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碧空戦士アマガサ 第4話「英雄と復讐者」 Part7

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前回のあらすじ
 雨狐<雨垂>との戦いの末、敗北を喫した湊斗。<時雨>本部の救護室で目覚めた彼の元に、カラカサが泣きながら駆け寄ってきた。晴香がカラカサに対し、「秘密を明かさねばみたらし団子のタレをかけるぞ」と尋問を行ったのだという。
 そうしてはじまった口論の末、湊斗は<時雨>本部を飛び出したが──?

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 バシャバシャ、ダババババババ……

『げぼぼあばばばあばば……』

 <時雨>本部から歩いて数分のところにある、公園の端。

 設置された外水道から放出される水が、カラカサに盛大に浴びせられる。派手な水音が響く中、湊斗は持っていた手ぬぐいでゴシゴシとカラカサの表面を拭きあげる。

『あばばばばげぼっ……ねぇ湊斗、がばばばば』

「ん?」

『ばばばっがぼっ、どしたのさばばば』

「なにが?」

『あばばばばがばっ。えらくムキにあばばばっ、なってたみたいだけど?』

「……別に」

 キュッ。

 湊斗は素っ気なく返事をしながら、水を止める。

「なんでもないよ」

『ふーん?』

 カラカサはぴょんとひと跳ねし、その場で傘回しのようにくるくると回転する。昼下がりの日差しに照らされて、水滴がキラキラと輝きながら散っていく。

「……さて。ここからどう──」

 立ち上がった湊斗が口を開いたその時だった。

「あ、いたいた。湊斗さーん!」

「え?」『おろ?』

 公園の入り口から声を投げたのは、ツンツンした黒い髪が特徴的な青年──ソーマだった。彼はヘルメットを片手に、湊斗に手を振りながら駆け寄ってくる。

「お疲れッスー!」

「……どしたのソーマくん? 晴香さんの指示?」

 湊斗は目を細め、冷たく言い放つ。しかしソーマは全く気にした様子もなく、湊斗の前で立ち止まって笑顔でサムズアップ。

「いや、独断ッス!」

「そ、そう」

 あまりにも爽やかに言い放つソーマに圧され、湊斗は思わず一歩引いた。ソーマはそれに気付いているのかいないのか、芝犬を彷彿とさせる笑顔で言葉を続ける。

「それより! 湊斗さんってこのあと予定ありますか?」

「え? えーっと──」

『ないよー! のーぷらんだよー!』

 湊斗の返答を遮ったのは、カラカサだった。彼はひと跳ねして番傘に姿を変えると、湊斗の左手にぽすんと収まった。

「ちょっ、カラカサ?」

『いいからいいから』

「よかった! はいこれ、メットつけてください!」

「え、えっと……?」

 半ば押し付けるようにヘルメットを手渡して、ソーマはさっさと自分のバイクに向かって歩き始める。眉根を寄せてそんな背中を追いかけながら、湊斗は声をかける。

「あの、ソーマくん? どこ行くの?」

「んーと」

 ドルンッとバイクのエンジンに火が入る。跨り、自身もヘルメットを被りながら、ソーマはニカッと笑って答えた。

「ちょっと、気分転換に!」

***

 ッッカァンッ! パパラパパー!

『おー、すごい。百発百中だー!』

「っしゃー!」

 古びたバッティングセンターに、10連続ホームランのファンファーレが響く。全力のガッツポーズとともにブースを出てきたソーマを眺めながら、湊斗は首を傾げた。

「…………えっと、気分転換って」

「そッス! ほら、湊斗さんバット持って! メットも!」

「えっ、ちょっ?」

 戸惑う湊斗をブースに押し込み、ソーマはさっさとブースを出ると、カシャンとその扉を閉めた。ちなみにカラカサは番傘の姿でブースの入り口に立てかけられている。

 湊斗は左手にバットを、右手にヘルメットを持ったまま、キョロキョロと視線を泳がせ……おずおずと、ソーマに声をかけた。

「え、ええと……俺バッティングセンターって初めてなんだけど」

「おっと、すんません! ちなみに野球の経験は?」

「えーと……子供のころにちょっとやったくらいかな」

「おっけーッス! んじゃ110kmから行きましょっか」

 ソーマは慣れた様子でバッティングマシーンの設定を合わせていく。そして湊斗にヘルメットを被るよう指示すると、財布から出した100円玉を機械に投入した。

「そんじゃ、バット構えてください。ボールがきますよ!」

「あ、はい……」

 パパラパパーとピッチングマシンのほうから音が鳴る。ソーマは急いでブースから出て、扉を閉めた。

 湊斗は右側のバッターボックスに立ち、おっかなびっくりバットを構えた。がしょんっ……とピッチングマシーンが動き、ボールが──放たれる!

「うおっ!?」

 がきんッ!

「おお!」『当たった!』

「よ、よし……!」

 ソーマとカラカサの声援を受け、再びバットを構える湊斗。がしょんっ、がきん。がしょんっ、かこーん。

 次々放たれる球を的確に打ち返す湊斗を見て、ソーマが拍手と共に声をあげる。

「すごいすごい、湊斗さんタキさんより上手い!」

「え、そうなの? っとぉっ!」

 かこーんっ!

 話しながらもヒットを繰り出す湊斗。時折振り遅れることがあるものの、なんだかんだと順調に打ち返していく様子を見ながら、ソーマは呟くように口を開いた。

「湊斗さんやっぱ運動神経いいっスねぇ。武道やってるからかな?」

「これでも昔は全然だったんだよ。よく姉ちゃんにしごかれてた」

「ん、お姉さんいるんスか?」

 ぶおんっっ!

 盛大な空振り。背後のネットに吸い込まれて無下に落下したボールを目で追い、湊斗は再びバットを構える。

「あーと……うん、まぁ。“居た”……だね」

「あ……すんません……」

「いや、気にしないで。なんか思わず、零しちゃった」

 こすんっ!

 首をかしげつつ振るったバットに、ボールが軽く掠って情けない音を立てた。回転しながら浮き上がるボールを目で追いながら、ソーマは思い切ったように問いかける。

「……あの、さっき飛び起きたときに叫んでたのって?」

「うん。夢を、見たんだ。姉さんが死んだ日の夢を」

 バッティングマシーンが次弾を装填するのを見つめながら、湊斗はぽつりと答え──ハッと正気に返り、慌てて話題を変えた。

「って、あ、そういえば思いっきり頭打ってたけど、大丈夫?」

「タンコブできたけど元気っス!」

 ソーマ相手だとついつい言葉を零してしまう。湊斗は気を引き締めつつ、バットを振った。

 かこーんっ!

 今度はボテボテのゴロだ。なかなか良い当たりが出ない湊斗を見て、ソーマはポケットに手を突っ込んだまま口を開いた。

「湊斗さん、左利きなんスね?」

「え? うん」

「んじゃ、もうちょっと外側に立ったほうが良いっスよ。そんで、ちょい気持ち早めに振ってください」

「ん……こう?」

 ソーマからの不意のアドバイスに従って、湊斗はバットを振り──

 ッッカァンッ! パパラパパー!

「うおっ!?」

『おーっ!』

 快音と共に飛び去った打球は、ホームランプレートに直撃! ファンファーレが鳴り響く中、打者本人はぽかんとして打球の飛んだ先を見つめていた。

『すごい! ソーマ大先生だ!』

「へへ。俺、ゲームは得意なんで。……あ、湊斗さん、次の球が」

「うおっ、そうだった!?」

 ぶおんっ。

 慌てて振ったバットは球を掠ることすらなく空を切る。湊斗は急ぎ体制を立て直してバットを構える。が──次の球は、飛んでこなかった。

「……あれ?」

「あ、10球終わったっぽいっス」

 ソーマが説明するところによると、このバッティングセンターは100円で10球らしい。ホームランなしで10球終わったため、球はこれ以上飛んでこないそうだ。

「あらら……」

 拍子抜けした様子で湊斗がバットを下ろす中、ソーマはブースに入り込んで100円玉を取り出し、ニヤリと笑った。

「湊斗さん、ワンモアいっときます?」

「え。いいの? じゃあやってみようかな……あ、ただお金は出すよ、悪いし」

「んじゃあとでアイス奢ってください! 行きますよー」

 再びパパラパパーと音がなる。湊斗はバットを構え、ピッチングマシーンを睨みつけ──球が、放たれる!

 ッッカァンッ! パパラパパー!

 見事な当たり! 打球は再びホームランプレートに直撃、ファンファーレが鳴り響いた。

「おおーっ!」

『湊斗すごーい!』

 ソーマとカラカサが口々に声をあげる中、湊斗は「よーし」と呟いてバットを構える。楽しくなってきた。

「それはそうと湊斗さん」

「んー?」

 ッッカァンッ! パパラパパー!

 答えながら、再びのホームラン。小さくガッツポーズした湊斗に、ソーマは真面目な表情で問いかけた。

「マジで出てくんすか?」

「……まぁ、うーん。そうだね」

「そっスか……」

 カコーンッ!

 今度は渋い当たり。大きく息を吸って次の球を待つ湊斗の脳裏に、ふとソーマの言葉がよぎった。

 ──でも俺、嬉しいんス。本物の正義の味方が実在するなんて。

 羨望を含む声。キラキラと輝く瞳。湊斗の能力に憧れを抱き、期待する視線。脳裏のそれらを振り払うように、湊斗はバットを振った。

 ッッカァンッ! パパラパパー!

 三度ホームラン。今度はうまくいった。「よし」と呟きつつ、湊斗は意識をソーマに向けた。

「ソーマくんの好きな……ダイオーガだっけ? あれって、やっぱ人のために戦うやつでしょ?」

「んーまぁ、そっスね。メタルガノンっていう宇宙人が、人類を滅ぼすゲームをやるんスよね。順番通りに殺すとか、タイムアタックしたりとか……」

「うわ、結構えげつない」

「んで、ダイオーガは神獣の力を借りて、その滅亡計画を阻止するために戦うんス」

「へぇ……」

 カコーンッ。

 再び、快音とは言い難い音がブース内に響く。小さく打ち上げられたボールは力なく落下し、フィールドを転がっていく。それを目で見送りながら、湊斗はぽそりと言葉をこぼした。

「やっぱね、俺はヒーローにはなれないよ」

「……え?」

 バットを構え、湊斗はピッチングマシーンを睨む。

「俺が戦ってるのは、人を守るためじゃない。雨狐を殺すため。敵討ちの、ため」

 ッカンッ! ……ガンッッ!

 鋭い音と共に、ボールは元来た方向に一直線。ピッチングマシーンに激突し、その筐体を派手に揺らした。

「だから正義の味方なんかじゃない。あいつらを痛めつけるのも、倒すのも、俺は厭わない。ソーマ君や晴香さんみたいな、良い人とは違うんだよ」

『湊斗……』

 カラカサが呟く中、ピッチングマシーンは自身の揺れにも関わらず次弾を装填する。アームが動き、次の球を──

「いや、晴香さん別に、良い人じゃないっスよ」

「へ?」

 ぶおんっ。

 見事な空振り。ボールは湊斗の背後のネットに吸い込まれて落ちた。ソーマは頭の後ろで手を組んで、湊斗に向かって言葉を続ける。

「あの人、スクーターに乗った食い逃げ犯を半殺しにしてますし」

「えっ」

「“敵”に容赦ないんスよマジで。別の部隊で指名手配犯を捕まえた時なんて、手先から関節をひとつひとつ外しながら尋問してたらしいですし」

「うひぃ……」

 その光景を想像した湊斗は、思わず悲鳴をあげた。もはや、飛んでくるボールなど見ていない。ぽかんとしたままのその顔を見返しながら、ソーマは言葉を続けた。

「まぁそういう感じの人なんで、湊斗さんが寝てる間に晴香さんがボヤいてて──」

『私もやったことあるが、拷問って効率わりぃんだよな。そもそも相手が雨狐みたいなバケモンだと、リスクが高いしよ……』

「えっ。カラカサ今のって晴香さんの真似? 超似てる!」

『でしょー!』

 ソーマの言葉を遮ったカラカサの口真似が思いのほか似ていて、二人はゲラゲラと笑いあう。そんな様子を眉根を寄せて眺めながら、湊斗は声をあげた。

「え、ちょ、ちょっと待って! じゃあ、カラカサがなんか泣かされてたのは……?」

『あれは、その会話の後で、“まだ隠しごとあんじゃねーだろうなテメー”って言いながらやられたんだよね。全然信じてくれなくて!』

「まぁ、あれは確かにやりすぎっスよねぇ」

 ソーマは苦笑と共に湊斗に同意し、「てゆーかですね」と言葉を続ける。

「雨狐の拷問そのものを嫌がるような人なら、ダイオーガみたいに怪人が爆発して死んじゃうのも嫌がるはずじゃないっスか。一応あいつら、犯人なんだし」

「ま、まぁ……それは……」

『そういうわけで要するに、全部湊斗の勘違いだったってこと』

 話題を締めるように、カラカサが言う。湊斗は自分の顔が熱くなるのを感じ、おずおずと口を開いた。

「……ソーマくん。もしかしてここに来たのって、誤解を解くために?」

「や、そう言うわけじゃないっス」

 ソーマは手をひらひらと振りながら、にへらと笑って言葉を続けた。

「なんか湊斗さん、俺の兄貴に似ててですね」

「お兄さん?」

「そっス。クソマジメで、機嫌が悪いときはすぐひとりになるんスけど、気晴らしが苦手だからいつまでもイライラしてて……」

『だいせいかーい』

「……カラカサ。みたらし団子にするよ?」

『やめて!?』

「はは。んでまぁ、そういう時にいつも兄貴を巻き込むのが俺の──ん?」

 ソーマが言いかけたそんな時、彼の胸元で通信機が鳴動した。

「はい、ソーマっス。……! 了解、すぐ向かいます!」

 ソーマの様子を見て、湊斗とカラカサは視線を交わす。

 通話を切ったソーマと無言で頷きあうと、彼らはバッティングセンターを飛び出した。

(つづく)

余談ですが、このバッティングセンターは、アマガサショートショート『第一回<時雨>ホームラン王決定戦』で登場したあのバッティングセンターです。

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桃之字(制作本舗ていたらく)

小説家/暗黒コラムニスト/映像作家。オリジナル小説とか、グラブルの推し妄想とか、褒め褒め長文を書いたりとかしています。ニチアサ風変身ヒーロー小説「碧空戦士アマガサ」連載中。

[碧空戦士アマガサ]

☔️俺は傘。全ての雨を止める、番傘だ!🌂ニチアサライダー的変身ヒーロー小説、連載中。☔️ シリーズ目次→https://note.mu/tate_ala_arc/n/n9fd8ff7079d9
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