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夜を編め

彼は目を閉じている。目を閉じて考えている。
こんなことは誰にも秘密にして、言わないで。
目を閉じて、失った過去の、気持ちだけ取り戻したい。
先生。音だ。黒いインクだ。まだ。

夜、夜、夜、外にいる。
高架下、飲食店の近くだった。未来を一緒に見たはず。
君は憶えているでしょうか。道の端で

歩み寄った君は手を差し出して
その手を持っているあなたがとても好きだ
全部と握手したくて、両腕を開いたら
あなたは避けてまた歩き出してしまう。
純粋に見えるものは恥ずかしい。ほだされてしまうと言って。

ファーストフード店の飲み物、有楽町
肩を並べてあてもなく歩く、夜、風に吹かれて
こうしてると、失ったものが返ってきたみたいに感じる。
青春の、甦る音が聴こえるよ。

あなたはずっと、大きな道沿いの、車や電車が上を走っている場所で
真夜中に、だれかのそばにいたいと思っていた。

夜を編むんだ。あなたの青春の夜を編む。
春の夜わたしはあなたのそばにいる。
未来のことは、考えないでそばにいる。
長い道も疲れないで(楽しんで)そばにいる。

お洒落なお話はいらない。
星の指輪を持ってきてあげる。
叶うあてがない夢とか、叶った気がしない夢の話をして
悲しい恋の話をして、彷徨うバイクの音を聞いて

ふと胸に懐かしさがやってきても、それは懐かしさではなくて今
もう感じないと思っていたあの夜がやってくる。
わたしがあなたに連れてくる。
そしてまた太陽が昇り来て、あなたはそれを連れたまま往く
わたしも往く 静かに温かい夜を連れたまま、朝へ。

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眠れない夜に

難しいです……。