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霞~7.山茶花~

ストーブのスイッチを入れ、部屋を使っていることを示す札を掛けに外に出る。ドアの前には、長屋と二つの小さな別棟に囲まれるように中庭があり、雪をふんわりかぶった生垣から真紅の花が顔をのぞかせている。白との対比で美しい。未だ山茶花と椿の区別がつかないのだが、1月に咲いているところを見ると椿ではなかろう。『花の咲くのが春だから、木篇に春で椿』と覚えた。しかしこのツバキを表す椿という漢字は日本製で、漢名は山茶花、つまりサザンカの漢字表記が本来の名前らしい。『表記・読みが山茶花→茶山花→さざんかと変化し、日本原産のサザンカを表す漢字になった。』とか。では本来サザンカは、漢字でどう表していたのだろうか。

 いろいろ考えているうちに、上着なしの体が冷え始めた。部屋に戻ると、内湯から水音がする。待ちきれず緋乃が入っているようだ。服を脱いでガラス戸を開けると、彼女はくるりと背を向け奥へ進んだ。薄暗い湯殿の奥に、白いうなじが浮かんで見える。湯舟に体を沈め終わっても、離れたところで横を向いたままじっとしている。

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恋愛感情の描写よりも、女性の強さ畏れを描いてみました。自分の失敗談も含めてこんな出会いがあってもいいかな、と。

仕事を通じて知り合った、年の差のある二人。何度か二人で食事に行った後、初めて彼女から「温泉に行きたい」と言ってきた。当日は晴れたものの、前…