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霞 ~10.癒し~

「平気?」
声が近い。
「ああ、なんでもない。急に体を冷やしたからだろう。」
当たり障りのない返事をした。緋乃が、背後から私の冷たい肩に手を置く。同じ水風呂に入っていたのに温かい。そのまま、首筋から肩甲骨に掛けてゆっくりとさすった。少しずつ鼓動が早くなっていく。肩を優しく揉み始めた彼女の右手をとり、そのまま体をまわす。するとあわてて両腕で胸を覆い、後ずさりして体を湯に沈めると視線を外した。
畳一枚ほどの小さな露天風呂、手を伸ばせば届く距離だ。
「明るすぎて、…顔から火が出るほど恥ずかしい。」
小さくそう呟く。
「”恥らう乙女の図”、か。新鮮だね。」
照れくさそうに水面に落としていた視線を、顔とともにキッとこちらに向けた。そして、すぐに表情を変える。舌先を前歯で少し噛み、やや上目遣いで悪戯っぽく笑う。小さな波を立てて近づき、立てた私の右膝に肘をかけた。
「へぇー、そういう言い方するんだ。」
そう言うと、中指先で湯面を弾いた。ピッ、と顎に暖かいしぶきがかかる。しばらくこちらを見つめていたが、やがて肩をすくめて微笑み体を伸ばし気味に私の左肩に頭を乗せた。ちょうど緋乃の胸先が私のをくすぐる。体は内側に向かってしだいに温かくなった。しかし、それと違う速さで体が変化していくのを感じた。

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恋愛感情の描写よりも、女性の強さ畏れを描いてみました。自分の失敗談も含めてこんな出会いがあってもいいかな、と。

仕事を通じて知り合った、年の差のある二人。何度か二人で食事に行った後、初めて彼女から「温泉に行きたい」と言ってきた。当日は晴れたものの、前…