タイトル

02✒︎『たたみかた』僕らの読後感/灯台もと暮らし・鳥井弘文さん

■たたみかたを読んでみて

「たたみかた」を読み終えたあと、僕はその感想をなかなかうまく言語化することができませんでした。普段であれば何か1冊の本を読み終えたあと、堰を切ったように著者の考えをまとめたくなってしまいます。

でも、この「たたみかた」は違いました。

そんな時、編集長である三根かよこさんの「日経ウーマン」のインタビュー記事を拝読しました。かよこさんは、本誌に込めた思いについて以下のように語っています。

「たたみかた」の主体は一人称の「わたし」です。他人が見ている世界にももちろん興味があるけれど、私はそれを知り得ないから、私はあくまで「わたし」が主語の世界について研究を進めたいと思っています。

 考え方が「右寄り」「左寄り」と言ったりしますよね。「たたみかた」はそれ自体をどうこう言うのではなく、なぜその人がそういう考え方になったのかということを疑問に思うのが出発点です。誰かの発言に対して、「ありえない」とか「何でそんなことを言うの」とか、受けた側は何かしら感情が動きますよね。では、そういう感覚はいつからできたものなのか。

人は、自分が「正しい」と思っていることから自由になれない。だから、「どちらが正しいという問題ではない」ということを知っている状態から始めよう、というのが私の提案です。

引用元:「死ぬまでやってもいいと思える仕事」が欲しかった:日経ウーマンオンライン【わたしとシゴト。】

これを読んだ時、とてもハッとしました。

この「30代のための新しい社会文芸誌」の感想をなかなか言語化できなかった理由がここにありました。 この本を読むということは、編集長・かよこさんの「考える過程」を追体験していることと同義なのです。 それはまるで、SNSやブログ読んでいるような感覚で、とてもウェブ的。

紙の出版物にありがちな「読者に伝えたいことはコレで、だから書籍として出版したんだ!」というわけではなく、あくまでこの文芸誌に書いてある内容は、読んだ人々が各々で考える「きっかけ」にすぎない。 だから、その答えを導き出すのは自分(読み手自身)なんです。 ウェブ記事ではよくあることなのですが、それをあえて紙でやっていることが、僕にはとても新鮮に映りました。

■不特定多数の人々の目に晒されないように城壁をつくるため

では、なぜ今回このような手法を選んだのでしょうか?

それはきっと「不特定多数の人々の目に晒されないように城壁をつくるため」だったのだと思います。 最近ウェブ上では「有料課金型のコンテンツ」が流行しています。このnoteもまさにそうですし、オンラインサロン(コミュニティ)なんかもそう。 有料課金型にすることで、無料で不特定多数の人々のもとに行き届いてしまうことを防ぎ、無駄に炎上することを防げます。

 ただし、ウェブ上の有料課金型というのは、まだまだファンクラブの域を抜け切れていないのも実情です。 有料化してしまうことで、同じようなことに興味関心を抱いている不特定の相手に届けることができないことが、今のウェブ上の有料課金型の弱点とも言えるでしょう。

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この点、「たたみかた」は本屋さんで販売することで、同じような興味関心を抱いている人に向けて、「アタシ社」さんのファン以外の方々にもしっかりと伝えることができています。 内容はウェブ的であっても、売り方は従来の売り方。その点がとても新しいなと僕は思いました。 このことに気がついた時、ウェブメディアを運営している身として、これからのメディアの在り方についてとても考えさせられました。


■安直な答えを届けるのではなく、考えるきっかけを与えたい。

さてもう一点、僕がこの「たたみかた」を読んで強く印象に残ったことは、実際に書籍として出版するまでに3年掛かったというお話です。 なぜこの話が印象に残ったのか? それは、僕らが運営しているウェブメディア「灯台もと暮らし」も、ちょうど3年ほど前に生まれたからです。

3年前と言えば、バイラルメディアが勃興し始めて、キュレーションメディアのようなサイトもドンドンと増え始めていたタイミングです。 でも僕らは、そんな潮流にどこか違和感を感じていました。 安直な答えを届けるのではなく、各人の考えるきっかけを与えたい。自己としっかりと向き合い、これからの暮らしを考えて、各々に見合ったより幸せな生き方を見つけてもらうために。 とてもおこがましい話かもしれませんが、この点で「たたみかた」は同じような問題意識を持って生まれた書籍なのかもしれないなと思ったのです。

■最後に 何も明確な答えを提示しない。

今までの常識ではありえない紙の書籍だと思います。 でもだからこそ、僕はこんなスタイルの文芸誌が成功して欲しいと強く思います。 これは、編集長のかよこさん、そして「アタシ社」さんという出版社と共に成長していくメディア。 今回の「福島特集」にとどまらず、5号目、10号目と回を重ねるごとにドンドンとその価値が高まっていくことは間違いありません。 これからの「たたみかた」がとても楽しみです。

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鳥井さん、この度は本当にありがとうございました。同じ時期に着想して、アウトプットの形は違うけれど、不思議な親近感を感じます。灯台もと暮らしは人格をもった不思議な風合いのメディアだなぁといつも思います。

お互いの5年後、10年後が楽しみですね。負けないぞ〜。なんて、勝ち負けではないですね。(編集長・三根かよこより)

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