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扁桃体がモチベーションをコントロールするメカニズム

皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。

今回は脳科学の論文で、”自発的な行動とは、脳からどのような信号によってコントロールされているのか?”ということについての論文です。
今回は2022年のScienceに掲載された"A neuronal mechanism for motivational control of behavior"という、スイスの研究グループからの論文を紹介します。

概要

目標達成の為に行動するときには動機が重要ですが、その強さは特定の目標と得られる結果の重要性によって決定されます。脳の扁桃体は行動の動機を司る部位として知られてきましたが、その神経活動の詳細はこれまでわかってきませんでした。今回の研究では、マウスに砂糖水とミルクという2つの報酬を与えた時の扁桃体の神経細胞の活性化を、活性化の指標となるカルシウムをリアルタイムに観察しました。その結果
1、扁桃体の活性化には、刺激のない通常時、目標を見つけて行動する時期(行動期)、さらに報酬を得て消費する時期(消費期)という3段階の活動パターンがあること。

通常時、行動期、消費期の神経活動のイメージ

2、行動期と消費期の活性神経と部位は、報酬毎にそれぞれ違い、かつ一定のパターンであること。

報酬毎に決まった神経が毎回が刺激されるが、その神経は報酬によって違う

3、さらに、この扁桃体からの刺激を行動期に阻害すると、行動が阻害されること。
を発見しました。
これらのことから筆者らは、動機付けにおける扁桃体の神経細胞の重要性が確認され、そのメカニズムは初歩的な動機付けとは違い、複雑な報酬の評価や学習という要素の絡み合ったものと言える。としています。

今日のポイント

さて、いかがでしたでしょうか。
ちょっと言葉だけでは簡単に説明するのが難しかったので、今回は論文中の図も補助として使わせていただきました。目標に向かって行動し、結果を出した後の脳神経の働きを少しイメージできたでしょうか?
今回のポイントは2つです。

Deep-brain Ca2+ imaging

今回の研究では、これまでできなかった脳の扁桃体のカルシウムの動きをリアルタイムで観察しています。これまで脳の活動を知る方法は限られていましたが、テクノロジーの進化によって、詳細な脳の電気信号が記録できるようになっています。イーロンマスクのNeuralinkでは脳に埋め込み型のチップを開発していることで有名ですよね。

治療への応用

この論文の後半では、扁桃体からの電気信号を阻害するとどうなるのかという実験もしています。結果として、その動機づけを打ち消すことに成功し、マウスの報酬への動きは鈍くなりました。はっきりとは述べられていませんが、これを応用すれば脳の刺激に直接介入して行動をコントロールできる可能性があります。Neuralinkではすでに、人の体の動かし方の電気信号はほとんど解析されていて、逆に人の体を動かす信号を作ることもできるそうです。動機付けのように感情に関わる信号の解析はより複雑になると思われますが、今後はこのような研究が一気に増えていくでしょう。

それでは今回はここまで。
ご質問、ご感想などありましたらお気軽にコメントしていただけると嬉しいです。それでは!

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