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肺細菌叢が中枢神経の病気を治すかも

皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。

前回は腸内細菌が脳の扁桃体の機能をコントロールしているという論文を紹介しましたが、(https://note.com/tatsuya_ca/n/n02d9b8fec33c)丁度このタイミングで世界で初めての、肺の細菌叢が脳の免疫機能をコントロールしているという論文が発表されていたので、今回はそれを紹介します。

この論文は2022年のNatureに掲載された"The lung microbiome regulates brain autoimmunity"という論文で、ドイツのGöttingen大学の研究グループから発表されました。

概要

多発性硬化症という、中枢神経が炎症を起こし、突然目が見えなくなったり、体が動かしにくくなってしまったりする難病があります。(https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_men/tahatu.html)この病気はT細胞という免疫細胞が、自分自身を攻撃することによって起こることが知られていましたが、肺の感染症や喫煙がリスクファクターとして知られていました。しかし、もちろん肺の様に脳から遠く離れた臓器がどのように脳の免疫機能に影響を与えるのかについては全くわかっていませんでした。そこで筆者らはラットをの気道内の細菌叢をNeomycinという抗生剤を投与することによって変化させて、気道から異常に活性化したT細胞による神経への影響を観察しました。その結果
1、抗生剤の投与によって気道内の細菌叢に変化が起きた時に、中枢神経炎が起きにくくなっていたこと。
2、肺のディスバイオーシスが起きていても、肺の免疫細胞には変化を起こしていないこと。
3、ところが、マイクログリアという細胞の免疫活性機能に変化をもたらし、その結果神経炎の原因となる免疫反応が抑制されていたこと。
4、抗生剤によって増加したP. melaninogenicaが作るLPSという炎症物質を肺に投与すると、抗生剤の効果と似た効果が得られたこと。
以上の事を観察しました。これらのことから、筆者らは、これまで知られていなかった、脳と肺細菌叢との関連を証明しました。これによって、これまで中枢神経の病気では考えられなかった新しい治療のアプローチになるかもしれないとしています。

今日のポイント

さて、いかがでしたでしょうか?細菌叢と本来最近とは最も隔絶されているはずの脳神経が、実は機能的につながっているという論文でしたが、今回は特に免疫機能からの視点の多い論文でしたので、少し難しかったかもしれません。Covid関連の報告は最近色々なところで解説されているので、免疫細胞について聞いたことがある方もいるかもしれませんが、それについては今後機会を見て紹介したいと思います。

肺細菌叢

というわけで、今日はなんと言っても肺にもあった細菌叢。しかも中枢神経炎と関連があるという報告でした。これはとても興味深い現象です。ただ、やはり腸内細菌と比べると、解析の技術がまだ追いついていないので、下の図のように大雑把なものになっています。そのせいで、原因となる細菌や、物質はLPSを産生するところは予想されましたが、今後の研究が期待されます。実用化にはまだまだハードルがたくさんありますね。

ライブイメージング

肺の細菌叢の論文でしたが、個人的に面白かったのは、動画が多く使われていたことでした。

マイクログリア
血管から脳内に移動するT細胞

科学論文ではあまり動画を使うことはないのですが、上の図のようにラットの脳内の細胞の動きを生きたまま、撮影することに成功していたり、見た目も綺麗だし説得力があるなと感じるので、今後はもっと使用される頻度は上がるのではないでしょうか。
フォーマット上動画は載せ方がわからないので、もし興味のある方は論文サイトからどうぞ。

それでは今回はここまで。
ご質問、ご感想などありましたらお気軽にコメントしていただけると嬉しいです。それでは!

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