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【錦鯉釣る雲】#毎週ショートショートnote

「錦鯉を釣る熊」
と彼女が指を差すがどれのことかわからない。
雲を見て錦鯉か否かどう判別をつけるのかわからないし、どれを見ても熊らしい雲は見当たらない。
そういう想像力はどうやら僕には欠けているらしい。
「どのへんが錦鯉?」
「ほら、あそこ。細長くぶら下がっている雲」
雲がぶら下がる?どれなんだ?
「濃淡があるでしょう?ちょうど頭のあたりが灰色になっている」
「あぁ!」
ようやくそれらしい雲を見つけた。
白い雲の中で本当に一箇所だけ白くない部分がある。空が透けて見えているのだろうか?
その雲に重なるできたばかりの飛行機雲は少し太いが釣り糸に見えなくもない。すると飛行機雲の先にあるのが熊なのだろうか?
「いや」
どう見ても熊ではない。
どう見てもただの積雲でしかない。
「錦鯉を釣る雲だ」
僕は言った。
「でしょう?」
彼女は満足そうに微笑んだ。
「え?」
彼女も雲と言ったのか?
それとも熊と聞こえたのか?
確認した気持ちを堪え、僕は空を見上げるのだった。