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夏祭り花火大会

「だぁーーーーーー」
「どうしたんだよ、壊れた自動販売機みたいな声出して」
「いや・・・長くないっすか?夏休み」
「そりゃ夏休みだからな」
「暇なんすよ、めちゃくちゃ」
「暇って言ってもお前、練習があるだろ」
「練習、練習、練習・・・・・・俺らの青春それだけすか」
「まあ、そう言うな。ほれ、あれ見ろ」

先輩が部室に貼られたポスターを指差す。

「夏祭り花火大会・・・」
「そう、この町のビッグイベントだ」
「夏祭り花火大会・・・・」
「どうした?」

後輩は顎に手を当てて考え込む仕草をとる。

「夏祭り花火大会って、どっちがメインなんすか?」
「は・・・?」
「夏祭りなのか、花火大会なのか・・・」
「そりゃお前、花火大会の方だろ。みんな花火の場所取りに躍起だし、花火終わったら帰ってくしな」
「じゃあ花火大会だけでいいような・・・」

先輩は分かりやすく深い溜息をついた。

「お前は分かってないな。そんなだからいつまで経っても後輩なんだよ」
「時間の経過に伴って先輩と後輩が逆転するなんて話聞いたことないですよ」
「いつまで経ってもひよっこだってことだよ。それだけお前は分かってないっていう例えだよ」
「何を分かってないっていうんですか」
「情緒だよ情緒。夏と言ったらお前、夏祭りだろうが」
「そうですかねぇ・・・別に花火大会でも変わらないような」
「いいか?想像してみろ。お前に幼馴染の女の子がいるとする」
「はい」
「その子に夏祭り行こ!って誘われるのと花火大会行こ!って誘われるのどっちが嬉しい?」
「どっちも嬉しいっす」
「いや、絶対夏祭りだろ!!!!」

思いの外声が大きかったらしく遠くまで声が反響する。
その反響が収まるのを待って、先輩が少し冷静になったのを見計って後輩が言う。

「じゃあ、俺が幼馴染の女子だとします」
「おう」
「花火大会に誘うんであっさり断ってください」
「上等だコラ!夏祭りじゃなけりゃ断ってやるわ。情緒がないからな」

後輩はすっと立ち上がり自分の髪を撫でる仕草をする。

「ねぇ、コウジ・・・」
「なんだよ、急に呼び出して」
「ううん・・・なんでもない」
「なんでもないなら呼び出すなよ・・・」
「何よ!その言い方ッ・・・!」

先輩と後輩は向かい合って固まっている。

「いや幼馴染のディティールが細かくてやりづらいわ」
「先輩もノリノリじゃないすか」
「いいから早く誘えよ、夏祭り」
「花火大会す」

後輩がまた髪をいじる。

「今夜空いてる・・・?」
「あ・・・?なんだよ、急に」
「空いてたらでいいんだけどさ・・・花火大会・・・いかないッ?」
「花火大会??」
「別にアンタと一緒に花火見たいってわけじゃないんだからね!ただ・・・」
「ただ・・・?」
「ただ・・・もう、鈍感ッ!!19時に校門前に集合!!1分でも遅れたらかき氷奢りね!!」
「ちょ、おい!待てよ・・・」

後輩が走り出し、その後ろ姿に手を伸ばす先輩。

「花火・・・大会・・・か」

先輩の顔をじっと覗き込む後輩。

「いや、普通に花火大会として行こうとしてるじゃないすか。情緒どこ行ったんすか」
「さっきの展開はズルいわ。もう夏祭りとか花火大会とか超えたところに情緒あったもん」

その時、遠くからドン!という花火の音が聞こえてきた。
顔を見合わせる先輩と後輩。

「いや今日じゃないすか、花火大会」
「夏祭りな」
「幼馴染から誘われるなんて夢みたいな話、俺らには縁がないってことですね」
「まあ、そう言うな。とりあえず、花火見に行こうや」
「かき氷奢ってください」
「嫌だよ、自分で買え!」
「えーーー、コウジ奢ってよーー!」
「幼馴染を出しても無駄だ」

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