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2019年5月の音楽(とか)のこと

先週末にこんなイベント(大会)に出た。3年連続3回目。

6~15人までのチームで24時間(土曜13:00~日曜13:00)襷をリレーして、1 kmちょっとのコースの総周回数が記録になるというイベント。大学の部活動のOBが中心の我がチームは例年60チーム近い参加数の中で、一昨年2位、去年4位と(一応)全力で勝ちに行くスタンスをとっている。今年は参加者集めに苦労して総距離300 kmちょっと(僕が走ったのは計30 kmちょっと)でなんとか4位という結果でした。

深夜4時に数十分の睡眠直後に1.5 kmを全力で走らなければいけない状況の訳のわからなさや、実質キャンプのような雰囲気とそこで束の間の休憩に摂る食事なんかが好きだ。そして、みんな誰に言われずとも当たり前のようにきっちり1周のタイムを取ってきて、陣地に戻ったら報告し合い、淡々と記録表にまとめていく端から見たらストイックな変人たちの塊のようなその姿に強烈な愛おしさやノスタルジーを感じるのだ。

そういえば、この24時間リレーマラソンとフジロックは自分の中でどこか似ているような気がする。偶の不自由や非日常の中にこそ大きな感動があるのだと思う。そんな今年のフジロックで、今タイムテーブルの発表と同じくらい楽しみにしているアナウンスが、フジロックランの開催である。例年に比べてかなり仕上がっている身体、徒歩圏内の宿泊ということを考えると今年は初参加の絶好のチャンスと言ってよさそうだ。そうそう、今年は大学時代のサークル仲間のご好意で初の会場徒歩圏内宿泊なのだ。

例えば激アツのこことか深夜帯のアクトも気軽に見れそうで、楽しみ倍増です。あっという間に開催までもう来月となりまして、最低でも実質2日間はいるはずなのでみなさん会場ではよろしくお願いしますね。


アルバム

Vampire Weekend「Father of the Bride」

Vampire Weekendの待望の6年振り新作は、1ヶ月通して何回も聴いた。色々ありますが率直にとても好きな作品です。色々、とは6年の間に変わったことと変わらなかったこと。ロスタム・バドマングリの不在が何にも代えがたいトピックなのは事実だろう。多数のコラボレーションがあるとはいえ、エズラ・クーニグというSSWによるソロ作品のように聴こえる面もある。結果接近したのはPaul SimonやJudee Sillといった音楽家の筆致か。

特に流麗なストリングスアレンジや、1曲目の聖歌のサンプリングなどそのソングライティングの端々にはJudee Sillなんかに通ずるホワイトゴスペル的な要素もあるんではなかろうか。他にも大きく変わったものといえば、代表的なのはそのサウンドデザインである。柳樂さんのこれは本当に参考になった。

ここにもあるように低域の充実、ベースとドラムがしっかり連動したグルーブというのは新作ならではの「変わったところ」、でギター、ピアノ、ストリングスといったウワモノの配置、音色のセレクトに対する鋭い感覚というのは「変わらない(さらに研ぎ澄まされた)ところ」ではないか。ググっと下限が押し下げられることによって、バンドミュージックとして充分豊かな音数を備えていながら、中域にあまりに不自然なほど広大なスペースが生まれているように思う。これこそが「空虚」ではないか。何かあるようで何もないな。

未だにどこか怖いんだよなーこのアルバム。一番好きな「Rich Man 」→「Married in a Gold Rush」の流れなんて最高にハッピーなのもそれはそれで事実なんだけど。結局一番ときめいてしまうのは「Rich Man」で聴けるような結構俗っぽくて流麗なストリングスなのでした。小沢健二っぽいやつ。「強い気持ち・強い愛」でも「僕らが旅に出る理由」でもいいです。そういえば「僕らが旅に出る理由」はそもそもPaul Simonだし、やっぱPaul Simonなのだねーという話。

Tyler, The Creator「IGOR」

Thomas William Hill「Grains of Space」

The National「I Am Easy to Find」

5月17日は大変なリリースラッシュだった。大方の中心Tyler, The CreatorとThe Nationalに加えて、僕はThomas William Hillをぜひ推していきたい。自分を含めた(広義の)ロック耳リスナーにも好評というかそういう壁を取っ払うようなヒップホップって例えばカニエ・ウエストやVince StaplesやBROCKHAMPTONや色々あると思いますが、タイラーのはそれの2019年時点での1つの究極系ポップアルバムという感じで、グッときた。Bandcampで偶然見つけたThomas William Hillのアルバムが本当に素晴らしくて上半期のベストにもリストインしそう。インディーロックのダイナミズムや、ミニマルなエレクトロニカの要素も感じるポストクラシカル。全部の楽器のサウンドデザインが素晴らしく完璧で惚れ惚れする。あっちほどインパクトのある音が鳴ってるわけではないんだけど、去年のRafiq Bahtiaのアルバムなんか一緒に聴いてみると面白そうかな。

待望のThe Nationalの新作は2曲目「Quiet Light」なんかは到達点として語られるべき「Sleep Well Beast」のその先に歩を進めたようなサウンドプロダクションで感動したが、女性Vo.の必要性だったりピンとこないポイントもいくつかあって、あまり聴き進められていない。

Brain Harnetty「Shawnee, Ohio」

先月出ていたこれは今月に入って沢山聴いた。静謐なチェンバーフォーク+雑踏はたまたラジオから聴こえるような話声、歌声のサンプリングという方向性の作品。巧みなサンプリングが手伝って、インスト主体ながら人名が目立つトラックさながらに「人」が強く意識されるような仕上がりに惹きつけられる。

優河「めぐる - EP」

王舟「Big Fish」

Mom「Detox」

日本のクリエイター達からも固まって素晴らしい作品がリリースされた。優河のEPが想像以上の凄まじい仕上がりで、最初に聴いた時のインパクトはすごかったなー。歌はもはや当たり前のようにずっといいし、それに加えてプロデューサー岡田拓郎を中心としたサウンドが完璧な仕上がりだ。「めぐる」の身体というか脳に直接響いてくるような美しいドラムは一体なんなんだろう。弦楽器にしてもどれもこれも弦一本一本まで意識が行き届いているような繊細なハリがある。ceroから荒内佑が参加している3曲目「sharon」もこのメンツで作る音楽としては個人的にあまり求めていない系統ながら、優河のボーカルスタイルにフィットしていて面白い。cero「Waters」の兄弟として見てみても興味深い曲かも。一気に知名度も上がって、しかもTwitterを見る限り自分の思っていたターゲットに近い人に届いた感があってとてもうれしい。新作はここでいうインディーロック、ドリームポップの範疇なんかに留まるようなものではなく圧倒的超越を果たしていますが。

1st「Wang」が大好きでけっこう思い入れのある王舟の新作も相変わらずの素晴らしさだった。エレクトロ × 生音の方法論というのは今でも年々アップデートされていってるわけですが、このアルバムも昨年のシングル「Muzhhik」を中心にそういう点で新鮮なアプローチに溢れているように思います。

Holly Herndon「PROTO」

ドレスコーズ「ジャズ」

N.U.M.A「Nenhuma Unidade Máxima Absoluta」

あんまり聴きこめてないのではここら辺。Holly Herndonはヴォーカルの使い方がすごく面白かったり。ドレスコーズも前作を軽く超えてくる傑作だなーと思ったのになぜかそこから聴けてません。

折坂悠太「荼毘」

noid「paradiselost」

米津玄師「海の幽霊」

Sufjan Stevens「Love Yourself / With My Whole Heart」

初めて聴くnoidがとてもよかったり、米津玄師の新曲を聴いて素晴らしいなーと思うと同時に、ならばこの曲も今の軽く10倍は聴かれていいなーと思ったり。

Sufjan Stevensの新曲も来たばっかり。Illinois(2005)→The Age of Adz(2010)→Carrie & Lowell(2015)という周期できているのでアルバムは来年ですかねー。

その他雑記

「やまや」という東北地方中心に店舗展開する、酒、輸入食料品チェーンが独自でドイツから輸入販売している「エッティンガー ヴァイス」が常用ビールになりそうな穴の無さだ。ヴァイツェン、ベルジャンホワイトタイプの無濾過白ビールで、バナナのような香りとクリーミーな泡に代表されるように滑らかな口当たり。軽くて、絶妙に洗練されてなくてちょっとボヤっとした味が好みドンピシャなのです。日本の定番ピルスナータイプだと喉に流し込むような「グビグビ」という飲み方が合うと思うんだけど、これは口の中にしっかり含むように「ザバザバ」飲みたいやつの代表ですね。驚くべきはそのコストパフォーマンス。一缶税込み¥170と、同じ系統、レベルの日本のクラフトビールが倍くらいの値段してもおかしくない中異常な価格設定を誇っている。何ならビールと聞いて思い浮かぶ日本の定番ピルスナータイプのどれよりも圧倒的に安いんだから、もうこれから飽きるまで徹底的にこれでいいんじゃないかと思っています。


旧譜について。先月案内してもらって訪れた仙台のレコード店volume1(ver.)に今度は1人で再訪した。「6,70年代のフォーク/SSWにはまっていて~」、さらに途中で店内の盤(Rock of Ages)が目に入ったので「最近The Bandが前よりも数段好きになってしまって~」という切り口から店主さんに次々とおすすめしてもらう。クリーニング済みの通常の棚に収まっているものではなく、床置きの未クリーニング品エリアから出してきて頂く盤がどれもこれも素晴らしくて、じわじわと高まっていってしまった。

実際内容も最高なのに加えてストリーミングでの配信もなかったので、初っ端におすすめ頂いた2枚を購入した。

Mike Storey「Storey」とTim Hardin「Tim Hardin 2」です。Mike Storeyの方は特に1曲目が「渾身の名曲」という具合に最高だったんだよなー。早くもう一回聴きたい。そういえば言い忘れていましたが、現在ホテル暮らし、そして来週からも諸事情により2ヶ月のホテル暮らし延長が決まったため、なんと8月までレコードなんて聴くことができない。なんだそれ。

他にもvolume1(ver.)で出会った、話題に上がった音楽がとにかく今月の中心だった。もはや2か月の仙台近郊滞在終了に際してもっとも惜しいのがこのレコードショップかもしれません。ずっと「次は聴こう」という意識のまま、なぜだか後回しになっていたスーパーグループCrosby, Stills, Nash & Youngも店内で初めて聴かせてもらう。超実力者4人の溢れんばかりの創造意欲を30分台に凝縮するとこんなにすごいのができるんだなー。Neil Youngのボーカルが至高の直球名曲「Helpless」からプログレッシブフォーク「Deja Vu」まで。

メンバーの1人Stephen Stillsのソロ作も1曲目から「これが聴きたかった!!」という掴み抜群の1枚だった。

4人のスペシャルなソングライターのソロ作やその内の何人かがくっついたり離れたりしていくのを追っていくだけでたっぷり楽しめる素晴らしきCSN&Y。一応聴いたのはここら辺で来月も彼らを1つの中心に据えてディグろうと思う。

「レコードで聴くとこれもイメージ変わってきていいんですよ」とふとかけてもらったJohnのこれも今月なんかかなり聴いたなー。すごく今しっくりくる塩梅でソロで一番好きな1枚かも。絶妙な黒さ。

最後は「話の流れとはあんまり関係ないんだけど好きそうだから」、と出してもらった70年代を中心に活躍したファンクバンドWarと、そのハーモニカ奏者Lee Oskarのソロアルバム。どちらもジャズやらラテンも飲み込んだようなモダンなファンクミュージックで、ヒップホップで頻繁にサンプリングされるっていうのもさもありなんといった感じ。実際に聴かせてもらったのはLee Oskarの1975年作。これがちょっと衝撃的な内容で、店内でものすごく興奮してしまった。今新譜で出たとしても全く違和感がないどころか、むしろ評判になりそうな音響、アレンジ、アルバム構成。注目すべきは「I Remember Home (A Peasant's Symphony)」とメインタイトルを同じくするように、1曲のアレンジ違い、構成違いが収録されているスタートの3Trackで、そのリズムパターンや、ウワモノ、コーラスから滲み出るスピリチュアルなフィーリングにはKamasi Washingtonを想起せずにはいられない。他にも1曲目4'00くらいから入ってくる流麗なギターは例えば「大停電の夜に」であったり「ceroのギターがいい曲」に受け継がれているかのような音色だし、4曲目の大きなキックを主体としたスカスカのビートもやけに今っぽい。本当に面白い作品だと思うのでぜひ。ちなみにフロントはまだマシですが、中ジャケ、裏ジャケはとんでもないダサジャケでした。

先月号で紹介した例のディスクガイドからはこれとかはネットに(ストリーミングになくて諦めようとしたら何故かBandcampに!!)あって聴いていた。Ron MooreというSSWの1971年作。ボーカルやギターのアンビエンスが全然古びていない。Nick Drakeとかたまにこういう超越した音出せちゃう人いてすごいよなーと思いますね。ちなみにこれが載っていたのはディスクガイドの「An Abyss of Christian Music」というチャプター。他にも面白そうなのいっぱいあって、ここが次の「金の鉱脈」なのではという予感がしているのだけどこれくらいしか配信で聴けないのです。

見つけたきっかけは覚えてない1969年作のこれも才気迸っている感じで面白そうだったので聴きこみたい。


トーマス・ステューバー「希望の灯り」を見に行ったら、内容を把握できないほどにしっかり寝てしまった。導入部で眠くなってしまう映画は気に入る確率が高いという1つの経験則を持っていて、これもバチバチに当てはまりそうだからなんとかもう1回見に行きたい。と思いながら見に行けてなくて続々と上映終了していってしまっている。


Wi-Fi環境的にストレスを抱えてドラマなりなんなりチェックするのは賢くないという決断に至って、その代わり今月はけっこう本を読んだ。中でもよかったのはここら辺でしょうか。

GRAPEVINEきっかけで手に取ったアンソニー・ドーア「すべての見えない光」は小説として全ての要素が高得点の稀にみる超優等生作品という感じで素晴らしかった。前田司郎「異常探偵 宇宙船」は話の筋とかかなりガタガタで突拍子もなくて、詰めが甘いと言われても仕方ないようなそういうのを気にしだすとあんまりいい小説とは言えないような作品なんだけど、なんでもないプロットや会話なんかの細部にどこか惹かれてしまう作品でもある。不思議なんだけど前田司郎作品はやけに形容し難いところで気が合うんだよなー。五反田団の公演を観に行ってみたい。

寺尾紗穂さんのエッセイ「彗星の孤独」は本当に素晴らしくて、読むたびにジワジワと体力が回復していくのが手に取るようにわかるパワーを持った作品だった。近作2枚「楕円の夢」と「たよりないもののために」をタイトルとしてこの2作品の制作周りのことを書いた数十ページは大名文なので全引用したいくらいだし、たくさんの人に読んでほしい。寺尾紗穂さんの音楽は、アルバム「楕円の夢」、その中でもラストトラックの同タイトル曲は特に愛聴していたものの、素朴すぎるように感じるものも多くそこまで熱心に聴いていたわけではないので、いろいろ聴き返してみようかなー。

エッセイに話を戻すと、オタマジャクシから始まって河童、かつての公団住宅の民営化、ホロコーストといった体験したエピソードから生まれるワードを巧みな引用を駆使して、実に鮮やかにつなぎ合わせ現代社会に警鐘を鳴らす「河童は死んでいない」はひときわ強く印象に残っている。

読みたい本が次々増えるエッセイだった。


最後に引用の引用を。前述の寺尾紗穂「彗星の孤独」の第一章「楕円の夢」内で引かれた平川克美「21世紀の楕円幻想論 その日暮らしの哲学」から。

いうまでもなく楕円は、焦点の位置次第で、無限に円に近づくこともできれば、直線に近づくこともできようが、その形がいかに変化しようとも、依然として、楕円が楕円である限り、それは、醒めながら眠り、眠りながら醒め、泣きながら笑い、笑いながら泣き、信じながら疑い、疑いながら信じることを意味する。これが曖昧であり、なにか有り得べからざるもののように思われ、しかも、みにくい印象を君にあたえるとすれば、それは君が、いまもなお、円の亡霊に憑かれているためであろう。


今週末やっとつくばに戻れるのがうれしいなー。

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