなら絶対にトノの方だと思っていたので、おれに気負いはなかった。
トノの水商売デビューのために付き添いに来たようなものだ。すっかり肩の荷を降ろしたつもりでホっとしていた。

しかし、数日後、マスターから採用の連絡があったのはおれの方だった。

すっかりトノに譲ったつもりでいたので戸惑ったが、トノに背中を押された。

「すげえ雰囲気良さそうな店だったし、せっかく受かったんだから、行ってこいよ」

働きたがっていたトノの気持ちを考えると、ここで断るのもなんだなあと思い、おれは1人で水商売デビューすることになった。

【続く】

【注意】この記事には未成年が飲酒したり飲酒を強要される描写がありますが、これらの内容はすべてフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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