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【トラネキサム酸笑顔】#毎週ショートショートnote

野々隅は大学を卒業してから13年、広告代理店勤務。
どちらかといえばイベンターとしての仕事が多い。
現在、新人研修を兼ねた会議にオブザーバーとして参加している。
「ご当地アイドルのキャッチコピー並びにデビューイベントの企画立案」
デビューイベントの方は野々隅の分野であるが…「キャッチコピーねぇ」と新人たちが考えてきたコピー案のプリントを眺めた。
「なにこれ?」

トラネキサム酸笑顔

「どういうこと?」
思わず隣に座る高橋に訊ねる。
「英田のですね」
新卒の英田をそっと指差す。
「いや、そうじゃなくて、トラネキサム酸笑顔ってさ」
「痛みを和らげる成分トラネキサム酸のような笑顔、ですね」
高橋は野々隅より8歳年下である。大学新卒で入ってきてから5年。
「ひいてはみんなを笑顔にできる。というわけです」
「ピンとこないな」
「そうですか?」
高橋は資料に目を戻した。
最近の若いヤツにはついていけないなんて、30代半ばで言いたくはない。
野々隅は肩を竦めた。