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ベスト“展” 2017

2017年、数えてみたら50以上はいろんな展覧会/展示を観た。1月も終わりに差しかかっているが、ベスト10を振り返る。いずれも甲乙つけがたく、順位は僅差です。


1. 荒木経惟 センチメンタルな旅 1971-2017-

やっぱり荒木経惟、そして金字塔「センチメンタルな旅」。2017年は国内外で10回以上展覧会があり、アラーキーイヤーでもあった。

プリントを観るのは初めて。写真集の中では何度も見ていたけれど、プリントされた陽子は、まるで生きてるような強いエネルギーを放ってた。結局アラーキーの写真は真実であり、嘘でもある。写真の2面性を自分の人生にピタリと重ねていくこの人は、怖いほどに写真の本質を理解している。それがひしひしと伝わってくる展示だった。

「東京は、秋」シリーズでは、写真の撮り方、見せ方を“写真家の妻”として見事に解説する陽子のインタビューが素晴らしかった。アラーキーの街の見つめ方がよく分かる。企画・編集としても感動した。

「食事」シリーズは、余命わずかの陽子が作る食事を、記憶に焼き付けるように撮った写真。自分の脳裏にも、今も焦げ付くほど焼き付いている。偽物に感じるほど凄まじい、食べかけの料理の生々しさが、生きることの壮絶さを伝えていた。3万円近くする絶版の古書は、いつかちゃんと手に入れたい(店にはある!)。

アラーキーの写真を見ていると、いい写真って何だろう、と思う。正直、全部を好きではない。だからこそ、その発想や表現の幅に常に驚かされ、惹き付けられる。写真の面白さを教えてくれたのがアラーキーだったことを思い出した。(恵比寿/東京都写真美術館


2. オットー・ネーベル展

パウル・クレーやワシリー・カンディンスキーと交流の深かった画家、オットー・ネーベルの回顧展。バウハウスと、ナチスの時代を絵画から俯瞰するとても良い内容だった。残虐な時代だったと言えども、当時の空気を体感できたことが心底嬉しい。タイムスリップできるのが、アートの醍醐味の一つだと思う。

色彩と抽象をひたすら追求したネーベル。ついには自分で文字のようなパターンを作ったり、ミクスメディアのコラージュをしてみたりと本当に多彩(さらに演劇にも出演したとか)。脳の中枢に直接訴えてくる美しさは、想像を遥かに超える感動だった。

再入場不可の会場内部のショップでしか図録を買えなくて、手持ちのお金がなかったもんだから、一旦ATMへおろしに行ってから係員さんに代理購入してもらった。図録を買わないと一生後悔する、との一心で。

Bunkamura ザ・ミュージアムの展示は、いつもほどよい規模でツボを突いてくる。(渋谷/Bunkamura ザ・ミュージアム


3.ソール・ライター展

またまたBunkamura。正直、この回顧展を知るまでは、それほどソール・ライターのことを知らなかった。「Early Color」が人気だな、くらいの印象。

配色や構図が美しすぎて、最初は今ひとつ引っかからなかったというか。ひょんなことからオフィシャルにフェアをやらせてもらえることになり、調べてみるとどんどんその魅力に惹かれていった。

初期はファッションフォトも撮っていて、当時の主流であるスタジオではなく、街をセットにしたものが多い。今でこそ路上でのファッションフォトは多いけど、その先駆けであり、かつ、今より50年以上前にすでに完成させていた。派手ではないけれど、一瞬で惹かれる。モデルと、街に。センスが光る作品は、ファッションフォトへの取っ付きづらさを払拭してくれた

商業写真のスタジオを閉じて、ひたすらニューヨークの自宅周辺を撮り続けた後期の作品では、やっぱり傘が印象的だった。街を行き交う人々の傘を一瞬だけ“借り”て色を差したり、一部を隠したりと巧みに構図を見つけていく。息を潜めて、誰に見せるわけでもなく撮った写真なのに、こんなに人を感動させる。誰もやっていないから感動するとも言えるけど。

Steidlの作る本の素晴らしさも同時に知り、写真集の編集をしたい、と思うきっかけのひとつになった展覧会。(渋谷/Bunkamura ザ・ミュージアム


4.Meguru Yamaguchi「イメージの力」

HHH Galleryで観ることは叶わなかったものの、今年は池ノ上のQuiet Noiseと銀座のBasement Ginzaで山口さんの作品を観ることができた。

実体を持ったペインティングの躍動感たるや……!今まで出会ったことのない表現。混ざり合って飛び散る色。軌道であり、立体でもある。空間を一気に変えてしまう力がこのアートピースにはある。

後日、オープンしたばかりのBasement Ginzaの最初の展示も山口さんだったので、もちろん行った。(池ノ上/Quiet Noise arts and break


5. 加藤孝「日々」

アリクという、ひとつの居酒屋から生まれた写真集『日々 “HIBI” TSUKIJI MARKET PHOTOGRAPH』にあわせて開催されたもの。

アリクの店主・ヨッシーさんと、アートディレクターの高谷廉さん、そして写真家の加藤孝さんが見た“築地”の日々。そこには、観光気分も柵も取っ払った、生活や仕事としての築地の重みや湿度がある。これはきっと、誰が現地へ行っても感じ取れるものではなく、築地で働いたことのあるヨッシーさんがお二人を導いたから切り取ることができた景色で。それを加藤さんが写真に撮り、高谷さんがグラフィックで表現してくれたからこそこうして写真集として手に取ることができる。写真集の表現幅や役割を考えさせられる機会にもなった。

加藤さん自身の原体験を大切にした初心と、魚市場のみずみずしさが重なるとても素晴らしい写真。(表参/ショップギャラリー ピクトリコ


6. パロディ、二重の声

1970年代の日本の芸術家たちがずらりと名を連ねた、パロディ作品。横尾忠則、赤瀬川原平、タイガー立石、木村恒久、つげ義春、etc……。

展示されているものは気持ちいいくらいパクリにパクってて、芸術が自由だった時代を知った。権利や法律でがんじがらめの今には考えられないほど、のびのびとしている作品、そして作家たち。だけど、そこには人を欺こうっていう気持ちは感じられなくて(あった人もいたのだろうか)。原作を深く理解して、それを壊さずに新しい価値を与えるものとしてのパロディだった。愛に溢れてた。遊び心って、こういうことなんだろうな。(東京/東京ステーションギャラリー


7. 横尾忠則「HANGA JUNGLE」

待ってました、横尾忠則の個展!作品集では何度も観たことがあったけど、ナマやプリントはほぼ初めて。アラーキー、横尾忠則ともう80歳近くで大規模な回顧展や新作展をやるものだから、(ちょっと心配しながらも、やっぱり)楽しみにしていた。世田谷から町田は小田急の急行に乗ってしまえばあっというまで、どちらかというと会場までが駅から徒歩15分だったことのほうが遠さを感じた。都心には駅がありすぎる。

作品は、初期からここ数年のものまでずらり。インドや瞑想へと傾倒していった経緯もここで初めて知る。『一夜千夜日記』を少し読んだことがあるけれど、この人はいつも自分の体と心の感覚を確かめながら生きている。だからあんなものが作れるんだろう。魂が人間の範疇からはみ出している。

やっぱり目を見張ったのは鮮やかなシルクスクリーンポスター。商業目的でありながら自身の作品としての版画でもある。ポスター(商業)と版画(芸術)の境界を曖昧にしてしまった事の大きさを、実物を前にしてようやく知る。

巨匠のアートは宇宙。めくるめく異次元世界に魅了されたあとはゆったりと近くの公園をぶらついた。(町田/町田市立国際版画美術館


8. ミャオ族の刺繍と暮らし展

三茶のキャロットタワーは生活工房にて。中国の民族・ミャオ族が作る民族衣裳がまさかこんなに近所で観られるとは。毎日の営みの合間に作ったものとは思えないほど緻密で繊細な文様を丁寧に、重厚に縫い付けてある。

ファッションとして見ることもできるけれど、デザインにはそれぞれ祈りや意味が込められていて、着飾るというよりは、思いを受け止めるために身に着けている。子どもへの想いが一針・一糸になり、それが集まって服になってゆく。テキスタイルやパターンとしての興味で行ったが、予想以上に実物から受ける人間の“想い”が重くて衝撃を受けた。

小さな民族の中で「暮らしを生きていく」のは、いま自分が生きている世界とは全く違う。私には、「やりたい仕事」「会いたい人」「なりたいもの」「行きたい場所」がたくさんある。結婚して子どもを産むタイミングだって、ミャオ族の女性たちに比べたら自由だ。だけど自由であるがゆえに悩む、この選択は果たして幸せなんだろうか、とふと思う。

だけど、こうして東京に出ていろんな人に会い、今回のように知らない世界のことを知ることができるのは、幸せだと言い切れる。(三軒茶屋/世田谷文化生活情報センター 生活工房


9. Kyne「KYNE TOKYO / KYNE FUKUOKA」

Kit Gallery以来のKyneさんは、キットからほど近いGallery Targetで。俯瞰したようなクールな視線と、中性的なショートヘア、意志の強さを感じる太眉(羨ましいほど濃ゆくて太い……!)。2010年代の女性をモンタージュ的に写し取ったキネガール。

1980年代のナーゲルガールだったり、90年代の江口寿史が描く女の子だったりと、各時代の女性像を頭のなかで並べた。性別がフラットに近づき、女性にも強さが求められる今が、最も自分らしく生きられる気がする。Kyneさんの作品を初めて観たときに、胸がすくような感じを覚えた。

グラフィティの世界では、上書きするライターの影響力が強いらしい。OBEYとかバリー・マッギーとかも大好きなんだけど、これは新しい時代が上書きされた……!と確信。実は、松陰神社にもあったんだ。(原宿/Gallery Target


10. 吉田昌平「新宿(コラージュ)」

コラージュと、写真がさらに大好きになった展示。森山大道の写真集『新宿』を1冊まるごと切り刻んで再構築したシリーズ(企画そのものはブルータススの森山大道特集かスタート)。そもそも森山大道の写真のことをそこまでちゃんと知らなかったんだけど、素材として組み替えられることで、元の写真に写されているそれぞれのパートがどんな要素を持っているのかがわかってきた。コラージュすげえ……!

そして作品集のクオリティ。貼り付けられた紙の重なり(奥行き)がまるで原画のように立体的に見える。印刷なのに。いつか写真集の編集をしてみたい、と思った体験だった。

ちなみにB Galleryの下の階で、廃刊になってる河村康輔の『MIX-UP』を新刊状態で発見しソッコー買った。それも含めて素晴らしい日だった。(新宿/B Gallery

せっかく50以上観に行ったのに全然レヴューできなかったので、今年はもう少しこまめに書こうかと。覚え書き程度にはほぼすべてInstagramで更新してますので、興味のある方はご覧いただければ嬉しいです。

本を買って、いろんな方に貸出もできればと思っています。