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70歳前半、もう少しだけ若さを保ちたいなぁと思っています。ゆっくり投稿していきます。

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最近の記事

『西行 歌と旅と人生』寺澤行忠

ひとり遅れの読書みち 第20号 老若男女を問わず多くの人々が心惹かれる歌人西行について、「実証に基づき、文化史の中で改めて光を当て」「新しいひとつの西行像の彫琢」を試みる。数多くの西行の歌を書き込み、わかりやすい言葉で訳文を添えた。歌の背景や状況などをていねいに解説しており、読み進むにつれて西行の全体像が次第に浮き上がってくる。西行を愛好する人にとって必読の書と言えるだろう。 西行は藤原俊成や定家とともに新古今時代を代表する歌人であり、『新古今和歌集』

    • 『危機の地政学 感染爆発、気候変動、テクノロジーの脅威』 イアン ・ブレマー

      ひとり遅れの読書みち 第19号 国際的な政治学者イアン・ ブレマーが、現在の危機的な状況にある世界を「対立」ではなく「協調」によって、持続的な安定した平和を構築すべきと訴える警告の書である。 数多くの国々が対立し、しかもそれぞれの国の内部は様々に分断された状態が続いている。確実に危機が迫っている現状は、互いに対立している場合ではないと警鐘をならす。 パンデミック、気候変動、破壊的なテクノロジーという3つの脅威を取りあげ、それぞれの実情とその及

      • 『ヘルンとセツ』 田渕久美子

        ひとり遅れの読書みち 第18号 ラフカディオ ハーン(小泉八雲)とその妻セツ(節)の生き方と出会いを描く。運命的な出会いをし、不思議な縁で結ばれたふたり。人種や国籍を問わない確かな結びつきを、作者の筆が温かくつづる。 今でこそ国際結婚は珍しくない。だが西洋人を見るのもまれで、多くの人が恐れてもいた時代。さらに外国人と「夫婦」となっても「夫」が故国へ帰ると関係は解消されてしまうのがほとんど。言わば「妻」といっても「妾」にすぎなかった。

        • 『紀貫之』 大岡信

          ひとり遅れの読書みち 第17号 正岡子規が「歌よみに与ふる書」の中で「貫之は下手な歌よみにて古今集はくだらぬ集に有之候」と厳しい指摘をしたことから、古今集の代表的な歌人であり集の仮名序の作者の紀貫之については評価が低いと、一般的に考えられている。そうではないのだと、大岡信は数多くの歌を例に挙げながら、また時代の背景や歴史をふりかえりながら反論していく。和歌のよみ方についても多くの示唆に富む書である。 貫之の歌の「面白さ」に初めてふれた思いがしたと

        『西行 歌と旅と人生』寺澤行忠

          『城下の人』 石光真清

          ひとり遅れの読書みち 第16号 明治元年に熊本で生まれた石光真清の生涯を描いた手記である。熊本細川藩の産物方頭取の息子として誕生した石光は、維新直後の政情不安の中、熊本で起きた神風連の乱、西南戦争を子供時代に過ごし、長ずるに及んで陸軍幼年学校を経て士官となって、近衛師団に所属、日清戦争に従軍する。戦後の三国干渉に衝撃を受け、ロシア研究の必要性を自覚し、ついには諜報活動に生涯を捧げることになる。 石光は昭和17年に没する。遺稿を長子の真人が整理して発表し

          『城下の人』 石光真清

          『母の最終講義』 最相葉月

          ひとり遅れの読書みち 第15号 「絶対音感」「セラピスト」「証し」など意欲的なノンフィクション作品を書き続ける最相葉月のエッセイ集だ。これまでの人生の半分を費やしてきた親の介護について、細やかな心を込めて描いている。読む者の心に静かな安らぎを与えてくれる。 また、父と母の介護生活を続けながらの取材活動の難しさや苦労話も多い。長い間介護しながら鋭い作品をいくつも書き続けてきたことに驚く。とりわけノンフィクションの作品は、どれもいろんな地域に出かけ数多くのインタ

          『母の最終講義』 最相葉月

          『不寛容論』アメリカが生んだ「共存」の哲学 森本あんり

          ひとり遅れの読書みち 第14号 21世紀の社会は「否応なく自分と異なる思想や価値観をもった人と共存してゆかねばならない世界である」「そのための心構えをしておく必要」があるとして、著者は歴史を振り返りながら「寛容」について考える。 日本でよく聞かれるのが、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教など一神教はどうしても他者や他宗教に対して不寛容だ。「日本は多神教だから寛容だ」という説。さらには多神教だからこそ、宗教や民族間の争いやもめ事には「仲介」「和解」

          『不寛容論』アメリカが生んだ「共存」の哲学 森本あんり

          『戒厳』 四方田犬彦

          ひとり遅れの読書みち 第13号 大学を卒業したばかりの若者(瀬能)が1979年ふとしたきっかけで韓国の大学で1年間日本語の教師を務める。日本と異なった慣習や生き方に戸惑う中、朴正熈大統領暗殺、戒厳令発動という局面にぶつかる。 法律の全面停止、三権の軍移管。軍隊は自由に市民を拘束連行し軍法会議で処罰可能。午後10時から夜間通行禁止、5人以上の集会禁止、大学閉鎖となった。 大統領と警護室長をKCIA(中央情報部)のトップが射殺するという事件。KC

          『戒厳』 四方田犬彦

          『また会う日まで』 池沢夏樹

          ひとり遅れの読書みち 第12号 著者の大叔父(祖母の兄)秋吉利雄の生涯を振り返る物語である。海軍少将であり、天文学者、しかも熱心なキリスト教徒(プロテスタント)という3本の柱を持つ人物。 明治25年生まれで太平洋戦争後の昭和23年に死去するまでの生涯をたどることで、秋吉の内面を伺い知るとともに、その人の生きた日本の近代史を私たちも知ることになる。 18歳の時25倍という倍率をかいくぐって海軍兵学校に入り、42期卒業時には同期生117人のうち16位に

          『また会う日まで』 池沢夏樹

          『歴史としての二十世紀』 高坂正堯

          ひとり遅れの読書みち 第11号 国際政治学者として著名な高坂正堯京都大学教授が、1990年に行った6回の講演録である。ベルリンの壁が崩壊しドイツが統一されるという、まさに現代社会の「大きな転換点」にあたる時期だった。 「歴史としての二十世紀」がどうだったのかを整理して、我々がどのような時代に生きてきたのかを考察し、さらに今後どう進むべきかの指針を示す。 高坂は戦争、恐慌、共産主義、経済発展、大衆、文明などについて論じているが、中でも「最大のテー

          『歴史としての二十世紀』 高坂正堯

          『新古事記』 村田喜代子 読書感想文

          ひとり遅れの読書みち 第10号 「その小さな神たちが行き場を探して右往左往している。辺りは火火火火火火、赤いものがボウボウと襲いかかる。世界は戦さの火だらけだ。火火火火火火が荒れ狂う」 太平洋戦争中の1943年5月、原爆の研究開発を進めるアメリカ ニューメキシコの研究所に集まる科学者と妻たち。惨劇をもたらす兵器開発のかたわらで、平穏な家庭生活が営まれる。そのコントラストが恐ろしい。 日系三世のアデラは婚約者ベンジャミンに伴われて、ど

          『新古事記』 村田喜代子 読書感想文

          『永遠と横道世之介』 吉田修一

          ひとり遅れの読書みち 第9号 読み進むと気持ちがほんわか、ホッとしてくる。著者は、生きる喜び、生きる幸せ、人に尽くす幸福といった言葉を直球で投げかけてくる。 必死に生きる、力強く生きる--といったこととはちょっと違うだろうか。 人と比較したりせず、リラックスして生き、しかも人の気持ち、情を大事にする生き方。人を失う悲しみやあわれさにしんみりするものの、命の大切さを教えてくれる。大人のメルヘンと言えるか。 シリーズ3作目。39歳のカメラマン

          『永遠と横道世之介』 吉田修一

          なるようになる。 養老孟司 聞き手 鵜飼哲夫

          ひとり遅れの読書みち 第8号 大ベストセラー「バカの壁」の著者、養老孟司さんが新刊を出した。「なるようになる。」 「バカの壁」発行から20年。「壁」は「どう考えるか」についての本だったが、今回の本は養老さんが「どう生きてきたか、何をやってきたか」を書いた。自伝風の書。 色々な場所でさまざまな発言をしている養老さんだが、どうしてそういう考えをするのか、その源の一端を窺い知ることができそうだ。 新聞記者の鵜飼哲夫さんが7回30時

          なるようになる。 養老孟司 聞き手 鵜飼哲夫

          リンカーン 上 南北戦争勃発 下 奴隷解放宣言

          ドリス カーンズ グッドウイン 平岡緑 訳 ひとり遅れの読書みち 第7号 米国第16代大統領エイブラハム リンカンが大統領候補として共和党の指名をうけた1860年から暗殺された1865年までを詳しく描いている。 リンカンや南北戦争を扱った著作はすでに数多く出版されている。本書が特色としているのは、リンカンとその妻、家族をはじめ、政権で主要な閣僚を務めた人物たちとの関係を、これまであまり省みられなかった情報

          リンカーン 上 南北戦争勃発 下 奴隷解放宣言

          グッドバイ 朝井まかて

          ひとり遅れの読書みち 第6号 黒船の来航騒ぎで世の中が揺れ動く幕末、長崎の油商、大浦屋のお希以(のちに慶)は、異国との交易に乗り出す。もっぱら油を商いにしてきた由緒ある店を、全く畑違いの茶葉の輸出ヘと転換。度胸と熱情、そして信義に基づいた商いによって、「長崎の三女傑」と評価されるまでになっていく。 『グッドバイ』は、幕末から維新ヘと大きく歴史が動いた時代に、たくましく生きたひとりの女性実業家、大浦慶を描いて、二十一世紀に生きる私たちにも驚きを与えまた

          グッドバイ 朝井まかて

          こころはどう捉えられてきたか 江戸思想史散策 田尻祐一郎

          ひとり遅れの読書みち 第5号 「こころ」という視角から江戸時代の思想を捉えようとの試みである。ともすれば「封建的な道徳や無味乾燥の教学で埋め尽くされている」と思われている思想家たち。語句が難しかったりして、ちょっと敬遠したくなるが、著者は「あまり構えないで、気ままに江戸時代の思想史を覗(のぞ)いてみよう」と筆をとったという。 「こころ」をめぐっては、当時の人も今日の私たちと同じように考えていた面があり、今日と同様な問題にぶつかっていたことがわかっ

          こころはどう捉えられてきたか 江戸思想史散策 田尻祐一郎