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ニキビを防ぐ新たな可能性

皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。

ここのところ細菌叢と脳の機能の関連についての論文が続いていましたが、今回はもう少し身近なニキビの原因、アクネ菌についての新しい発見が報告されていたのでご紹介します。

この論文は2022年のScience translational medicineに掲載された"Antimicrobial production by perifollicular dermal preadipocytes is essential to the pathophysiology of acne"という論文で、カリフォルニア州立大学の研究グループから報告されました。
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.abh1478

概要

ニキビの原因としてアクネ菌はとても有名ですが、毛穴の奥でアクネ菌が増殖した時の免疫反応のメカニズムははっきりしていませんでした。そこで今回筆者らは、毛穴の周りに多くある線維芽細胞という細胞の免疫機能に着目し、この細胞がアクネ菌の増殖をどの様に制御しているのかを検討しました。その結果
1、シングルセルシークエンシングという遺伝子解析方法を使って、これまで一種類の細胞と考えられていた線維芽細胞が、実はいくつかの遺伝子発現パターンで分類できること。
2、そのうちの一つ、脂肪細胞に変化する線維芽細胞が、アクネ菌に感染した毛穴の周りに多く存在して、アクネ菌の増殖した際にはCathelicidinという抗菌ペプチドを産生すること。
3、現在もニキビの治療で使用されているレチノイン酸は、Cathelicidinの産生を促進することによって、アクネ菌の増殖を防いでいること。
以上の事を観察し、線維芽細胞がアクネ菌のような常在菌の増殖をコントロールするメカニズムを発見しました。この結果から筆者らは、アクネ菌の増殖と炎症の新たなメカニズムを解明できたので、今後は新たな治療法を検討したいとしています。

今回のポイント

さてみなさんいかがでしたでしょうか?ニキビができたことがある人は90%以上とも言われ、ほとんどの方が一度は経験したことがあると思います。アクネ菌の増殖が原因と考えられていますが、実はアクネ菌は常在菌としていつも皮膚に住んでいるので、ニキビができる要因というのはたくさん報告されています。ただ、今回のようにアクネ菌の増殖を抑制するメカニズムはあまり知られていませんでした。

抗菌ペプチドとは

ペプチドという言葉は聞いたことがある方も多いと思いますが、アミノ酸がいくつか繋がった状態の物質です。もっとアミノ酸が繋がると、タンパク質になります。

ペプチドとは

この論文では線維芽細胞がCathelicidinというペプチドを産生し、アクネ菌の増殖を抑制しているのを報告されました。これまでもレチノイン酸は外用薬だったり使用されてきましたが、アミノ酸やペプチドは大量に精製する技術ができてきており、医薬品としての応用が期待されていますので、新しいニキビの治療薬も期待されますね。

レチノイン酸たち


シングルセルシークエンシング

もう一つ最新の遺伝子解析の方法についても紹介します。
この方法は、数千個、場合によっては数百万個の細胞を一つ一つを識別して、遺伝子の発現パターンを解析する方法です。これまでの遺伝子解析方法は、数千個の細胞から抽出した遺伝子を一つのサンプルとして解析していたのと比べると、何千倍も詳細な解析ができる様になりました。その結果、今まで同じだと思っていた細胞にも、遺伝子発現に違いがあり、それぞれが違った機能をもつ細胞だと発見できるようになりました。

Single cell seq

それでは今回はここまで。
ご質問、ご感想などありましたらお気軽にコメントしていただけると嬉しいです。それでは!

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