ひとを騙すときしか嘘をつかない主義~つれづれ夜話~⑥

第六話  被る


わりとたくさんな人に関わるお仕事でごはんをいただくようになって、けっこうな年月になる。


人と関わるお仕事なので、当然いろんな人と会うわけだが。

……まあ、「縁起の悪い」人ってぇのはわりといるとこにはいるもんで。

ほんっとうに、そんなことに割く労力が余ってるなら、なんか他のことにまわしてよ、と思う。


たぶん、世界が救えるぞそれで。


私は人間ができていないので、そう考えているのがはみ出たりたれてたりしていて、それも縁起の悪い方々のお気にさわるんだろう。

悪意を向けられることも珍しくない。


それも、

「そんなに熱烈に思ってくれなくてもええのやで。私はタタラ場で、そなたは森でそれぞれに暮らせば……」

というレベルの。じんわり浸食してくるというか、べったり張り付いてくるというか。
ああ、書いてるだけでいやになる。


どうやら私はメンタルつよつよらしく、そういうものに対して体のほうが先に音をあげる。

ちょっとヤバめの体のきつさにそれが出てくるとき、職場の近くの「太陽の王子」のとこでチューニングしてもらってくることにしている。(センセーのとこはちょっと遠いので仕事帰りに気楽には寄れない。系統もちょっと違うので)


「太陽の王子」ことN先生は、若いけど腕のよい治療師だ。すでに独立して自分の治療院を構える院長さんでもある。


別にスピ系ではない、普通の、ただめちゃくちゃ光属性のオニーチャンなので、悪いもんを跳ね返してしまうようだ。

私は彼が某大手の治療院勤めの頃に偶然知り合って、そこから追っかけてきたガチ勢である。


「なもさん(私のこと)、これ、なんか憑いてません?」


先日、軽いめまいと耳詰まりがしばらく続いて、耳鼻科でも「特に問題ないのよね……薬? 出さないんじゃなくて出せない。だから、Goog○eの口コミには書かないでね」と言われてしまった。接続語の使い方がおかしいだろうが! とぷりぷりしていたが、ぷりぷりし続けるのもしんどくなって、王子のとこによろよろ訪ねていったら、施術を始めたとたんにそんなことを言われた。


「なーに、いきなり?」


今までそんな話はしたことがない相手に言われると、びっくりするものだ。


「いえね、前の職場のMくんなんですけどね」

「おお、Mセンセ」

M先生は、誠心誠意過ぎてたまに「いでででで、も、もっと軽くていいですようー」と泣きが入るくらいのパワー系治療師だ。

「たまに来るんですよ。あの人、被っちゃうんです」

「へ?」

ヅラではないはずだ。

「俺よくわかんないんですけどね、たまに患者さんからもらってしまうんで、それの調整に」

腰だの足だの肩だの首だの。


「なんとなく、おんなじような感じがしたもんですから」


業種違うけど、なもさんも俺らもたくさんの人と関わるから、そういうのあってもおかしくはないですよね。


「俺ぜんぜんわかんないんですけどねー」


そう言って、あっはっは、とカラッと笑う。


──これは、ヒト型のパワースポットだな。


そりゃあ私が追っかけになるはずだ。


視界が明るくなって、耳のつまりも多少楽になってその日の治療は終了した。

二日後にはほぼほぼ快癒して、なんとか日常を送っている。







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