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ハイジ

1997年10月26日(日)
ねずみ色の母なる人はどこまでも残忍だった。
ねずみ色の父なる人はどこまでも見ているだけだった。
ぼくがそれに気づいた瞬間、風呂の栓がぬかれたようにぼくたちの「場」が崩壊した。
天地左右が一緒くたのような混乱の中から、ぼくは監禁されていたハイジだけを助け出した。
ぼくが助けたかったのは、助けなければならなかったのはハイジだけだった。
ぼくは大人じゃないけど、ハイジは全然重さがなかったから、抱き上げて階段を駆けおりた。

ハイジのこころもからだも緊張していた。階下に、一人でゆっくりできる浴室が幾つかある。驚かないようにぬるい湯で、静かにハイジは緊張を解きほぐさなければならない。
浅く張られた湯は用意ができていた。 ハイジをそーっと湯舟におろした。
慣れてきたら、自分に丁度よいお湯にして、手足を伸ばしなさい。
ハイジは怯えきった目で見上げていた。
大丈夫。だれも邪魔はしないよ。ひとりでゆっくり緊張をほぐしなさい。
ハイジが恐がらないように音を立てないでドアを閉じた。

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