見出し画像

深夜の劇場 オレンジフェリー編

7月30日。私は東予港からオレンジフェリー「おれんじおおさか」に乗船しました。

「おれんじおおさか」と姉妹船「おれんじえひめ」がどんな船かというとこんな感じ。

「おれんじおおさか」は定刻22時に出港。船旅を楽しみたいところですが、翌朝の大阪南港到着は6時。さっさと寝ないと翌日の行動に支障が出ます。船内のレストランで夕食(鯛めし)(美味い)を食べ、乗船中いつでも入れる大浴場にもそそくさと入り、寝る準備を整えます。

↑船内レストランの宇和島鯛めし

時刻は23時。5時まで寝れば6時間睡眠。逆に睡眠時間を1時間切り詰めれば、明石海峡大橋通過を拝める。二つの選択肢を用意した状態で、床に就きました。




ほどよく睡眠を取った感覚の後、目が覚めました。5時に設定した目覚ましは鳴っていません。眠くはありますが、明石海峡大橋通過前なら見逃すわけにはいかない。手元の時計を確認します。

なんか、針が変な方向を向いてますね。んん?何時だ???





ようやく目と脳が覚醒し、正確な時間を把握できました。

時刻は午前1時です。




は?????





よくこんな時間に起きたな。考えていた予定のどっちでもないんだが。


いずれにしても、明日のこともあるので寝よう。
そう考える前に、私の頭はある事実を思い出しました。

『定時運航なら香川県沖』

ベッドから起き上がり、カーテンを開けます。この日の船室は右舷側なので、香川県が見えているはずです。

見えました。右前方、1時から2時の方向に灯りが見えます。周囲を見回しますが、瀬戸大橋の姿はありません。となるとあれは丸亀周辺ではなく高松のものか。瀬戸大橋は既にくぐり抜け、坂出の五色台沖に達していたようです。
わずかに残った理性がもう寝ようと訴えかけますが、オレンジフェリーから高松を眺められる機会など見逃せるわけがありません。カメラを携え、最上甲板に出ます。

香川県沖の瀬戸内海のうち、牛島(丸亀市)付近から男木島(高松市)付近までは一定以上の大きさの船に12ノット(約22km/h)の速度制限がかかります。「おれんじおおさか」も他の海域より速力を落とし、凪いだ水面を滑るようにしずしずと進みます。

画像4

奥に見えるのが、高松市街地の町灯りですね。
波の音と風の音しか聞こえず、自分以外の乗客は恐らく誰も見ていない穏やかな景色をぼんやりと眺めるのは、なかなか良い気分です。

やがて右前方に黒い影が近づいてきました。右の方には集落の灯りが見えます。

画像2

男木島です。島の北端からは男木島灯台が光を放ち、行き交う船の安全を守っています。男木島港からは徒歩30分ほどと多少距離がありますが、とても雰囲気の良いところです。いずれまた訪ねたいですね。

画像3

↑中央の灯りが男木島灯台

男木島をすり抜けると、速度制限は解除になります。大阪へ向けて徐々に速力を上げ、高松の町灯りは遠ざかります。

が、船好きにとってのメインイベントはここから。

来ました。
名門大洋フェリー「フェリーきょうとⅡ」です。備讃瀬戸会場センターの大型船情報では、「おれんじおおさか」の五分後を追って備讃瀬戸航路に入ってきます。それがこの距離まで近づいてきました。

「おれんじおおさか」の航海速力は約20ノット。一方、「フェリーきょうとⅡ」は23.2ノット。向こうのほうが優速ですし、大阪南港到着時刻もこちらの6時に対して向こうは5時30分。つまり、大阪に着く前に追い抜かれるわけです。ではどこで追い抜かれるか。どうやらこのあたり(※小豆島沖)のようですね。


じわじわと大きくなっているような気がする「フェリーきょうとⅡ」をにらみつけていると、反対の左舷後方を光の塊が遠ざかっていきます。

画像5

東予港へ向かう「おれんじえひめ」です。「フェリーきょうとⅡ」に気を取られて失念していました。これはひどい。

「おれんじえひめ」はすぐに小さくなり、再び「フェリーきょうとⅡ」に集中します。

画像6

←フェリーきょうとⅡ                おれんじえひめ→

大きな速度差はないのでなかなか近づきません。が、それでもじわじわと距離が詰まり、だんだんと横に近い位置に見えてきます。

画像7

そして、真横に並びました。

画像8

全長199.94m、14,759総トンの「おれんじおおさか」と、全長167m、9,731総トンの「フェリーきょうとⅡ」。2隻の大型フェリーが40km/h近い速度で並走している光景は、壮観という他ありません。一度ぐらい船外から拝みたいものです。

が、この並走が思ったより長い。デカい&ほとんど速度差ない&距離が離れているのを考えると、まあそうなりますね。

何にせよ、ほぼ並んだので、このまま追い抜かれるのは間違いないでしょう。というわけで部屋に戻ります。いい加減寝ないといけませんから。(今更)

部屋に戻ってカーテンを開けると、「フェリーきょうとⅡ」の光はまだ見えましたが、先ほどよりもやや前方にいました。このまま「おれんじおおさか」を置いていくようです。「記事書くわけでもないし、これで見届けたことにしていいか」と思い、気分良く眠りに落ちました。



今度こそ翌朝。5時にセットした目覚まし時計にたたき起こされます。明石海峡大橋の通過は次の機会にお預けとなりました。出来れば日の出の早い時期に拝んでおきたかったのですが……

5時45分頃には既に岸壁の目前まで来ています。ここから180°向きを変えて着岸するわけですが、オレンジフェリーが使うターミナルは名門大洋フェリーと同じです。つまり

画像1

また会いましたね、「フェリーきょうとⅡ」。

名門大洋フェリーによるオレンジフェリー追い抜きが行われているのは知っていましたが、実際に目にするとなかなか感じるものがあります。文字や画像の情報と自分の知覚が一致するのは、やはり気持ちのよいものです。

ただ、何というか


地味ですね。非常に静かな追い抜き劇でした。
ただでさえ草木も眠る丑三つ時の出来事なうえに、本格的な夜行航路としては短めの航海時間なので、よっぽど興味のある人以外はしっかり睡眠を取ることをおすすめします。

何にせよ、オレンジフェリーの楽しい思い出がまた増えました。
自慢の鯛めしもブランド鯛を使うようになったとのことなので、近いうちに改めて乗りたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?