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無意識の壁に気づく・壊す〜マインドフルネスと認知行動療法〜


1. トラの壁

動物園に住むモヒニという名のトラに関する有名な話があります。モヒニは、約3.7メートル(12フィート)四方の狭い檻で長い間暮らしていました。そんなモヒニのために、動物園のスタッフは、100メートル四方(数エーカー)の生息地を用意し、モヒニはさぞ喜ぶだろうと期待しました。ところが、実際は、モヒニは生涯、以前と同じ約3.7メートル四方で暮らしたのです。

トラの壁

2. 無意識の壁

モヒニはトラだからとバカにしてはいけません。私たちも、自分の周りに無意識の壁を作っていることがあります。例えば、私は勉強が苦手だ、私は年齢的に新しいことにチャレンジできない、というようなことから、一人でカフェに入ることはできない、などなど。

無意識の壁が、自分にとってよいものか悪いものかについての判断はおいておいて、まずは自分が持つ無意識の壁に「気づく」ことが大切です。無意識の壁に気づき、さらにその壁が不要なもの、よくない影響を与えるものだと判断したら、壁を「壊す」「再構築する」ことをします。

壁に気づくには「3. マインドフルネス」、壁を壊したり再構築するには「4. 認知行動療法」が有効です。

2.1. 無意識の壁とは?

無意識の壁は、私たちが日常生活で自動的に行っている思考や行動のパターンです。これらはしばしば、過去の経験や教育から来るもので、私たちが意識することなく習慣化されています。これらの壁は、私たちの行動や感情に大きな影響を及ぼすことがあります。

2.2. 無意識の壁にはどのようなものがあるか?

以下に、無意識の壁の分類と具体的な例を挙げます。

(1) 否定的な自己イメージ
自分に関して否定的な信念を持つこと。例えば、「私は何をやってもうまくいかない」という思考や、「私は十分賢くない」という信念がこれに該当します。

(2) 恐怖や不安
一定の状況や物事に対する過度の恐れ。例えば、失敗の恐怖、拒絶されることへの恐怖、特定の社会的状況への不安などがあります。

(3) 過去のトラウマ
過去の否定的な経験やトラウマが現在の行動や感情に影響を及ぼすこと。例えば、過去の失敗体験が現在の新しい挑戦への恐れを引き起こす場合などです。

(4) 制限された信念システム
自分の能力や可能性に対する制限を設ける信念。例えば、「私はこれができない」とか「私はそんなタイプではない」といった考え方です。

(5) 感情的な反応パターン
特定の状況で自動的に現れる感情の反応。例えば、批判されたときにすぐに怒りを感じる、失敗した時にすぐに落ち込むなどです。

(6) 対人関係のパターン
他人との関係における繰り返し行動のパターン。例えば、常に他人を助けることで自分のニーズを無視する、対立を避けるために自分の意見を言わない、などがあります。

3.3. 無意識の壁に気づき、壊す(再構築する)

これらの無意識の壁は、自己認識と自己変革のプロセスを通じて、認識し変えることが可能です。マインドフルネスや認知行動療法などの技術を用いることで、これらの壁を認識し、より健康的で建設的な思考や行動のパターンに置き換えることができます。

3. 無意識の壁に気づく〜マインドフルネス〜

無意識の壁に気づく

3.1. マインドフルネスとは?

マインドフルネスは、現在の瞬間に意識的に注意を向け、判断を下さずに受け入れることを目的とした瞑想の形態です。このアプローチでは、呼吸や他の身体の感覚を「アンカー」として使用し、心がさまざまな考えや感情に引き寄せられるのを観察します。

3.2. 無意識の壁に気づく

マインドフルネス瞑想を通じて、人々は自分の無意識の思考パターンや感情的反応に気づきやすくなります。このように自己の内面に気づくことで、無意識の壁、つまり自動的な思考や感情のパターンを識別し、それらがどのように行動や感情に影響を及ぼしているかを理解することができます。

4.無意識の壁を壊す(再構築する)〜認知行動療法〜

無意識の壁を壊す(再構築する)

4.1.認知行動療法とは?

認知行動療法(CBT)は、思考、感情、行動が相互に影響し合っているという考えに基づいています。CBTは、否定的な思考パターンや認知の歪みを特定し、それらをより現実的かつ建設的な思考に置き換えることを目指しています。認知の歪みとは、現実を不正確に解釈する思考の傾向を指します。例えば、過剰一般化、否定的なフィルタリング、極端な思考などがあります。

4.2. 無意識の壁を壊す(再構築する)

マインドフルネスを通じて無意識の壁に気づいた後、その壁が自分に悪影響を及ぼしている場合、CBTの技術を利用して認知の歪みを特定し、修正することが可能です。このプロセスでは、まず自分の否定的な思考や感情のパターンに気づき、それらがどのように現実を歪めているかを理解します。次に、これらの思考や信念をより現実的かつ建設的なものに置き換えることによって、感情や行動に与える影響を変えることができます。

たとえば、自分が常に失敗するという過剰一般化された思考に気づいた場合、その思考が事実に基づいていないことを認識し、過去の成功体験を思い出すことで、よりバランスの取れた視点を持つようになるかもしれません。これにより、自己評価が向上し、よりポジティブな行動に繋がる可能性があります。

5. 無意識の壁を壊すには?

(1) 否定的な自己イメージ

対応する認知の歪み
自己過小評価、全てか無かの思考
置き換え方
成功体験や長所に焦点を当てる。自己肯定の言葉を用いる(例: 「私にはこれまでの成功体験があり、新しい挑戦も乗り越えられる」)。

(2) 恐怖や不安

対応する認知の歪み
予測的思考、災害化
置き換え方
現実的なリスク評価、安心感をもたらす思考の採用(例: 「失敗は学びの機会であり、全てが失敗に終わるわけではない」)。

(3) 過去のトラウマ

対応する認知の歪み
過去の経験に基づく一般化
置き換え方
現在と過去を区別し、過去の経験が現在のすべてを決定するわけではないと認識する(例: 「過去の経験は私を強くした。今は新しい状況であり、違う結果が得られる」)。

(4) 制限された信念システム

対応する認知の歪み
固定的思考、自己制限的信念
置き換え方
可能性を広げる思考の採用、自分の能力に対する信念の見直し(例: 「私は新しいスキルを学び、成長する能力がある」)。

(5) 感情的な反応パターン

対応する認知の歪み:
感情に基づく推論
置き換え方:
感情と事実を分けて考え、より客観的な視点を持つ(例: 「感情は一時的なもので、それに基づいて全てを判断すべきではない」)。

(6) 対人関係のパターン

対応する認知の歪み:
他者依存的思考、犠牲者意識
置き換え方:
自己主張の強化、自己のニーズと他者のニーズのバランスを取る(例: 「私は自分の意見を尊重し、同時に他人の意見も尊重する」)。

これらの置き換えは、自己認識の強化と継続的な実践を通じて、より健康的で建設的な思考や行動パターンに変化させることができます。認知行動療法やマインドフルネスの技術を用いることで、これらの歪んだ認知を認識し、修正することが可能になります。

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