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やっぱり皮がスキ 39【最終話】

H⑬ モビルフォースガンガル・スピードスターグランプリ愛媛県東予地区予選の前日、僕たちはフジミ模型スピードスター・サーキットに来ていた。明日に備えて最終チェックを行うためだ。  明日の東予地区予選は新居浜イオスに特設コースが作られるから、ここでの勝ち負けが予選の結果には繋がらないかもしれないけど、少なくともカイの新型ガンガルと良い勝負はしておきたい。  デフギヤを装着してから本格的なコースを走らせるのは初めてだけど、ケイおじさんの研究室でおこなった実験の結果から、期待が膨らむ

    • やっぱり皮がスキ 38

      M⑬ 東京、いや、千葉から帰って4日後の夜、久々にナツミと二人で食事に行くことになった。デイリーランドのお土産を渡しに行くとメールしたら、飲みながらゆっくり話を聞きたいと返事があったのだ。ナツキちゃんは旦那に見てもらうという。  仕事を終えて土居町唯一のカフェに向かう。カフェとは云っても田舎だからか、メニューは焼鳥とかホルモン焼きとか、要するにお洒落な雰囲気の居酒屋だ。  店に入るとナツミは既に窓際の四人掛け席で、カクテル的な何かを飲んでいた。 「おまたせ」 「いや、わたしも

      • やっぱり皮がスキ 37

        J⑬ フォートスチュワート陸軍駐屯地の70周年記念パレードは無事に終了した。  我らが第88機甲部隊擁するボーディングロイド2基は、パレードの最後尾を約8ノットの速さで、隊列から少し離れて堂々と行進した。  マッシュが乗る1号機には、両腰に20ミリ対空機関砲を装着し、通称『スタッグ』と名付けられた。オルテガの2号機には、股間にM61A2ガトリング砲を備えていて、こちらはずばり『ペニス』だ。どちらの武装も装弾されていない完全なイミテーション。なにしろ、コックピットに攻撃用のボタ

        • やっぱり皮がスキ 36

          H⑫ まったく、お姉さんは元気だなぁ。  昼間あんなに遊んだのに、夜になってもまだ元気だ。さっきからビールをたくさん飲んでいるから、酔っ払っているのかもしれない。ケイおじさんとメグおばさんに、出会いの馴れ初めから結婚するまでの話を根掘り葉掘り聞き出しては、一人で「キャー!」とか「ステキ!」とか「うわっ、おじさんダサい!」とか、騒ぎまくっている。いい大人なのに。  大人たちの会話がひと段落するのを待って、僕はケイおじさんに問い掛ける。 「ねぇ、自由研究のことで相談したいんだけど

        やっぱり皮がスキ 39【最終話】

          やっぱり皮がスキ 35

          M⑫ ジェフが見えなくなると、ハヤトくんも手を振るのを止めた。 「じゃあ、行こうか。デイリーランド!」  そう云うと、彼は不思議なモノを見るような顔でわたしを見上げ、躊躇いがちに「うん」と答えた。  東関東自動車道に乗り、デイリーランドを目指す。 「10時半くらいには着けるかな。いっぱい遊べるね。どのアトラクションから攻めようか?」  助手席に座るハヤトくんに声を掛けると、躊躇いがちに違う言葉が返ってきた。 「お姉さん、ジェフが帰っちゃって寂しくないの?」 「寂しいよ。でも、

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          やっぱり皮がスキ 34

          J⑫「朝まで、一緒にいて欲しい」  それって、どういうことだ? いい歳をした男女が二人、朝まで一緒にいるというのは、そういうことだよな。いやでも、27歳とはいえ、まだあどけなさの残るマドカに限って、そんなこと云い出すはずがない。  そう思いながら隣を見ると、まっすぐに空になったビアグラスを見詰める横顔は、成熟した女性のそれだった。  やっぱり、そういうことなのか。躊躇いがちに口を開く。 「オレ、明日には帰らなくちゃいけないんだ。もう二度と、会えないかもしれないんだぜ」  マド

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          やっぱり皮がスキ 33

          H⑪ メグおばちゃんのケーキはやっぱり絶品だ。四国中央市にはこんなに美味しいケーキは無い。もしかしたら松山市にも無いかもしれない。  ケーキをお代わりして、2切れ食べるとお腹一杯になった。 「そんなに食べて晩御飯大丈夫?」  お姉さんはまた子供扱いしてくるけれど、もういちいち怒らないことにしたので、「うん、大丈夫」と軽くあしらっておいた。  おばさんとお姉さんが、お土産の野菜で盛り上がり始めたので、退屈になった僕はリュックからスピードスターボックスを取り出して、メンテナンスを

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          やっぱり皮がスキ 32

          M⑪ メグミさんの決して広くないキッチンには、シルバーの本格的な調理機器がこれでもかと押し込められていた。 「ずいぶん昔、カリスマ・パティシエールを目指していた頃に買ったモノなんだけど、おかしいでしょ?」 「いえ、おかしいというか、圧倒されます。こんなキッチン見たこと無いので」  調理機器よりも『カリスマ』のところに引っかかりながらも平静を装って答える。でも、あんなに美味しいケーキが作れる理由がわかった。元パティシエールだったのか。  ジェフたちが帰ってくるまでの間、大量に持

          やっぱり皮がスキ 32

          やっぱり皮がスキ 31

          J⑪ ハヤトの伯父さんは、サトウ・ケイイチと名乗った。瘦せていてメガネを掛けて色白で40歳くらいだろうか。風刺画から飛び出して来たかのような、典型的なザ・ジャパニーズという出で立ちだが、イングリッシュが話せるというのでネガティブな印象は一気に吹き飛んだ。日本に来てからイングリッシュが話せる人に出会ったのは、空港のインフォメーションと、ガンガルピットのパートタイマー以来だ。 「実はロボット工学の研究者で、ドクター・ミラーという方を探しているのです。15年ほど前に合衆国で自立二足

          やっぱり皮がスキ 31

          やっぱり皮がスキ 30

          H⑩ 気が付くと、となりでジェフが眠っていた。ボーっとしていた頭はスッキリしている。  少し離れた席のお姉さんもまだ寝ているみたいだし、来た時よりも人が少なくなっていて、妙に静かだ。  廻りをキョロキョロ見廻しているだけでは退屈だ。少しウロウロしてみようとニューガンガル・フルバーストを持って、ジェフを起こさないように静かに立ち上がった。  大きな窓の向こうには芝生の広場が見えていたので、外に出てみることにした。出口のドアを開けると、熱気にムワっと包まれた。  フカフカの芝生の

          やっぱり皮がスキ 30

          やっぱり皮がスキ 29

          M⑩「マドカ、起きて。そろそろ出発しよう」  肩を突かれて目が覚めた。 「ん・・。何時?」 「もう11時30分です」 「11時? 11時30分?」  11時って何? 7時30分には家を出なきゃいけないのに。やばい遅刻だ。遅刻どころか無断欠勤だ!  と焦ったところで、優し気な表情のジェフの顔が映る。  そうだった。いまは永遠の夏休み中で、千葉県のスーパー銭湯だ。  待合わせは13時だからまだ余裕はある。異動に30分、お昼は待合わせのダニーズで食べる。 「そろそろ行かなきゃね。メ

          やっぱり皮がスキ 29

          やっぱり皮がスキ 28

          J⑩ く、苦しい。腹がグイグイと締め付けられていく。  オレは拘束具で椅子に縛り付けられ、眼にはアイマスク、口にはビットギャグを咬ませられている。涎が顎を伝って落ちていくのを感じる。 「ジェファーソン・ジェンキンス曹長、貴様には機密情報を他国のスパイに売り渡した容疑か掛けられている」  ガチョウの声が反響した。ホプキンス旅団長か。  知らない。オレはやっていない。と訴えようとしたが、その声はギャグを通してモガモガというノイズにしかならなかった。 「フォートスチュワート陸軍駐屯

          やっぱり皮がスキ 28

          やっぱり皮がスキ 27

          H⑨ あれ、ここどこだ?  目の前がベージュの壁に覆いつくされている。それになんだか良い匂いがした。周囲を見渡して思い出した。  そうだ、お姉さんのクルマの中だ。  でも、クルマは止まっている。  するとお姉さんが話しかけてきた。 「ごめん、起こしちゃった?」 「うん。いまどこ?」 「もう伯父さんちの近くまで来たよ」  周囲を見渡してみると、コンビニの駐車場のようだ。 「でもまだ大分早いから、どこかで時間潰そうかと思って。UFOが発見された場所が近くにあるっていうから、行って

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          やっぱり皮がスキ 26

          M⑨ 朝6時を廻った辺りで首都高へ入った。  うわぁー、これが首都高か。早朝だというのにクルマが結構走ってる。といっても混んでいるワケではなく、適度な速さで前のクルマに付いて行けるから丁度いい。  首都高は複雑で難しいって聞くけど、最新のナビは優秀だ。あらかじめどっちの車線に寄ればいいかをアナウンスしてくれるから、睡眠不足でボンヤリした頭でも大丈夫。  ビルの谷間を縫うようにして東京の真ん中をすり抜ける。やっぱすっごいなぁ東京は。走っても走っても全然ビルが途切れない。でも、東

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          やっぱり皮がスキ 25

          J⑨ やっと渋滞を抜け、しばらく走ってHAMAMATSUというレストエリアに入った。 「それはすでに限界です。少し寝る」  と云ってマドカはハンドルに突っ伏した。  ハヤトもバックシートで横になってぐっすり眠っている。オレも少し眠っておこうとシートに深く身体を沈め眼を閉じた。 「・・・ねぇ」  耳元で誰かの囁く声が聞えた。 「ねぇジェフ、もう一度」 「んん・・・」  甘い唸り声のような返事をしながらぼんやりとした意識で考える。誰だっけ? 聞いたことがある声だ。 「ねぇったら、

          やっぱり皮がスキ 25

          やっぱり皮がスキ 24

          H⑧ バタンという音で目が覚めた。  目を擦りながら廻りを見渡すと、ジェフがスマホを耳に当てながらクルマから離れていくところだった。運転席のお姉さんはハンドルに頭を乗せて寝ている。ダッシュボードの時計を見ると02:14と表示されていた。夜の2時? そんな夜中なのに、周りには他のクルマも沢山停まっていて、建物の電気もピカピカと光っていて、歩いている人もたくさんいる。夜中じゃないみたいだ。  建物には「浜松」と書いてあるけど、何県だろう? 外を歩いている人たちの中には子供もいるし

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