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蝉の遠吠え

「いやぁ〜・・・今日も暑かったな」
「暑かったですね。見てください、Tシャツびしょびしょ」
「着替え持ってきといて正解だったな。牧田なんて途中からTシャツ脱いでやってただろ?あれ接触する時嫌なんだよ」
「わかります。汗がダイレクトに当たってヌメってなるやつ」
「そうそうそう。マジでやめて欲しいわ、あれ」

先輩がボディシートを後輩に差し出す。

「あざす」
「なんか思い出したらサブイボ立ってきたわ」

腕を入念に拭いている先輩を見ながら、後輩の手が止まる。

「どした?」
「いや・・・サブイボって」
「ああ・・・サブイボ・・・言わない?サブイボ」
「いや、なんだかんだサブイボ言ってる人初めて見たなって」
「ああ・・・」

後輩は軽く頭を下げてからボディシートで身体を拭き始める。

「だめかな?」
「え?」
「いや、サブイボって言うの変かな?」
「変じゃないですよ。サブイボって言う人もいるだろうし。ただ、俺の周りの人でサブイボって言ってる人がいなかったので、ちょっと新鮮だったというか」
「ならいいんだけどさ」

ボディシート特有のメントールの香りが更衣室に広がる。

「そういう節があるよな、お前」
「そういう節って?」
「そういうさ・・・しょうもないところに引っかかる節だよ」
「・・・・・・ひょっとして今、俺、怒られてます?」
「いや、怒ってないけど」
「怒ってないんすか」
「怒ってないけどさ、お前、怒られてます?って聞くのやめろよ」
「ちょっとヒートアップしてませんか?」
「してないって。してないけど、お前が薪を焚べてる節はあるぞ」
「先輩のくれたボディシートのおかげで割と身体はスースーしてますけどね」

蝉の鳴き声が更衣室に響く。
すぐ近くにいるのかもしれない。

「で、なんの話だっけ?」
「サブイボ・・・?」
「そう、サブイボ。お前はなんて言うんだよ」
「普通鳥肌じゃないですかね」
「ああ、鳥肌ね。それも言うよな」
「俺は断然、鳥肌派ですね」
「鳥肌なー・・・でも、俺はあんまり鳥肌っていうの嫌いなんだよな」
「え・・・嫌いってどういうことですか?」
「いや、鳥肌ってなんか生々しくて気持ち悪くない?鳥の、肌って・・・なぁ?」
「それで言ったらサブイボもなかなかですよ。サブいイボって・・・イボて」
「お前、薪を焚べてるよな・・・絶対」

蝉の鳴き声が止むと、体育館の方向からボールがバウンドする音が聞こえてくる。

「・・・牧田、まだやってんすかね」
「ああ・・・まだ残ってるの、牧田ぐらいだろ」
「3年が引退して2週間経ちますけどレギュラーメンバー固まってないですもんね」
「基本は2年で固めてるけどな」
「牧田もたまに試合出てますよね」
「でも、やっぱりセンターは野崎が安定してるよ。牧田はまだ1年の身体だ。背は高いけどフィジカルが弱いんだよな」
「そうなんすよね・・・だから今度の試合ではパワーフォワードとして使ってみようって監督が言ってました」
「それって・・・俺のポジションじゃね?」
「・・・ですね」

体育館から聞こえるボールが弾む音が静まり返った更衣室にうるさく響く。

「ちょっと鳥肌立ってきたんだけど」
「表現変えてるじゃないですか。自分を持ってください、先輩」

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