見出し画像

③宇宙建築のための材料・接合法・3Dプリント技術

現在,ASE-Labで宇宙建築学ゼミというのを主催し,2週間に1回のペースで学生が集まって宇宙建築に関する勉強会を行っています.

ゼミで使うだけだともったいないので,今回は自分が担当したゼミ内容を公開してみます.(自分が作ったものなので誰にも怒られないはず)
建築学科や文系の学生も多くいたので,あえて掘り下げず,自分が気になったところ以外は軽めにまとめました.
ゼミの主な目的は議論なので、気になった人はぜひゼミへ参加してください.常時募集中です.

※論文書くぞ!みたいなテンションではないので正確性には欠けている表現もたくさんあります.ご了承ください

1.宇宙用材料

建築に関わらず,何かを作るうえでは必ず考えなければなりません.特に過酷な宇宙環境であればなおさら重要.
以下の書籍と論文等で勉強しました.

材料には多くの評価指標があります(もちろん上記以外にも).基本的には,強度が高く軽量(比強度が高い)で耐熱性のある材料が求められます.追加の要素で用途や環境に合わせて,耐放射性,耐腐食性,耐衝撃性などの要件も決まります.

金属材料と複合材料という分類が主です.セラミックス,炭素繊維複合材料は特に宇宙用として注目されている材料です.
ちなみに木材も使用が検討されていて,既にISSでの暴露実験も行われています.

傾斜機能材料や異種金属接合も材料工学,接合工学では重要な研究テーマです.特定の機能を持つ材料を狙った箇所で使用することができます.例えば,全体としては軽量化を目指しつつ,表面は耐腐食性を持たせるなどです.
特に金属3Dプリンターが普及してからはさらに研究が加速しています.(去年は異種金属積層の研究をしていました)

宇宙エレベーター(宇宙エレベーター)のワイヤーへの使用が想定されています.課題がたくさんありますが,注目されている材料です.

余談ですが,ちょうど先週(12/18)発売のジャンプ,Dr.STONEにて主人公が宇宙エレベーターを作り始めたのでアガりました.未だ実現していないカーボンナノチューブの長尺化を漫画の中での唯一のファンタジー要素である石化装置で実現させていました.ファンタジーと現実の化学の使い方,漫画としての魅せ方が上手すぎる.

月面建築は輸送費が大きな問題(約1.2億円/1kg)なので,月資源の利用もかなり昔から研究されています.月探査のデータが集まり,月の鉱物の分布や詳細な組成が明かになってきたので,研究が加速しています.宇科連に行くと大林組や清水建設などが発表しているのをよく見かけます.

掘削システム,製造システムの構築というよりは機械的特性の評価に関する研究が多い印象です.レゴリスは多孔質構造で気密性の確保が難しいので,膜構造と組み合わせて利用し,放射線の防護や隕石などの耐衝撃性の役割になることが予想されます.ハイブリッド型の月面基地が実際に提案されています.


2.宇宙空間での接合

大型の構造物を地球低軌道上もしくは月面で組み立てることが予想されます.そこで必須になってくるのが接合技術です.宇宙環境が接合に及ぼす影響について調べました.
以下の書籍と論文等で勉強しました.(今一番興味のあるテーマでした)

旧ソ連のパトン溶接研究所の研究結果をまとめた本です.地球低軌道での溶接実験の歴史も書かれています.おすすめ.

学部時代は溶融接合と固相接合ベースの二つの3Dプリント技術の研究を行い,現在は修士で宇宙用材料のろう接の研究をしています.

ボルトナット締結などの機械的締結は,振動が減衰しにくい無重力空間では,振動で緩む恐れがあります.また,接合部に余分な質量が残ってしまい輸送コストが上がります.
接着剤は耐熱性,耐放射能特性が低いという欠点があります.航空機のハニカムパネルなど一部には使われていますが.
(高専の卒業研究ではハニカムパネルを作るため接着剤を調べたりしていたので,思い返すと色々繋がっていますね.伏線回収してる.)

ということで,宇宙での接合として融接(とろう接)に焦点をあてました.(圧接は高トルクがかかるので軌道上での接合に適していない)

融接やろう接では,金属を溶かして(液体にして)接合します.また,材料の酸化防止や溶接性の向上のためにガスを当てながら接合を行います.その際,微小重力環境の宇宙では,液体や気体の物理現象が地上と異なるので溶接が難しくなります.

真空とは言え,地球低軌道には原子状の酸素や酸素イオンが存在します.圧力が低いため,酸素を防ぐためのガス(シールドガス)を拡散してしまいます.そのため,溶接部に酸素が混入しないよう溶接する必要があります.

宇宙機が進む方向によって圧力の分布が変化し,進行方向とその後方で圧力が安定になる場所があります.宇宙で組み立てを行うときは場所も考慮しなければなりません.

宇宙機は地球の周りをまわり,地球の影を出入りするため,150K~450Kの温度変化が生じます.すると,温度勾配が鋭くなり,大きな熱ひずみ,熱法力が発生します.
真空である宇宙では対流がないので,放射伝熱と熱伝導のみに支配されることになり,地球上と溶接条件が異なります.


3.宇宙空間での3Dプリント技術

宇宙用部品の3Dプリント成形ではなく,宇宙空間での3Dプリント成形技術について焦点を当てて調べてみました.

3Dプリントの利点としては,特に1.スペースが限られている宇宙で一台の機械で成形可能であること,2.情報のやり取りのみで設計変更が可能であることが挙げられます.

金属の3Dプリント技術は,大きく分けるとパウダーベッド方式(金属粉の特定の箇所に熱を加え溶融して凝固させる方法)デポジション方式(特定の箇所のみに溶融した金属を堆積させて凝固させる)があります.
前者が速度は遅いが精密な造形,後者が精度は悪いが早いという特徴があります.

無重力空間だと金属粉が舞い上がってしまうので,デポジション方式の研究が進められています.

回転させながら円周上に金属を堆積させていく
ビームを作って,別のロボットアームで組み立てていく

デポジション方式の3Dプリント技術の宇宙利用が上記の例です.ロケットに積載できない体積のものは軌道上で成形して組み立ててしまおうというアイデアです.なんとも大胆!

こちらは慶応大の研究です.学部の頃のポスターセッションで知って説明を聞きました.

前述したとおり,無重力空間でのパウダーベッド方式は難しいです.しかし,3Dプリンター自体を回転させ,遠心力による高重力環境を作ることで無重力空間でも積層ができるというアイデアです.なんと1Gよりさらに高品質なものが作れるそうです.

今年の宇科連でも月面建築の自動施工技術についての研究発表はいくつか見かけました.人手不足が叫ばれる業界なので地上での施工にも使える技術としても研究が進んでいます.

宇宙無人建設革新技術開発 スターダストプログラム (内閣府,国交省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001602686.pdf

NASAの月・火星の3Dプリント建築については,過去にも書いたことがあるので省略します.


最後に

個人的に宇宙建築学ゼミを主催した目的としては,以下の3つがあります.修士の研究に関連することでもあるので息抜き程度に楽しくゆるくやっています.

  1. 宇宙建築学サークルTNLが休止してしまったので,宇宙建築について語れる学生コミュニティが欲しい(短期)

  2. 博士に行く可能性を考え,研究テーマを見つけるためためにも視野を広げたい(中期)

  3. 将来の自分のキャリアのためにも,日本に宇宙建築産業が生まれるように学生の宇宙建築を盛り上げておきたい(超長期)

加えて,宇宙建築学サークルの代表を務めてくれる人,宇科連へ論文を書いてくれる人,宇宙建築賞に取り組んでくれる人が現れたら盛り上がるのかななんて思います.(エクストラサクセス)

今のところ回を重ねるごとに人数は増えています.視野を広げることが目的なのでゼミの参加者の各々の興味分野を調べてきてもらっています.バックグラウンドが違う人たちが集まっているので面白いです.興味がありましたら,ぜひ参加してください.

過去にもいろいろな団体でオンラインゼミをした経験があるので勉強資料はいくつかあります.今回のnoteのようにパワポを貼り付ける形式だと楽なので,暇なときに投稿していこうかと思います.宇宙開発はすぐに情報が更新されるので早めに載せないと,,.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?