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【深煎り入学式】#毎週ショートショートnote

お店の隅に「深煎り入学式」とあった。
「これは?」マスターに訊ねると、「焙煎教室だよ」と答えた。
「近くの公民館の館長に頼まれてね。フライパンでできるコーヒー焙煎学校」
「フライパンで?」
「そう。フライパンを持ってきてもらって公民館の調理室で」
「で、入学式が深煎りというのは?」
「一番簡単だからさ」
とマスターは言った。
「そうなんですか?」
「焦がさなきゃいいからね」
マスターはそう言って、落としていたコーヒーをカップに注いだ。
あまり大きくないカップにちょうど2杯分のコーヒーだった。
カップのひとつを差し出される。
「マスター?」
「焙煎教室用で取り寄せた豆でね。3日置いてもまだちょっと飲みにくかったけど5日置いた今日はどうかな?って」
つまりは味見係だ。
「いただきます」
カップを手にした。
「美味しいです」
「そう?」
「僕も入学しちゃおうかな?」
と、言ったものの、マスターの美味しいコーヒーを楽しんだ方がずっといいやとすぐに思い直した。