父親の墓

 だから僕は、父親の墓をたてることにした。
 どんな形で、どんな素材で、どんな文字を掘ろうか。
 その墓標になにを供え、どんな涙を流そうか。
 僕は、彼の名前以外、なにも知らない。
 彼の最期を僕は知らないし、もしかしたら死んでいないかもしれない。
 それでも僕は、父親の墓を立てることにした。
 これは、僕のけじめだ。

 *

 20年ほど前。父は「木星に行く」と言って姿を消した。
 物心ついたころから母親はおらず、小学生の僕はひとりになった。
 父はしばらく生きていけるだけのお金と、その使い方を僕に遺してくれて、僕は彼の言う通りに日々を過ごしていた。
 僕は父の言葉を無邪気に信じていたし、宇宙飛行士の父を持つことを誇りに思っていた。
 周囲からは「お前の父は嘘つきだ」と言われたが、僕はずっと信じていた。意地になっていたと言ってもいい。
 父親が遺してくれたお金で生活しながら、簡単な仕事をこなし、日々を過ごす。
 時折、父は今ごろ木星でどんなことをしているのだろうかと思いを巡らせ、僕も頑張ろうと自分を奮い立たせていた。
 とはいえ、想いというのは乾電池のようなもので、放っておけばどんどん減っていく。それも、元に戻すことはできないものだ。
 ふつふつと浮かぶ、父親が単に失踪しただけではないか、という疑念は僕を苦しめ続ける。
 それから目を背けたまま、15歳になり、20歳になり、大人になって。
 電池はすっかり空になってしまった。
 だから僕は、父親の墓をたてることにした。

 *

 あとがき
 冷静に考えて小学生の子供が大人になるまでのお金を遺して失踪する父親って絶対なんか裏があるよね。SCP財団にでも連れてかれたのかな。

 お題:乾電池、お墓、木星。笠雲るふとさん(@kasagumo)よりいただきました。
 所要時間:1時間15分。

 書く前の思考まとめ
 木星・・・父が「木星に行く」と言って姿を消す
 乾電池・・・夢のある信頼は乾電池のように減っていく
 お墓・・・ケジメをつけるために墓を建てる
 独白形式のショートショート、墓のデザインを決める話
 セリフなしに挑戦?

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