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売上を伸ばす「ナラティブ力」

column vol.346

PHP【「アベノマスク」の失敗と「こんまり」の成功…明暗を分けた「ナラティブ力」とは】という記事を読んで、ビジネスの本質に触れたような気がしました。

〈PHP Business THE 21 / 2021年6月21日〉

本日の主役キーワードは「ナラティブ」。これは、「物語」といった意味を持つ言葉で、近い言葉では「ストーリー」です。

「ナラティブ」とは?

「ストーリー」は物語の内容や筋書きを指します。主人公始め登場人物を中心に起承転結が展開されるため、そこに聞き手はおろか、語り手も介在しません。

一方の「ナラティブ」は語り手自身が紡いでいく物語です。つまり、主人公は語り手自身。ちなみに「ナレーター」という言葉はナラティブという言葉から広がったものなのです。

政治やビジネスの現場では、ちょっと小難しく「物語的な共創構造」なんて言葉がよく使われます。

戦略PRの第一人者である本田哲也さんは、企業生活者多様なステークホルダー共創、つまり、「社会的な共創(=ナラティブ)」の重要性が高まっていると語っています。

まずは、分かりやすい例として、コロナ禍における各国のリーダーの事例を挙げたいと思います。

「ナラティブ力」を発揮した世界のリーダー

ナラティブ力が高かった政治リーダーの代表と言えるのがドイツアンゲラ・メルケル首相でしょう。

ドイツ国民からはもちろん、世界でも賞賛されたのが、2020年3月に行ったスピーチでした。

メルケル首相は、国民にロックダウンの決断を伝えながら、「東西ドイツ統一以来、私たちがこれほど連帯すべき試練はなかった」と語りかけました。

ご自身が自由のない東独で少女時代を過ごしたこともあり、30年前の「ベルリンの壁崩壊」という自分にとっての特別な物語にコロナの苦しみを重ねたことで、多くの共感を呼び、解決を共に創ろうと連帯感を生み出したのです。

また、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相も高い評価を得ています。

ロックダウンに戸惑う国民を前に、アーダーン首相は自宅から普段着で動画をライブ配信2歳の娘の母親でもある首相は、さながら子どもを寝かしつけた後にリモート会議に参加するママ社員のように国民の目に映りました。

そして、「母として子どもに少しでも笑顔でいて欲しい」。その想いを主役にした物語を通して自国民の心を掴む出来事がありました。

アーダーン首相は外出制限の中、子どもたちを喜ばせようと通りに面した窓際にテディベアを飾る活動に参加。この活動は「クマさがし」として全国に拡大し、専用のウェブサイトに3万ヵ所近く掲載されるまでになりました。

メルケル首相、アーダーン首相共に共通するのは、ご本人の中にある真実の物語(想い)を起点に国民と対話している。だからこそ社会的な共創(連帯)が生まれているのです。

「マーケティング」の盲点

一方、アベノマスクには厳しい声が集まりました。さらに、歌手の星野源さんの「うちで踊ろう」とコラボした動画も批判の対象に…。

もちろん、安倍前首相や当時の政権が国民を怒らせようと行なったわけではありません…。

しかし、前述のお二人の首相と比べて、本心から湧き出る真実の物語(想い)があったかというと…、、、どうでしょう…?

でも、実はビジネスの現場マーケティング戦略の中でも意外とハマってしまう落とし穴だと感じます。

顧客リサーチで導かれた結果買い物データだけを重視し過ぎて、商品開発、販売展開してしまうケースがよく見られます。

つまり、提供者側が「自分不在」になってしまうことです。

私は20年以上マーケティング業界にいますが、リサーチやデータ分析はどこまでいっても傾向値(参考値)だと思っています。つまり、絶対的な答えではないということです。

私はそうは思わないけど、「お客さまがそういうなら」「上司がそう決めたなら」と、ナラティブ不在のままマーケティングを行うと、大抵上手くいきません。

「私が最初のお客さま」

実はナラティブは「ナラティブマーケティング」と呼ばれるほど、一般的になっています。

ウォルト・ディズニー・スタジオや、日本ではスバルなどが導入。顧客のナラティブに寄り添ってマーケティングするというものです。

ただし、当社代表の谷口は、クライアントにも我々社員にも、「まずは自分がお客さまなら、どう思うか?」を問いかけます。つまり、提供者側にちゃんとナラティブがあるかを確認するのです。

谷口自身は必ずクライアントの商品を買い店舗を利用し、課題や光明が見られるまで、徹底的にユーザーとして接します。

その上でリサーチ結果やデータを読み解くので説得力がある。

私もそのやり方を踏襲し、例えば商業施設なら、妻にも協力してもらって、お互いの見解を出し合います。妻は何も予備知識も、責任もないので、フラットに意見を出してくれるからです。

そして、自分の揺るぎないナラティブをもってリサーチ結果データ分析に向き合い、主観と客観が重なったところを支点にして、解決策、改善策を講じます

そしてPDCAを回して検証し、さらに改善していくのです。

ナラティブ不在のまま進めていくと、マーケティングのステップ通りに進んで上手くいかなかった場合、リカバリーが効かなくなります。自分の考察が無いからです。

さらに言えば、ナラティブ不在で良いならば、マーケッターという商売はAIに代替されていくでしょう。

「実感」を起点にする

PHPの記事に戻りますと、こんまりこと近藤麻理恵さんのドキュメンタリー番組『KonMari~人生がときめく片づけの魔法~』が、アメリカで大ヒットした理由は、まさにナラティブ力にあります。

こんまりメソッドは、持ち物ひとつひとつに対峙して、「ときめくか、ときめかないか」で手放すかどうかを決めていく。

つまり、そこにあるナラティブは、「片づけ(義務・作業)」ではなく「本来のときめく自分に戻る」という物語です。

この物語に欧米の人が一斉に共感し、世界的な共体験が生み出されたというわけです。

つまり、商品開発や商品展開に自分のときめきをいかに内在させるかがビジネスにおいても重要な起点になるのです。

ナラティブ力の高い「湖池屋」マーケティング

最近の実例として共感したのが、ここ数年ヒット商品を連発している湖池屋のマーケティング部次長を務める野間和香奈さんのインタビュー記事です。

〈NEWSポストセブン / 2021年6月27日〉

野間さんは同社の佐藤社長「野間がダメと言った商品は出せない」と語るほど全幅の信頼を置いているヒットメーカーなのですが、次のお言葉にナラティブを感じます。

私自身が母親として、子どもを育てるうえでの食の大切さや安心感を、より深く考えるようになったことで、商品企画の面でもそうした視点が入ってより安心感を持っていただいているのかもしれません。当社の商品は主婦層が主力顧客層でもあるので、主婦目線や一般の方にどう映るかの観点から判断することが重要ですからね。

母として「自分の子どもにも安心して食べてもらたい」と思えるお菓子を生み出すことが、野間さんの偽りのない物語(想い)なのです。

さらに、ブランディングについてもこのようにも語っております。

世の中すべて、しっかりしたブランディング構築が大事だなと思っていて、それは私自身商品子育てにも通じることです。偽りのある、あるいは無理しているブランディングはすぐに見抜かれてしまいますから。

いかに、マーケティングという母体に自分の中に内在する「真実の物語」を重ねていけるのか。それが顧客共感を生み出す要点だと思います。

マーケッターはいかに自分自身のナラティブに向き合うかが重要ですし、上司経営者など上に立つ人は、一人ひとりのマーケッターがナラティブ力を発揮できる環境づくりに努めなければなりません。

マーケッターが良き「ナレーター」でもあることが理想ですね。

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