返還

1998年1月12日(月)
山口へバスの旅。たぶんそっちの方。
ロウのような皮膚に太針金を短く切って埋めこんだようなひげのある女の人が、朱の服を持ってこちらへ来た。確か、この人は、かっこよくて好きだった人だ。昔とは全然違って、胸が痛む様子だ。灰色のよい服を着てはいるが、いまは貧乏で構えなくなってひげを生やしたままなのだろうと思った。
女の人はわたしに謝りながら、このスーツ─ダブルの襟なし上着とスカート─はあなたのものだ、と言った。
届けてくれたそれに、わたしは見覚えがなかったし、赤い色にも好感が持てなかった。赤が強い朱だ。
「このポケット─臍の辺り─はね、縫い閉じられているの。袷の内側に入ってしまうから」と説明してくれた。

縫い閉じられたポケットって、何?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?