つぶやき
枯れたグラスに
ワインを注ぐ音が
店内に響き渡る
僕の孤独を
知らせるように
人を求めながら
そうは出来ない
境界線上の
世間の風は
冷たく
大人の階段の傾斜は
鋭いままに
壁のように
聳え立っていた
飲めないワインを
グラスのまま
傾けて
光の屈折に合わせて
未来も
いかように──
まだ子どもね
境界線のメガネで見た
未来はまだ
遠く
運命はあの日の
予言のままに
進んでいた
壁に立て掛けられた
一枚の絵に目が止まる
部屋の窓から
光が射し込んで
白いテラスが
緑の山を背景に
手招きをする
ただ
優しくしてくれ
甘えたままに
はじめの一歩を
踏み出すような
金でも
女でもない
子どもの
地続きの未来を
ただ
欲していた
誰が描いたのですか──
珍しく言葉が
口をついて
世界に流れていく
マスターが
あの時
小さなつぶやきを
拾ってくれなかったら
僕は今
ここにいなかっただろう──
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?