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なるようになる。 養老孟司 聞き手 鵜飼哲夫

   

ひとり遅れの読書みち      第8号


    大ベストセラー「バカの壁」の著者、養老孟司さんが新刊を出した。「なるようになる。」
「バカの壁」発行から20年。「壁」は「どう考えるか」についての本だったが、今回の本は養老さんが「どう生きてきたか、何をやってきたか」を書いた。自伝風の書。 
    色々な場所でさまざまな発言をしている養老さんだが、どうしてそういう考えをするのか、その源の一端を窺い知ることができそうだ。 
    新聞記者の鵜飼哲夫さんが7回30時間以上にわたってインタビューしたのをまとめた。
    幼い頃に虫が好きだったことはよく知られている。それだけではない。4歳頃に亡くなった父の思い出から始まって、小中高、大学、大学院さらには助手の時代などを経て今日至るまで体験してきた印象的な話しを明かしている。時々の写真も添えられて、著書への親しみが増す。
    父は死ぬ当日、飼っていた文鳥を放して自由にしたこととか、高校時代昆虫同好会を作って会報を出し、ガリ版で原稿を書いていたこと。それで今も字を崩して書けない。虫好きの生徒としてテレビで報じられたことも触れらている。
     終戦直後に教師から教科書を黒で塗りつぶすように言われたことが衝撃であり、その後の生き方に決定的な影響を与えた。そして明治維新もそうだったが、「制度やシステムなんていうものは、諸般の事情によって変えてもいい、過去のものも必要ならば捨ててもかまわないといった考え方はどこからきたのか」。今でも大きな疑問に思っていると強調する。
    大学で解剖を専門にするくだりは既に何度も語られているが、遺体の引き取りの際の苦労話しも述べられる。東大紛争の時には、学生たちが押し掛けて研究室を追い出され利用できなかったとの体験も。
    その時学生たちから「自分たちの日常生活と有機的関連のない学問はいらない」と詰問され、その問いを必死に考えざるをえなかったと明かす。
    「なるようになる」というと、なげやりのように聞こえる。が、決してそうではないと断り 「一生懸命生きてきた」歩みだったとふりかえる。つきつめて考えること、豊富な読書量、人は自然の一部という意識を常に持っていることなどが養老さんの特徴として挙げられるだろうか。
    考えることに集中して自動車事故を起こしたことがあり、免許を返納した。結婚式にも本を手放さなかったとひんしゅくをかったそうだ。
    「放っておくと人が歩くときに転ぶ穴を埋めるように、社会のニーズに応えることが仕事だと思っている」と述べる。私たちにも「危ない穴」に気づかせてくれようとしている。
    また「世界中どこに行っても、時代がどう変わっても変わらないもの」「真理」を一生追いかけたいとの心情を吐露する。
    「人生の問題に正解なんてない」と言いながら、ひとりひとりが自然の一員として自覚し誠実に生きていくことが重要とし、また体を動かす大事さを繰り返し強調する。「バットを振らなきゃボールに当たらない」「野球教本ばかり読んでもダメ」、体を動かして「理屈通り」にならない自然に接し感覚を広げることが大事とする。
    人生をふりかえるとと改めて問われると、孫悟空の話しを持ち出す。孫悟空が筋斗雲に乗って世界の果てまで飛んで行くと柱があったのでそこに名前を書いてきたら、その柱はお釈迦様の指だった。ずっと掌の上にいたことがわかったという話し。
    若い者には「この先がどうなるんでしょうか」と問うのではなく、「この先どうする」かを考えろとハッパをかけることを忘れない。
   

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