【詩】二

あのひとが遠くに行ってしまうと聞いた日
静かな水面が一気に粟立った

いつも飄々としているくせに
他人に酷く叩きのめされ去ることになったと

夫にも抱かないこの感情は
いけないもののような気がする

わたし如きが何かできることはない
弱っている姿を頑なに隠したがるあのひとに
気を遣って何も知らないふりをして

ただ心の中ではどうにかして
救ってあげることはできなかったのかと
自責の念にひとり溺れて

これを愛と呼ばずして
なんと呼ぶのだろうか

恋愛などという脆いものではない
事実、そのような情事を働いたことはない

ただこれはわたしの中で
一番尊い
一番理想としている
愛のかたちだ

それは知られた途端
醜く崩れる

誰にも気づかれてはいけない
ただ想っている様が美しいのだと

わたしだけが知っている洞窟に
そっと閉じ込めておきたい光

それを時々覗きにいって
その重い扉を開けると
光たちは一気に溢れ出し
狂おしいほど執着させる

外の世界に飽きたらまた小さく収まり
洞窟に戻っていく
傷付いたわたしを残して

傷ついた分だけ愛を実感できる
ボロボロになっても
守り抜いたという自負が
そうさせるのかもしれない

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