箪笥の上の女の人
箪笥の上に、誰も知らない女の人がいた。
彼女はいつも月明かりの中でしか姿が見えない。何のために彼女がそこにいるのか、幼児にはわからなかった。
親も傍にいない真夜中、宵っ張りの幼女はいつまでも眠らずに、覚えた言葉や歌を声に出して遊んでいる。すると彼女が現れる。
背の高い箪笥と天井の間に積まれた新聞紙の隙間から、幼女に眠りなさいと声を掛ける。
「眠りなさい。眠りなさい」
「あのね、汽車に乗ってると怪獣が来てね、もっとはやく走ろう!もっとはやく走ろう!って汽車はね、走ったけど怪獣はね、汽車よりはやくないけど顔がきゅうに前にあるよ」
「眠れないの?」
「眠れるよ。あのね、お布団の上に来たらね、おやすみなさい」
「おやすみなさい。わたしの子はどこに行ったのかしら」
「いないよ。探そうか?」
「眠りなさい」
幼女は部屋中見ていたけれど、子どもはどこにもいなかった。箪笥の上を振り返ると彼女もいない。
幼女はうさぎ、うさぎ、なにみてはねる、と歌いながら、いつの間にか寝てしまう。
うさぎ、うさぎ、なにみて、はねる
じゅうごや、おつきさん、みて、はぁねる
うさぎ、うさぎ、なにみて、はねる
じゅうごや、おつきさん、みて、はぁねる うさぎ、うさぎ、なにみて……
あの人は誰。誰も知らない。やさしかったよ。
難しいです……。