やっぱり皮がスキ 39【最終話】

H⑬

 モビルフォースガンガル・スピードスターグランプリ愛媛県東予地区予選の前日、僕たちはフジミ模型スピードスター・サーキットに来ていた。明日に備えて最終チェックを行うためだ。
 明日の東予地区予選は新居浜イオスに特設コースが作られるから、ここでの勝ち負けが予選の結果には繋がらないかもしれないけど、少なくともカイの新型ガンガルと良い勝負はしておきたい。
 デフギヤを装着してから本格的なコースを走らせるのは初めてだけど、ケイおじさんの研究室でおこなった実験の結果から、期待が膨らむ。
 だけど、カイがスピードスター・ボックスから取り出した新型ガンガルを見て、カイもグレードアップしていることがすぐに判った。白かったシャーシが黒くなっていたからだ。
「それって、カーボンシャーシ?」
「そう。思い切って買ったんだ」
 プレミアムモーターを超えるバンダム純正パーツの中で最も高いパーツだ。軽量で剛性が高く、直線でのスピードが伸びる半面、コーナーではシャーシが捩じれないため安定感が少し落ちると言われている。あくまでも直線のスピードで勝負しようという作戦だ。
「これがデフギヤかぁ? コーナリングで勝負するんだな?」
「うん。もう飛び出したりはしないよ、多分」
 カイと互いのマシンを見せあっていると、リュウとミライも割り込んできた。
「僕はハイパーモーターに変えたんだ。過去の予選のコースには必ず急坂があったからね」
「わたしはガイドローラーをベアリングローラーにしたの。色もピンクでカワイイでしょ?」
 みんな明日の予選に向けて張り切っている。負けられないな。
 中学生のお兄さんたちのレースが終わり、僕たちの順番が来た。ジャンケンでレーンを選ぶ。カイが勝ち、4レーンを選んだ。4レーンは最終コーナーの手前で1レーンにレーンチェンジする。最終コーナーのRが周回ごとに徐々に大きくなっていくレーンを選んだということは後半追い上げの作戦だ。次にミライは3レーンを選んだ。次は僕の番だ。1レーンを選んだ。最終周の最終コーナーでカイが4レーンとなり、僕が1レーンとなる。コーナリングスピードと直線スピードとの勝負だ。
 中学生のお兄さんがスターターをやってくれることになった。
「いくよ。レディーゴー!」
 4人が同時に手を放した。
 ダッシュモーターを積んでいる僕の旧ガンガルが先頭に立ったけど、前回ほど差が開かない。車体半分くらいの差でカイが付いてきて、ミライのゲルグとリュウのアッカムがほぼ並んでいる。1コーナーに侵入する時にはカイの新ガンガルの方が少し前に出ていたけど、コーナーに入った瞬間、一気に逆転する。Rのきつい内側を廻る僕の旧ガンガルは綺麗にコーナーを駆け抜けていった。そして2コーナーまでの短い直線でまた新ガンガルが追い付いてきたけど、コーナーで差を広げる。3、4、5、6、7と小さなコーナーが連続して続き、レーンチェンジを経てバンクの付いた最終コーナーへ突入する。僕の旧ガンガルはバンクのついた最終コーナーも綺麗に立ち上がり、先頭でホームストレートに戻ってきた。1レーンに移ったカイの新ガンガルとは車体4台分くらいの差をつけている。しかし、直線スピードに勝るカイの新ガンガルが猛然と差を詰めてきて、ゴールラインを通過したときには車体1台分くらいの差に縮まっていた。3台分ほど遅れてミライのゲルグ、さらに1台分遅れてリュウのアッカムがゴールラインを通過する。
 その後も同じような展開が続く。コーナー区間で差を広げては、ホームストレートで詰められる。3週目の最終コーナー、僕の旧ガンガルは大外の4レーン、カイの新ガンガルは隣の3レーンから立ち上がり直線に入る。ゴールラインを通過した時には車体半分も無かったけど、何とかトップを保ってファイナルラップに入った。
 一周ごとに少しずつ差を詰められている。最後はどうなるか判らないけど、こんなに良い勝負ができているのは初めてだ。興奮しつつも滑るようにコーナーをクリアしていく旧ガンガルから目が離せなかった。
 7コーナーを抜け、先頭の旧ガンガルは4レーンから1レーンへのレーンチェンジの間に、新ガンガルから差を詰められる。そして勝負の最終コーナーへ入った。1レーンのバンクもほとんどスピードを落とさず廻り切り直線へと入った。新ガンガルは4台分ほど遅れているけど、大外の4レーンだけあってこれまでにないスピードで最終コーナーを立ち上がってきた。
 どんどん差が縮まってくる。いつもは一瞬で通り過ぎるゴールラインが遠い。3台分、2台分、1台分、ゴール!
 ほとんど同時だった。
 ミライとリュウのマシンは、僕たちから5秒ほど遅れて競り合いながらゴールした。
「どっちが勝った?」
「さあ」
 カイと僕が顔を見合わせていると、スターターのお兄さんが、「若干、旧ガンガルの方が先にゴールしたように見えた」と云ったら、傍で見ていた他のお兄さんたちは、「いや、最後差し切ったんじゃない?」、「オレには同時に見えた」と意見はバラバラだった。
 結局、勝敗は判らなかったけど、僕は満足していた。この旧ガンガルで、カイのフルスペック・ニューガンガルと互角に渡り合ったのだから。
 マシンを回収し終えると、カイが興奮気味に云った。
「いい勝負だったな。もう一回やろうぜ!」
 
 新居浜イオスで開催された東予地区予選のコースは、想像以上に直線が長く、しかも直線には急坂のジャンプ台があり、僕のマシンには不利なレイアウトだ。
 それでも僕とカイは小学生部門の予選を勝ち抜き、上位6台の決勝戦に駒を進めた。リュウとミライは二回戦で敗退した。
 上位2人が高松で開催される四国予選に進出できるところ、カイは惜しくも3位、僕は6位だった。
 1位と2位は地元新居浜の六年生で、コースレイアウトの情報が早くから廻っていたらしい。カイは泣いて悔しがったけど、僕は6位という結果に満足した。
 僕たちはまだ五年生。来年がある。
 ちなみに、フジミ模型でデフギヤのことを教えてくれた高校生のお兄さんは、中高生部門で優勝した。

 そして、自由研究も完成した。
 最初にデフギヤの仕組みを説明し、ケイおじさんとの実験結果による効果と、実際のレースで決勝戦進出という成果から、デフギヤの有効性を明らかにしたのだ。
 遊びが勉強になるなんて、なんて素晴らしいんだ。やっぱりケイおじさんは凄い。
 だって、僕の自由研究を最も熟読し、最も悔しがったのはカイだったのだから。東予地区予選では負けたけど、自由研究では勝った気しかしない。

 2週間後の放課後、家でキリンゲリオンの再放送を視ていたら、お母さんが仕事から帰ってきた。
「ただいま。ケイおじさんから動画が届いたよ」
「ほんと? 見せて!」
 キリンゲリオンはそっちのけで、お母さんを急かした。きっとジェフのロボットだ。どんなロボットなんだろう? ガンガルみたいなのかな? それともズクかな?
「なんか変な動画なのよ。合成かもしれないよ」
 お母さんはそう言いながら動画を開きスマホを渡してくれた。
「なんだこりゃ?」
 スマホの中で歩いていたのは、ガンガルっぽいけど下半身だけだ。下半身だけの不格好なロボットが2台、よちよちと歩いている。正直言ってカッコ悪い。ジェフはこんなモノを作るために、わざわざ日本にやって来たの?
 でも、少しホッとした。
 どう見てもこれは、ガンガルのような無敵の兵器じゃない。

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