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細菌叢解析の最前線

皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。
前回はディスバイオーシス(細菌叢のバランスが崩れる)ってどういうこと?について書きましたが、今回はもう少し踏み込んで、腸内細菌の解析の最前線ではどんなことが解析され、そこからどんな事がわかるようになってきているのかを紹介したいと思います。

今日の論文は2019年のNature microbiologyに掲載された"Gut microbiome structure and metabolic activity in inflammatory bowel disease"というアメリカのハーバード大学の研究グループからの論文です。(https://www.nature.com/articles/s41564-018-0306-4

概要

少々マニアックな話になってしまいますが、IBD(クローン病、潰瘍性大腸炎といった自己免疫性腸炎)と呼ばれるずーっと腸炎が起き続ける非常に辛い病気があります(安倍元総理も潰瘍性大腸炎でしたね)。そのため長年原因や治療法の研究は行われてきましたが、現在も解決されておりません。もちろん腸内細菌叢の解析も盛んに行われてきましたが、その患者と腸内細菌叢の分子的な機能についてはよく知られていませんでした。

そこでこの論文では健常者と炎症性腸疾患の患者220人のサンプルを用いて、腸内細菌叢と腸管内の化学物質の解析を行いました。
その結果、
1:細菌叢の遺伝情報を解析する事によって、IBD患者に特有の細菌叢の特徴(多様性の低下)を検出し、分泌される可能性のある物質を予測(細菌の種類と機能予測)
2:腸内から8000以上の化学物質を検出して分類し、IBD患者に特有の化学物質と発現パターンを発見
3:1と2を照合して、病気と関連の深い細菌と分泌物の組み合わせを発見
4:1と2のパターンから、患者の病状を予測することが可能なことを少数のデータで確認
という事を証明しました。
この研究では現在最も詳細な方法で細菌叢と化学物質を検出する事によって、IBD患者の細菌叢の種類と機能的な特徴と、分泌物の種類を発見しました。この結果から、IBDの原因解明や治療法の発見が期待されます。

今回のポイント

さて今回はいかがでしたでしょうか。はっきりいってこれは説明するのはとても難しかったです。皆さんにとってはもっと分かりにくかったでしょう。すみません。もっと勉強します。

とはいえ、今回のポイントは生命科学研究でもいわゆる"ビッグデータの解析が当たり前になってきている"ということです。つまり大量の検出結果を、コンピューターを使って解析し、何らかのパターンを見つけ出すという事です。

遺伝子解析(シークエンシング)

ビッグデータの代表的な物に遺伝子解析があります。シークエンシングでは
解析のために数百長さの核酸の配列を、数十億個解析して、そこに含まれる遺伝子情報を解析します。今回の論文ではバクテリアの遺伝子を解析する事によって、そこに存在するわずかな量のバクテリアまで検出でき、バクテリアのもつ酵素も同時に解析できるので、機能までもが予測できるのです。

質量分析

遺伝子解析だけでなく、この論文ではもう一つのデータとして4種類もの条件で質量分析をしています。その結果8000種類以上の化学物質とその含有量が解析され、病気と関連の深い物質が示唆されました。

コンピューター解析とパターン学習

以上のようにこの研究では、現在できる限りの詳細な検出方法を使い、大量のデータを得ることに成功しました。
さらにこの研究では、これらのデータをどうやって活用するかという幾つかのチャレンジがされています。
一つにはこれらのデータを(一つの菌や化学物質ではなく)細菌叢全体の機能として解析して、病気との関連を検討しました。その結果、ディスバイオーシスが病気と関連していることも示唆されました。
もう一つは、機械学習を利用する事によって、菌と分泌物の情報をパターン化する事で、菌や分泌物の情報だけから、病気の状態をある程度まで予測できるようになりました。

という事で、現在のできる限りのリソースを費やした、F1のような研究でしたが、いかがでしたでしょうか?内容はあまり一般的でないところですが、最前線ではこんなチャレンジが行われています。この技術が日々の生活に役立つようになるのが楽しみですね。

今回は研究の技術的な最先端についてお話ししましたがいかがでしたか?
感想だけでなく、もっと知りたいことなど、質問いただけると嬉しいです。
それではまた次回!

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