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39歳父の竹修行奮闘記 第八回「“面取り”で角を取れ!」

【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えるところまで来たが・・・

いよいよ竹ひごの幅が揃った。竹ひごの完成までもうすぐだ!今日紹介するのは面取り、竹ひごの角をとる工程だ。

料理をする人なら馴染みのある面取り、ちなみに料理の場合の面取りはこんな風に説明されている。

【面取り】
野菜の切り口の角をごく浅くそいで、丸くすること。料理の見ばえがよくなり、煮くずれを防止する効果が期待できます。大根、かぼちゃ、にんじん、里芋などを長く煮るときに行うことが多いです。(クックパッドより)

ふむふむ、工程自体はほぼ同じ。つまり直角に切り立った角を斜めにこそいで上げるのが面取りだ。いや、角を取るなら角取りじゃないの?と実は私も思っていた。角を取る(取り除く)ことで、面を取る(取得する)と考えると分かりやすいかもしれない。いやはや日本語は難しい。

竹細工における面取りは、料理の面取りと同じく見ばえをよくするという目的のほかにもうひとつ、触り心地をよくするという大きな目的があるが、それはのちほど。

まずは具体的な面取りの方法だ。面取りの仕方はいくつかある。

まずは前回使った幅取り小刀を使う方法。

台に幅取り小刀をクロスさせて打ちつけ、表皮側を下に向けて、左手でひごが浮かないよう抑えながら、右手でひごを引っ張る。節(ふし)がある場合は、少し上に向けて引くとスムーズにいく。

もうひとつは面取り包丁を使う方法。

世の中には面取り専用の包丁がある(私も全く知りらなかったのでご安心を)。この包丁を使う場合は、さきほどの方法とは上下を逆にして、面取りしたい側を上に向けて、右手で包丁を固定しながら、左手ででひごを引く。

いやはや、今回も作業が地味で、写真映えしなくて申し訳ない限りだが、あえてこうやって詳細に紹介しているのには、もちろん理由がある。

この一見地味に見える面取りという工程が仕上がりに与える影響は、想像を絶するほどすさまじく大きいのだ。

いやいや、とろろ昆布程度のクズしかでないんだから、やってもやらなくても一緒でしょ。

恥ずかしながら、私もそう思っていた・・・(ごめんなさい)

でも実物を見て、実際に触れてみたら、その差は歴然だ。実際、一本のひごであれば、面取りの有無でそこまでの差は感じない。ちなみに面取り後のひごはこんな感じ。

竹ひごの左右にうっすらと線があって、独特の立体感があるのが分かるだろうか。ちなみにこのひごの厚さは0.55mm。ぺらぺらなはずなのに奥行きを感じるのはひとえに面取りのおかげだ。

とはいえ一本では一本ではたいした違いはない。だが何十本、場合によっては百本以上使って、ひとつの道具(もしくは作品)を仕上げるとなると、視覚的に与える印象は全く別物になる。

そして更に違いが際立つのが手触りだ。

普段使いの道具は「手に馴染むこと」がとにかく重視される。そりゃそうだ。ゴツゴツ、チクチク、ゴワゴワしている道具なんて私も使いたくない。毛糸を入れるたびに引っかかるようなカゴは、誰も欲しがらない。

面取りをしてない竹ひごで作った道具は、どこかゴツゴツしていて、手に取りたい感じがあまりしない。だが、面取りがしてあると、立体的でツルッとしていて、手に取るとスっと手に馴染む。表現が感覚的でまことに申し訳ないが、こればかりは体感してもらうほかない。

ちなみにこの面取りという工程、作業としての難易度は決して高くない。刃の調整も難しくないし、ひごを引く力や方向も幅取りの方がずっとシビアだ。

だが、ことはそう簡単ではない。
単純で容易に見える工程ほど、奥が深いのだ。

私はまだ実感としてはわからないが、先生や職人など経験豊かな人ほど、面取りの奥深さを強調する。「ただ角をとる」という目的を達成するのは容易でも、イメージしたビジュアルや質感を実現するのは、困難を極めるという。

例えば、ここにレゴがある、とする。

ひとつのブロックの角を取っても、そこまでの差はないに違いない。だが、何百何千というパーツの角を取って組み上げたらどうだろう。作るのは動物か、植物か、建物か、ロボットか、それによって角の取り方は変わってくるだろう。その仕上がりをイメージしながら、レゴのブロックの角をひとつずつ取るのだ。

竹細工はそういう途方もないことを日常的に行っている。一朝一夕でどうにかなるものではない。だからこそこうして毎日竹と向かい合う必要があるわけだ。

何はともあれ面取りができた!次回はひご取り最終回となるうらすきでひごの厚さを揃える。乞うご期待!

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