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テレワークゆり物語 (25)二度目の首相官邸~福田総理時代

はじめて総理官邸を訪問したのは、2006年小泉純一郎内閣のときだった。そして、二度めの訪問は、安倍晋三第一次内閣を経た、2年後。福田康夫総理大臣に、ある報告書を届けるべく、首相官邸を訪れた。その報告書のタイトルは、以下。

「女性が働きやすい社会」をつくるためのアンケート調査報告書

安倍第一次内閣で「テレワーク倍増アクションプラン」が策定され、いよいよテレワークの時代だ! と意気込んでいたところ、安倍総理が持病の潰瘍性大腸炎の悪化で、任期途中で辞任。2007年9月、福田康夫衆議院議員が内閣総理大臣に任命され、福田康夫内閣が発足した。

「新しい内閣でも、テレワークを推進してほしい」

しかし、福田内閣の所信表明や政策では、「テレワーク」の「テ」の字も出てこない。何とかできなのか。もんもんとしていると、知人から「女性が働きやすい社会」というテーマなら、総理は興味を持つかも、というアドバイスをもらった。
1985年に男女雇用機会均等法、1991年に育児休業法、2003年に次世代育成支援対策推進法が制定されたとはいえ、当時は、まだまだ「女性が働く」環境は厳しい時代だった。

そこで、ネットを使った独自調査を実施し、報告書を作成した。アンケートの設問に「テレワーク」の項目はいれたものの、提言文のタイトルにも、本文にも「テレワーク」という言葉は、あえて入れなかった。しかし、思いはしっかり入れ込んだ。今、提言文(下記)を読み返して、我ながら「やるやん」と思う。

しかし、なぜ、民間のいち女性が、現役の総理大臣にアンケートを届けることができたのか。そこには、当時の総理秘書官の尽力があった。

いくらなんでも、それは難しいだろう・・・と言われ続けて、日々が過ぎていく中、9月初め、福田総理がその職を辞することを発表された。

ああ、この報告書は、このまま消えるのか・・・そう思ったとき、秘書官から連絡があった。「明日なら総理の時間がとれます」

かくして、提言書を手渡すという、大それたことを実現。総理との会見のあと、エレベーターを降りたところで記者さんに囲まれるという、すごい体験もさせていただいた。

当時の秘書官は、今は、衆議院議員として活躍されている福田達夫氏。それ以来、「僕はテレワークはよくわからないけど、がんばってね」と、応援いただいていた。 (あえて過去形にした理由は、また改めて)

以下、提言文。太字以外は、原文まま。

【提言文】

内閣総理大臣
福田康夫殿

「これからの日本のために、女性864人の生の声を政策に活かしてください」

 今、日本は、社会保障問題、偽装問題、景気の停滞など、目の前にさまざまな問題を抱えています。もちろん、どれも早急に解決すべき、重要な問題です。

 しかし、長期的な目でみると、最も大きな課題は「労働力不足対策」と「次世代の育成」ではないでしょうか。労働力が不足すると、国の経済力が低下します。そして、このまま子どもの数が減り、子どもたちが健全に育つ環境が後退すると、この悪循環が30年後、50年後も続きます。

 少子高齢化社会で労働力を維持するには、「働きたいけど、働けない」人が「働ける」ようにする必要があります。そして、日本において、今「働きたいけど、働けない」状況にいるのは、圧倒的に「女性」です。また、一方で、子どもを産むという役割を担っているのも「女性」です。結果として、働くことと、産むことを両立できる環境、つまり「女性が働きやすい社会」にしないと、日本はこの悪循環から抜け出せないでしょう。

 今回、私が「女性が働きやすい社会をつくる」アンケートを実施し、女性の声を集め、政府に届けようと考えたのは、単に「女性のため」だけではありません。政府に女性たちの声を届け、彼女たちが働きやすい社会を実現することが、「少子高齢化」「労働力不足」「次世代の育成」という、日本が抱える複数の課題の解決策であると考えたからです。

 今回のアンケートは、あらゆる女性に対し、「謝礼なし」「記名義務なし」で協力を依頼しました。広報にも費用をかけず、クチコミで告知しました。それにもかかわらず 864名もの女性が「女性が働きやすい社会」のために協力してくれたのです。そこには、単なる数字だけではなく、さまざまな立場からの「現実」や「思い」を込めた生の声がありました。

「子持ちは社会においても厄介者。子育ては苦しいです」
「育休を取得して復帰したが、想像以上に大変。女の敵は女でした」
「正社員でがんばれば手厚く援助するが、そうでないなら知らない、という政策だと思う」
「子どもがいる、いないにかかわらず、女性が働きにくい社会です」

 一方で、本当に日本の将来のことを考えた、強い提案もありました。

「海外からの労働力に頼るぐらいなら、働きたい女性を活用してください」
「女性だけでなく男性も働きやすい社会にしなとダメです」
「女性側も、手厚い制度に甘えていてはいけないと思います」

 労働力不足の日本では、男性も女性も、今まで以上に働く必要があります。でも、父親も、母親も外で働き、子どもだけで過ごす時間が増え、地域から人がいなくなる状況で、健全な「次世代の育成」ができるでしょうか。子どもをあずけて仕事をするための「保育所や学童保育の整備」や、子育てに専念するための「育児休暇の延長」などの現施策も重要です。でも、それだけでは「女性が働きやすい社会」は、実現できません。

 働きながらでも、しっかり子どもと向き合える、そんな「柔軟な働き方」が、今、強く求められています。そして、その働き方を、子育て中の女性に限らず、男性も含めて、また、労働者に限らず、企業経営者にとってもメリットとなる形で、環境づくり、制度づくり、施策の実施が必要だと考えます。

 今回のアンケートの報告書には、「公平な選択肢」をキーワードとした「政府への提言」を記載しております。また、アンケートで記入いただいた「生の声」(のべ1500件)を、インターネット上で公開し、「企業への要望」「国の施策への意見」「社会への提言」などの視点から、どなたにもご覧いただけるようにしています。ぜひ、国の施策や方針を検討されている皆様にご覧いただき、政策に反映していただきたく思います。また、このような活動を継続できるよう、引き続きご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
                     平成20年9月11日  田澤由利


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