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善玉菌? 悪玉菌? 細菌叢?

皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。
前回は腸内細菌叢って何かということについて書きましたが、腸内細菌の事を書き始めると、思ったより言いたいことが沢山ある事に気づいたので、腸内細菌シリーズとしてもう少し深掘りしたいと思います。
今回は2021年12月にNatureに掲載された、イスラエルのグループによる腸内細菌叢と健康にまつわる研究を通して、善玉菌とか悪玉菌とかの先にあるバクテリアの集合体(細菌叢)という捉え方を紹介したいと思います。

概要

タバコによる健康被害は今はもう周知の事実ですが、禁煙の難しさもまた有名です。ある調査によると、禁煙を躊躇する人の13%が"禁煙後に太る"という理由をあげました。

そこでこの研究では、
1:マウスモデルを用いて、喫煙によって腸内細菌叢のバランスが崩れてしまうこと(ディスバイオーシス)。
2:ディスバイオーシスによって、血中のDMG(Dimethylglycine)濃度が上昇することにより体重増加を引き起こすこと。
3:人においても喫煙者の腸内では非喫煙者より高濃度のDMGが検出されていること。
を証明しました。

これらの結果より、マウスにおいては禁煙後の体重増加の原因の一つが腸内細菌叢の変化による物である事が示されましたので、今後はヒトのサンプルでの大規模な臨床研究や、喫煙の有無に関わらず、ディスバイオーシスによる代謝障害について研究する重要性が示唆されました。

今回のポイント

さて、今回は腸内細菌の機能に関する論文でしたが、皆さんどんな感想を持ちましたか?
"タバコはやっぱり良くないなー"とか、"でもタバコは吸わないから関係ないかな"とか、"腸内細菌叢ってそんな事にも影響するんだ"って感じでしょうか?

バクテリアをグループとして考える

さて、前回は細菌叢とはどんなものかを解説しましたが(前回参照:https://note.com/tatsuya_ca/n/n764d285992b1)、一般によく聞くのはビフィズス菌などの一つの菌が身体にいいとか、悪玉菌が増えると体に良くないといった、単一の菌の健康への影響ではないでしょうか?

ところが今回の論文では、特定の菌については触れていません。それが何となくモヤッとしてしまう一つの理由ではないでしょうか?
そうなんです。善玉菌とか悪玉菌という特定のキャラがいなくても、細菌叢というグループで見ると、身体に大きな影響を及ぼすことがあります。それがディスバイオーシスです。

ディスバイオーシス(Dysbiosis)

ディスバイオーシスとは簡単にいうと細菌叢のバランスが崩れた状態のことを言います。下の図を見てみましょう

実は最近では、上の緑の図のような、”多様な種類の微生物が、適度な量いる状態”が、健康な状態であることがわかってきました。もちろん健康の定義は曖昧ですが、変化に強く機能的な状態とでも言えるでしょうか。

それに対して、
1、病原菌が増加する。(病原菌とは、その菌がいるだけで、腸炎になったりするような、病原性大腸菌などの通常は存在しないような菌を指します)
2、多様性が低下し、少数の限れられた種類の菌しかいなくなる。
3、いわゆる善玉菌が減る。(人にとって必要な物質を多く産生するような、ビフィズス菌や、納豆菌など)
これらの状態をディスバイオーシスと言います。

こうなってくると、この論文にあるDMGのような代謝に必要な物質の量が減ったり、少数いるだけなら本来は問題ないような弱い病原菌に対する抵抗力が落ちたりします。
つまりディスバイオーシスとは、変化に弱く、病気になりやすい(もしくはすでに病気)細菌叢の状態と言えます。

という訳で、今回は善玉菌とか悪玉菌とかじゃなく、もっと大きな細菌叢というグループで考えると、多様性を保つのが健康でいる秘訣だよっていう話をしました。
次回は、”多様性を保つには”という事を書きたいと思います。質問やご感想いただけると嬉しいです。それではまた!

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