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皮膚細菌叢とアトピー

皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。

これまでは腸の中の細菌叢について紹介してきました。ところが実は腸管だけでなくヒトの皮膚にも多くの常在菌がいて、皮膚細菌叢を作っています。さらに皮膚細菌叢もアトピーなどの皮膚の病気と関連があるという論文を紹介したいと思います。
今回の論文は少し前のものになりますが、2019年のNature communicationsに掲載された"Microbe-host interplay in atopic dermatitis and psoriasis"というフィンランドの研究グループからの論文です。

概要

近年、皮膚細菌叢の解析が進んできていますが、皮膚細菌叢の変化(ディスバイオーシス)がアトピーや乾癬という皮膚炎とどのような関わりがあるのかははっきりしていません。
この論文では、316人の被験者の皮膚細菌叢と皮膚組織の遺伝子解析結果から、
1、アトピー患者ではS. aureusなどが増加しており、皮膚組織では皮膚のバリア機能やトリプトファン代謝の活性化が見られた。
2、一方で乾癬患者ではC. simulansなどの菌や細菌叢の変化のパターンを発見できたが、それに伴う皮膚組織の特徴的な反応はみつからなかった。
以上の事が確認されました。
この結果から筆者らは、大規模な皮膚細菌叢の解析結果からアトピー性皮膚炎や乾癬と関連の深い細菌叢が見つかった。それらの細菌叢と皮膚炎原因についてはいまだにはっきりせず、今後は真菌やウイルスなどの微生物についても対象を広げ、メカニズムを解明していきたいとしています。

今回のポイント

さて、今回はかなりシンプルな内容でしたが、いかがでしたでしょうか?
今回のポイントはとてもシンプルで皮膚にも細菌叢はあって、アトピーなどの病気と関係が深いという点でした。

皮膚細菌叢

実はヒトの体には腸管以外にもたくさんの細菌が住んでいます。(というか、細菌が全くいないという臓器はあまりありません。血液の中にもよく入り込んだりするくらいなので)
腸内には数千種類、1-2kg程度の細菌が住んでいるといわれ、テニスコートくらいの表面積の広さの腸管粘膜の全面で細菌叢と接しています。実は皮膚の表面積も毛穴を含めるとそれに近いくらいの表面積があり、体の部位によって湿度や脂質の量も違うので最近の量は腸内ほどではありませんが、健康との関わりはとても深いです。

アトピーと皮膚細菌叢

この論文では皮膚の細菌叢と病気の症状の重さとの相関についても検討しています。その結果、軽症のアトピーとS.aureus(黄色ブドウ球菌)の関連性が指摘されました。同時に、ヒトの皮膚では感染に対する防御反応として炎症反応が起こり、壊れた表皮の再生を促す反応が見られていました。
これは一見するとS.aureusのせいでアトピーが起こっているように思われるかもしれませんが、そうでないことはこれまでの研究からもわかっています。今回の研究でもアトピーの患者では高確率に検出されるものの、重症者では逆に検出率は低下していました。
このような観察研究だけでは病気との相関は見つけられますが、原因が何か見つけるには、何かしらの有力な仮説を立てて介入研究をする必要がありますね。

今後は

今回は皮膚細菌叢と病気の関連性について紹介しました。この研究では細菌叢がどのように影響を与えているのかのメカニズムについては触れられていませんでしたが、そういった研究がだんだんと進んでいます。今後はどのように細菌叢を健康な状態に保つのかというのが課題になるかもしれませんね。

それでは今回はここまで。
ご質問、ご感想などありましたらお気軽にコメントしていただけると嬉しいです。それでは!

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