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展覧会のはなし #1 MUCA展

年に数回ほど展覧会に行く。
アートと呼ばれるものが好きだ。

小説も建築も音楽も映画も漫画も、スーパーマーケットに並ぶパッケージを見るのでさえ好きなので、たぶん、誰かが作ったものを見ることが好きなのだと思う。

先日は京セラ美術館(京都市美術館)に行ってきた。目的はBanksyとシェパード・フェアリーだった。いわゆるグラフィティと呼ばれる分野のアートだ。

展覧会入口

『MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜』

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会期: 2023年10月20日〜2024年1月8日
   ※年末年始の休館あり
会場: 京セラ美術館 (新館 東山キューブ)
出展: Banksy、バリー・マッギー、 スウーン、VHILS、シェパード・フェアリー、インベーダー、オス・ジェメオス、 JR、リチャード・ハンブルトン、KAWS

▽京セラ美術館
https://kyotocity-kyocera.museum/
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MUCAとは現代アート(中でもアーバンアートとコンテンポラリーアートのジャンル)に特化したドイツ・ミュンヘンに位置する美術館 Museum of Urban and Contemporary Art のことらしい。
尚、本家ではダミアン・ハーストの展覧会がやってるみたい。ホルマリンシリーズが怖くて観れない自信しかない…

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▽MUCA
https://www.muca.eu/en/
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今回の展示作品はBanksyが17点と圧倒的に多かったが、出展者数の割に全体の作品が少なく、全部で約70点とのこと。
目玉の一つであるKAWSはブロンズエディションと呼ばれるちっこいフィギュア作品群が12体展示されているので、それらを除くと展示は8作品だ。

私がお目当てにしているBanksyは会場のトップバッターだった。

Ariel
アリエル
2017
Are You Using That Chair?
その椅子使ってますか?
2005


エドワード・ホッパーの名作『ナイトホークス』をベースにした大型作品『Are You Using That Chair? (その椅子使ってますか?)』はユニオンジャック柄のパンツ一丁で現れた男が店の静謐な空気をぶち壊し、声をあげている。風貌からするにイギリスの労働階級だろうか?
彼の脇に転がっているのは庭や公園などの屋外で利用する安価なプラスチック製の白い椅子だ。いくらでも代えのきく大量生産品。
一方で快適な店内に設置されている椅子は数が固定されており、何よりもお金を払うことで店員にサービングしてもらえるという権益付きの椅子だ。
店内の身綺麗な人々とは対象的にでっぷりとビール腹の突き出た彼が求める "椅子" は何のメタファーなのか?

見てよ、この迷惑そうな顔…

また、今回で一番皮肉が効いていてBanksyらしいと感じたのは『Welcome Mat』という作品だった。
難民の密入国を斡旋するヨーロッパの業者によって配られた "浮力の全く無いライフジャケット" を材料に縫い付けた玄関マット。そう、靴裏の泥を落とす為のアレだ。
多くの難民が海を命がけで越えてヨーロッパへ渡ろうとする中で、彼らの希望を利用し、無下に扱う現状を非難した作品。
容易には玄関から先に通してもらえないこと、そして粗末なライフジャケットで作られた名ばかりの "ようこそ" が踏みつけられるストーリーには痛烈な皮肉が込められているのだろう。

Welcome Mat
ウェルカム・マット
2019

他にも『Forgive Us Our Trespassing(我らの不法侵入を赦したまえ)』という作品は、キャプションの画材表記にまさかの "拾った絵画の裏面の麻布にスプレーペイント" とあったり、退屈しない展示が続いた。

高校生の頃、ブリストルで起きた騒動についてのニュースを見かけてBanksyに惹かれた。
それは、不倫現場を誤魔化す為に全裸で壁にぶら下がる男を描いた “The Well Hung Lover” と呼ばれるもの。
Banksyが公の場に描いたその "落書き" を消すかどうかは市議会で議論され、最終的にはインターネット投票によるアンケートを実施し、圧倒的な得票数で消さずに残すことが議決されたという内容だった。
場所的にもテーマ的にも明らかにマズく、そもそも器物破損の罪に問われるグラフィティが公にアートとして認められてしまったというアイロニカルで刺激的な出来事に10代の私はときめいたことを思い出す。

ちなみに本展覧会のBanksy以外の作品数内訳はこんな感じ。

◆ SHEPARD FAIREY …8点
◆ OS GEMEOS …2点
◆ JR …2点
◆ BARRY MCGEE …6点
◆ SWOON …2点
◆ VHILS …4点
◆ INVADER …4点
◆ RICHARD HAMBLETON …5点
◆ KAWS …20点
       (内12点はフィギュア1シリーズ)

この展覧会で私が目当てにしていたもう1人はシェパード・フェアリーという、OBAYのアイコンで有名なアメリカのアーティストだ。
彼を意識したのは2008年頃のオバマ元大統領のアイコンをニュースでよく目にした頃からだろうか。
力のあるアイコニックなグラフィックが魅力的という印象があった。実際に作品を目の前にすると、意外にテクスチャーが面白い。そしてやっぱり画面に力がある。

シェパード・フェアリー
Obey with Caution

今回の展覧会で初めて知ったのがVHILS。
街中の壁面などの表層を削り取ってポートレートを制作するポルトガル出身のアーティストらしい。
実際にポートレートが刻まれた扉の目の前に立つと、これが突然街中に現れたら…と想像せずにはいられないインパクトだった。

VHILS
Dispersal Series #14

それと、フランスのアーティストであるJRは過去にドキュメンタリー『顔たち、ところどころ』を数年前に観ていたので、実物を観れて嬉しいという変なミーハー心が湧いた。

2020年にリニューアルして京セラ美術館になってから、来館者が増えてる印象はあったのだけれども、今回は他の展覧会に比べて若者が圧倒的に多い。
BanksyとKAWSパワーなのか?
関西圏の方々は年始のおでかけにぜひ。

2023年はあまり展覧会に行けなかったのだけれども、来年はもっと行けるといいなぁ…

京都市美術館って日本で2番目に古い公立美術館らしいですよ。館長がリニューアル設計担当の建築家・青木淳さんというのも今回ついでにWikipediaで読むまで知らなんだ…

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