見出し画像

短編331.『オーバー阿佐ヶ谷』31

31

【小石川真妃奈の場合①】

 あー。面倒くさかった。ダルいダルい、そしてダルい。おっさん二人相手にコンパニオンみたいな真似事するなら時給欲しいわ。怪物?馬鹿くさい。いい歳した大人が何信じてんだろ。大人になれ、って話だよホント。

 寒いなぁ。あのバーで何か食べさせてもらえば良かった。何か買って帰ろうかなー。でも、この時間に何か食べたら絶対太るだろうな。ただでさえ、脂肪が落ちにくい年齢になってきたのに。お肌の曲がり角、出産適齢期、「結婚はまだなの?」。あーうるさい。セクハラセクハラ。

 でもマジ友達はみんな結婚していくなー。そういえば、この前の式の料理サイアクだったな。お花の飾り付けもケチってたし。どんだけ金ねーんだよ。御祝儀三万なんてぼったくりもいいとこだよ。でも、あの目。勝ち誇ったようなあの目が忘れられない。負け組女達を見下したようなあの目。ウザッ。あのデブ、ウザッ。ちょーし乗んなよマジで。

 さっきの小牧なんとか、って芸能人、パパ活してくんねーかな。お茶は一回二万、カラオケ二時間五万、一日デートで十万、その先はーーー。うーん。アタシの値段って今いくらが相場なんだろ。もうJKじゃないしなー。エンコーやってた頃が懐かしー。またプラダの財布とかグッチの鞄とか持ちてー。

 あの変な名前の三つ編みクソラッパー、「電車で帰ろうぜ」なんて随分舐められたもんだなアタシも。女相手にタクシー代もケチるようじゃ先が見えてるね。きっと夢を追いかけるとかなんとか言って、ずっと独り身で最後は孤独死すんだろーな。社会の迷惑。ホントさっさと死ねって感じ。

 てかケータイ番号とかいらないっつーの。下心見え見え。マジキモいからホント。LINEとか教えなくて良かったー。なにが「場所が分からなかったら電話くれ」だよ。掛ける訳ねーじゃん。何の為のスマホだよ。Googleとか知らないのかな。やだやだ。歳は取りたくないねー。

 んーーーーー。

 ーーー潮時、かな。演劇にもそろそろ見切りつけよーかな。実家を出る口実に始めただけだもんな。ホントは演技とかキョーミないし。それに演劇界って全然イケメンいないし、みんな貧乏だし、サイアク。ファンはいちいちダメ出ししてくる口うるさいキモいオヤジばっかだし、趣味悪い差し入れもらって笑顔で「ありがとー♡」なんて、何やってんだろアタシ。クッキーなんかより金よこせっつーの。アタシとチェキ撮りたかったら一回壱万円だろ馬鹿野郎。五百円なんて今どき何買ぇやいいのよ。

 早くいい男見つけて結婚してー。私を愛して養ってくれて贅沢させてくれるような男、どっかにいないかなー。港区のタワマンとか住んで、ママ友とフレンチでランチして。あー働きたくねー。てか、さみぃー。喪服薄着過ぎ。

 …あったあった。ここか。『ソルト・ピーナッツ』。全然お洒落じゃない。汚ったねー店。イスにケツつけたくねー。でもって、トイレとか最悪そう。未だに和式かな。コンビニ寄ってくりゃ良かったー。

 中にいるおっさん引っ掛けて二、三杯奢らせて早く帰ろー。あー生理痛ー。ハラ痛ぇー。




#阿佐ヶ谷  #Google #結婚 #小劇団 #女優 #演劇 #小説 #短編小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?