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剥き出しの魂たち メタリカ「真実の瞬間」

2004年に公開されたメタリカのドキュメンタリー映画。2時間21分。
ベースのジェームスが脱退するなど解散の危機に晒されたバンドが新作「セイント・アンガー」を完成させるまでの3年間に密着した作品。

音楽ドキュメンタリーが好きです。特にロックバンドのドキュメンタリーが。Pixiesの「Loud Quiet Loud」Foo Fightersの「Back and Forth」Oasisの「Supersonic」も良かった。

どの作品も基本「仲間割れ」の話。メンバー間の確執、脱退、復帰。蜜月の時は結成時のほんのわずかな時だけ。アーティストの強烈なエゴがぶつかり合う様を生々しく描く。ファンを増やす事なんて、あまり考えていない(ように見える)。そんな剥き出しの魂のぶつかり合いを描いた音楽ドキュメンタリーを見るのが何よりも好きでした。

物語は、ドラムのラーズ・ウルリッヒとヴォーカルのジェームス・ヘットフィールドの確執を軸に進む。独善的な強さと、アルコール中毒になってしまう弱さを併せ持つジェームスと、自らの音楽的感性とある種の正義感に忠実であろうとするが故に、妥協を嫌い、結果もめ事を巻き起こしてしまうラーズ。そこにセレブリティ御用達のメンタルトレーナー的な人が介入し、さらに、その状況を映画クルーが常に撮影し続ける・・・。

そのカオス的な状況は「この人達は、本当に問題を解決する気があるのか」と思わせ、2001年4月24日に「Day 1」として始まったドキュメンタリーが「Day 482」「Day 642」と未来永劫続いていくような展開は(Day715まで続く)ある種の「悲劇的な喜劇」と言った感すらある。

映画のラストまで、いつ解散してもおかしくない緊張感に満ちた人間関係。それでも作品の随所で彼らが行うセッションは、どんなに仲違いしていても最高に格好いい。「もうそれでいいんじゃないの」と言いたくなるくらいに。とても高いレベルの内輪揉めだという事が伝わってくる。

バンドを脱退したメンバーも登場する。初期にクビになったデイブ・ムスティンは、その後メガデスで成功を収めるも、10年以上「元メタリカ」である事に苦しめられてきたとメンバーの前で語る。

多くのバンドが辿る「出会いの奇跡」と「頂点までの蜜月」。そしてその日々が美しいほどに、栄光の時が過ぎバランスが崩れた後の日々は残酷だ。

長く続こうとするバンドは、どこかで「エゴのぶつかり合い」を回避して、安定軌道に乗せることを試みる。過度に干渉し合わない人間関係は衝突も生まないが、しかし刺激的な表現を生み出す事もない。

困難で、ままならない人間関係。
そして、それは僕らが経験するあらゆる人間関係に似ている。

しかしメタリカは「その先の栄光」を探して、文字通り身を裂くような苦しみに、あえて突っ込んでいく。視聴者として長い時間を共に歩んでいく感覚の中に、彼らの勇気と覚悟も共有する感覚が芽生えてくる。

ラーズが、バンド結成初期の思い出を語るシーンがある。
それはきっと、ジェームスとの唯一の蜜月の時期。

「1981年 部屋でジェームスと二人きりだった時があった。ブリティッシュメタルを聴いていたんだ。誰かが部屋に入ってくると、それまでの雰囲気が変わった」
「<ライト・ザ・ライトニング>の制作中に、奴と一緒に飲みに行った。『愛してるぜ』と言った。42本ビールを飲んでやっと出てきた言葉だ」
                      (ラーズ・ウルリッヒ)
「結成初日からしのぎを削ってきた。今のメタリカがあるのは、そのおかげだ」
「俺が13歳の頃に両親が離婚して、16歳の時に母親が亡くなった。心の支えになったのは音楽だった。すべてを支配したいという原点は、父に捨てられたトラウマのせいだ。
人と親しくなるのが怖いから、どうしたらいいかわからない」
                  (ジェームス・ヘットフィールド)

荒々しく暴力的なイメージの強いヘビー・メタル。しかしそれは深く傷ついたものがその傷から逃れようと、のたうち回る音楽でもある。

悲しみも、怒りも、絶望も、希望も(そしてビジネスも)
全てが、とんでもないスケールで展開されるモンスターバンド・メタリカ。

自らのエゴをぶつけ合いながら、ものを作る難しさと、その難しさを奇跡的にクリアできた時の、至福の一瞬を知る人のための映画です。

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